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ここからはじまる物語  作者: 滝沢美月
間章 同窓会・・・その後
18/24

デート前夜革命



 夏休みが始まって一週間が経った。

 私は、午前中は部活へ行き、お昼ご飯を食べに一度家に帰ってきてから、午後は市の図書館に夏休みの宿題をやりに行っていた。

 その日も、市の図書館の談話室で本を何冊か借りて読みつつ、勉強をしていた。




 トン、トン。

 肩をたたかれて振り向くと、そこに御堂君がいた。


「隣、いい?」


 そう聞かれて、うなずく。

 御堂君は、椅子を引いて私の横に座ると、鞄からノートや参考書、筆記用具を出して、黙って勉強をし始めた。

 だから、私も黙ってやりかけの問題集をまた解き始めたの。




 問題集をきりのいいところまでやって、ふぅーと一呼吸。

 ぱたんと、問題集を閉じる。

 ふと、隣を見ると。

 御堂君が片肘を机について、こっちをじぃーと見てて目が合った。


「終わった?」


 そう聞く御堂君の机を見ると、すでに問題をやり終えたのか、参考書などは閉じられて、綺麗に脇に片付けられていた。


「うん。今日はここまでで終わりにしようと思って」


 御堂君は、私の勉強が終わるのを待ってたようで、そう言うと、小声で聞いてきた。


「桜庭は、よく図書館来るの?」


「夏休みになってから、平日はだいたい来てるかな。御堂君もいつも来てるの?」


「いや、俺は調べ物があって来たんだ」


「そうなんだ」


「桜庭、中学の時も、学校の図書室によく行ってたよな」


 御堂君が思い出したように言って、ふっと笑った。


「よく覚えてるね……、そんなこと」


 私はちょっと恥ずかしくなって言うと。


「ああ、覚えてるよ」


 懐かしそうに言って、うっとりするような甘い顔で笑った。




「また……図書館来ようかな」


 そう言って、ぐぅーんと、両手を上に上げて、座ったまま背伸びをする御堂君。


「まだ調べ物があるの?」


 私が、首をかしげて聞くと。


「いや。図書館に来て、また桜庭に会えるなら、来てもいいかなと思って」


 くすっと笑って言った。

 その言葉に、ドキンって、私の胸がはねた。

 自分でも、カァーッと、一気に顔が赤くなってくるのが分かった。

 御堂君は、そんな私を涼しげな瞳で斜めに見て、ふっと笑ったの。



 ✜✜



 それから、本当に、御堂君は毎日図書館にやってきた。

 私が勉強してると、声はかけずに隣に座って、読書したり勉強したりして、私がきりのいいところまで終わるのを待ってから、少し話して、一緒に帰るのが定番になっていた。




「図書館なんて、めったに来ないけど、涼しいし……いいな」


 図書館からの帰り道。

 御堂君が感慨深げに言った。


「だよね、私も図書館好き。なんか落ち着くんだよね」


 くすっと笑って、私も頷いた。




 ピロロン。

 携帯が鳴って、みるとカンナから電話だった。

 御堂君は私を見る。


「電話?」


「うん」


「どうぞ」


 そう言うから、私は電話に出た。




「もしもし」


『…………』


「うん、今大丈夫だよ」


「うん、日曜日の10時にM駅ね。うん、うん。クスクス。大丈夫、わかってるよー」


 そう言って、私は電話を切った。

 携帯を鞄にしまってると、御堂君が前を見たまま聞いてきた。


「もしかして、菊池?」


「えっ?」


 私は、ドキンっとした。

 まさか、御堂君の口からカンナの名前が出てくるとは思わなかったから。

 それに、今の会話でわかっちゃうなんて……


「菊池と、日曜出かけるの?」


「うん。実は、同窓会の次の日に遊ぶ約束してたんだけど、私もカンナもオールしちゃって。それで、予定をずらして、日曜に遊園地に行くことにしたの」


「そう……」


 言って、御堂君の涼しげな瞳が、一瞬、いらだたしげに光ったように見えて。

 私は、びっくりして御堂君を見上げると、御堂君ははっとしたように顔をそむけた。


「俺も、一緒に行っていいかな?」


 振り返った御堂君が、魅惑的な甘い声で言って、私をじぃーっとみつめていた。


「えっと……」


 私は、言葉につまってしまって、うつむく。すると。

 くすっ。


「冗談だよ」


 御堂君がそう言った。

 びっくりして振り仰ぐと、そこには、息が止まりそうなほど綺麗な瞳があって、にこっと笑った。


「じゃ、俺、こっちだから」


 そう言って、御堂君は片手をあげて、分かれ道を曲がって、行ってしまったの。




 私は、その場に呆然と立ち止まって、しばらく御堂君の後ろ姿に見入ってしまった。

 御堂君が、あんな顔で私を見るから、信じられないくらい胸がドキドキしてる。

 うー、緊張した。

 まったく、なんで御堂君はやたらに色っぽいのかしら。そして、そんな色っぽい目で見つめて、うっとりするような甘い声でしゃべるのかしら。

 私は、なんだかわからないけど、どっと疲れてしまった。

 そして、とぼとぼと歩きだして家路に着いたのだけど。

 御堂君に翻弄される日々は、はじまったばかりだということに私は気づいていなかった。




 そうして、二日後。

 カンナと、約束した遊園地の駅には、なぜか御堂君と、そして、中野と夕貴もいて……

 カンナとのデートは、デートと言えない形で終わったのだった。




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