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ここからはじまる物語  作者: 滝沢美月
第3章 蒼と碧のあいだ
19/24

海へ



 バスに揺られてしばらくすると、窓ごしに一面の青がとびこんできた。

 太陽の光が水面に反射してキラキラ光って眩しくて、私は目を細めた。

 実は今日、カンナたちと海に来ているのです。

 というのも、数日前……



 ✜✜



 クラスメイトの南沙世(みなみさよ)ちゃんと安藤(あんどう)ことはちゃんと三人で買い物に出かけた時、カンナから海に行こうというお誘いのメールが来たの。

 そのメールを覗き見た沙世ちゃんが。


「いいなぁ~、彼氏持ちは海とか行けて~」


 なんてことを言うの。私はちょっと呆れながら反論する。


「だから、カンナは彼氏じゃないし。友達」


「カンナ君って、譲ちゃんが朝一緒に登校してる子のこと?」


 ことはが、会話に興味を示して聞いてくる。


「そうそう! 毎朝一緒に登校してるのに、ただの友達だって言い張るんだよ」


 私が答えるよりも先に、沙世ちゃんが言う。

 だって、ほんとうに友達なんだもの。また、沙世ちゃんにカンナとの関係を問い詰めれて、切々と説得するのは疲れてしまう。だから、私は話題をそらそうとしたのだけど、沙世ちゃんが。


「じゃあさ、友達だって言うなら、私たちに紹介してよ! 私も海一緒に行っていいよね?」


 って、言うの。断ろうと思ったのだけど。


「私もカンナ君って子、みてみたいな」


 って、ことはまで言いだして、断りきれなくなってしまった。

 それに、みんなで一緒に海に行くのも悪くないかなと思って、カンナに聞いてみることにした。



 ✜✜



 集合場所のW海岸に向かうバス停で。


「菊池カンナです、はじめまして。いつも譲子さんにお世話になってます。こっちから東条(とうじょう)さん、河原(かわはら)熊本(くまもと)。みんなテニス部のメンバーで東条さんは二年生、河原と熊本と俺は一年。よろしく」


「よろしく」


 カンナが友達を紹介してくれて、他の三人が同時にそう言って頭を軽く下げた。

 東条さんは、四人の中では唯一の二年生というだけあって、落ち着いた大人の雰囲気がある。ちょっと癖のついた髪に、すらっとした長身、だれからも好かれる好青年といった印象。

 河原君は、色黒、眼鏡をかけててインドア派という感じだけど、体つきはがっしりと筋肉がついている。

 熊本君は、明るい茶髪でノリが良いけど、ちょっと遊び人なかんじ。


「桜庭譲子です。南沙世ちゃんと安藤ことはちゃん」


 私は二人を紹介した。




 そして今、私、沙世ちゃん、ことは、それからカンナ、東条さん、河原君、熊本君の七人で、海岸に向かうバスに乗っている。

 バスの中、沙世ちゃんがまたあの話題を持ち出す。


「ねっ、カンナ君と譲子ってホントは付き合ってるんでしょ?」


 直球でカンナに聞くものだから、私は焦ってしまった。だって、はっきり言われたわけではないけど、少なくともカンナが私の事好きなのは知ってるのに。そんなカンナの目の前で「友達」と言い切るのは勇気がいった。

 私がしどろもどろしていてる横で、カンナは爽やかな笑顔で言った。


「あはは、沙世さん、直球ですね。まぁ、ぶっちゃけ僕は譲子さんの事好きですけど、今はまだ友達です」


 そんなことを、しれっと言う。

 ってか、ぶっちゃけ僕ってなんですか……、カンナったらキャラが変わってないかい?


「えぇ~、付き合っちゃえばいいのにぃ~」


 沙世ちゃんがそう言って、後ろから私を肘でつつく。

 いっ、痛いからやめてよ、沙世ちゃん……

 っと、思ってても反論できず。


「まぁまぁ、沙世ちゃん。そういうのはタイミングだから」


 そう言って、笑顔で助け舟を出してくれたことはだったけど、実はことはって笑顔の裏で何か企んでそうだから怖いんだよね。


「沙世さんとことはさんは何か部活やってるんですか?」


 熊本君がそう言って話題が変わって、私はほうっと息をついた。みんなが話に夢中になってるのを確認してから、そっとカンナに話しかけた。


「カンナ、ごめんね。せっかく海に誘ってくれたのに、友達も一緒にってお願いして」


 そう言って私は、両手を合わせて謝った。


「別に大丈夫だよ。大勢のが楽しいしね」


「ほんと、ごめんね……、遊園地の時も大勢だったし、カンナは二人きりで出かけたいって言ってたのに、結局行けてなくって……」


 そう言う私を、カンナが真面目な顔で見つめる。その瞳の中に、魅惑的な光が宿って。


「そんなに謝られてばかりだとな、どうせならありがとって言ってくれる方が嬉しいけど」


 それを聞いて、私は申し訳なく思ってまたごめんって言いいかけてたのを言いなおした。


「海に誘ってくれて、ありがと。今日は楽しもうね」



 

 海岸に着いて、バスを降りる。夏休み中ということもあって、海岸は大勢の人で埋め尽くされていた。

 私たちは、着替えをするために海の家に向かった。

 海の家もたくさんの人で込み合っていて、狭い空間でどうにか着替えを済ませる。着替え終わって横を見ると、沙世ちゃんが念入りにお化粧を直して、髪をセットしてる。ことははと見ると、ちょこんと座って荷物を整理してた。ことはは肩までのウェーブヘアを無造作に垂らしたままにしている。沙世ちゃんの支度が終わるまで、私も髪をもう一度結い直すことにした。

 三人の支度が終わって更衣室を出ると、すでに着替え終わったカンナ達が海の家の食堂の小上がりに座って待っていた。


「お待たせ~」


 気合いの入った沙世ちゃんが言う。



 ✜✜



 更衣室で。

「私、熊本君、ねらっちゃおうかな」

 って、言ってた沙世ちゃん。沙世ちゃんが海に一緒に行くと言い出したのは、カンナを見たいっていうのも理由だけど、もう一つに、出会いを求めてだったみたい。



 ✜✜



 海岸に出て、適当な場所にシートを引いて、海の家でレンタルした大きなパラソルを広げる。

 今日は、雲一つない晴天で、空の青と海の青とそのあいだの青がグラデーションになっていてとても綺麗だった。

 シートを広げ終わって、荷物を置くと、沙世ちゃんが元気に言った。


「さぁー、海に行こー!!」


「でも、誰か、荷物番してないといけないわね。交代でする?」


 って、冷静なことは。


「あっ、私、日焼け止め塗りたいから、先に行ってていいよ」


 手を挙げて言う私。そんな私を見て、カンナが口を開いて何か言おうとしたのだけど。


「じゃあ、俺、譲子ちゃんと荷物番するよ」


 って、東条さん。


「東条先輩おねがいしまーす」


 カンナは何か言いたそうにしてたけど、そう言った熊本君に連れられて波打ち際に向かっていってしまった。




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