同窓会・・・直前
お昼ごはんを食べ終わって部屋に戻ってくると、机の上の携帯がメール受信を知らせてピカピカと光っていた。
携帯を開いてみると、カンナからのメールだった。
『From:菊池 カンナ
subject:明日
本文:T駅に集合でいいかな?
映画もあるし、カラオケもあるし……何するかは行ってから決めよう。
実は、いま起きた……』
✜✜
七月に入ってから。
カンナとは、放課後はそれぞれの部活が忙しくて、朝も、大会前のカンナは朝練がいつもより早くから始まったりして、ほとんどすれ違っていた。
だから、遊ぶ約束はしたものの、具体的にどうするかとか決められないまま、時間が経っていった。
七月二十日、終業式。
その日、久しぶりにカンナに会った。
「おはよ、譲子さん」
久しぶりに見たカンナは、日焼けして、すこし黒くなっていた。
「おはよう、カンナ」
私は、カンナが朝練で一緒に登校できない間は、久しぶりに読書を楽しんでいた。読んでいた本を閉じて、鞄にしまう。
「明日から、夏休みだね」
そう言うと、カンナはうんざりした感じで。
「あー、もう夏休みとか関係なく部活だからなぁ……、さすがに今日は部活ないけど」
部活がんばってるカンナだけど、七月に入ってからは朝も放課後も土日もずっと練習だったから、すごい疲れてるみたい。
昨日までの三日間は夏の大会があって、それで一段落なのかと思ったら、まだ八月にも大会があるらしく、夏休み中もハードに部活があるんだって。
「夏休みも忙しそうだね」
私が疲れた様子のカンナを見て苦笑すると、カンナも苦笑して。
「うん、でも好きでやってるから。それに、夏休みも譲子さんに会えるって思えば頑張れるよ」
にこっ。
言って、うっとりするような甘い顔で笑う。
うっ。
ずるい。
そんな素敵な笑顔を見せられたら、好きになっちゃいそうだよ。
そうして、二十五日以外にも、夏休みに会う約束をさせられてしまったのだった。
✜✜
私は、携帯を両手で持って、カチカチとメールを打ち始めた。
『To:菊池 カンナ
subject:OK
本文:それでいいよ。何時に集合?
私はもうお昼ごはん食べたよ。もう少ししたら出かけるんだ』
ベットに座って垂らした足をブラブラさせながら、時間を確かめた。
今は午後一時。
同窓会は六時からだけど、少し早めに行って買い物でもしようかな。
実は、同窓会をやるたぬき亭があるのも、明日、カンナと会う約束をしたT駅なの。
メールを打ち終わって携帯を鞄にしまい、家を出た。
学校に行く時に乗るのと同じ電車に乗って一駅。そこで乗り換えて一駅。T駅に着く。
T駅はこのあたりでは一番大きな駅で、駅前にはデパートや大きなショッピングモールもある。
たぬき亭はそのショッピングモールの側にあるお店で、中三のクラスメイトだった中野の両親がやっている洋食屋さん。コロッケがとってもおいしいの。
中学の卒業式の打ち上げも、そのたぬき亭でやっている。
T駅に着いて、ショッピングモールに向かって歩いてると、携帯が鳴ったことに気づく。
『From:菊池 カンナ
subject:10時でいいかな?
本文:そういえば、今日同窓会だったっけ? 楽しんできてねー
俺も、今から友達と出かけるよ』
カンナからのメールだった。それともう一件。
開いてみると……
『From:須藤 奈緒
subject:無題
本文:今日の同窓会が終わった後に、話したいことがあるの。
聞いてくれる?』
奈緒からだった。
なんだろう……聞いてほしいことって……
すっごく嫌な予感がするのは、私の気のせいかしら。
奈緒とは、今でも友達だと思ってる。でも、奈緒の方はどうなんだろうか。
奈緒は、御堂君と付き合い始めてから、私とはめったに遊ばなくなったし、卒業以来メールは時々してたけど、会ったことは一度もない。
そもそも、御堂君に私と話さないでって言ったのも、奈緒なんだよね……
奈緒はもしかしたら、私の気持ちに気づいていてて、だから私と御堂君を話させないようにさせたのかしら。
その奈緒が、今さら、私に何の話があるというのだろう……
そんなことを悶々と考えながら歩いていたら、人とぶつかってしまった。
ドンッ!
「あっ、ごめんなさい……」
相手の顔を見ずに、ペコペコ頭を下げて謝る私。
そしたら。
「桜庭?」
その声を聞いて顔を上げると、御堂君が目の前に立っていた。
「えっ、あれ、御堂君?」
まさか、ぶつかったのが御堂君だったなんて。
びっくりして、しばらく見つめていると。
「もしかして、桜庭も中野に呼び出されたのか?」
「えっ、中野?」
突然、中野の名前が出てきてびっくり。
なんで、中野?
私が、ぽかんとして、首をかしげてると。
「あれ、違った? 俺は、中野に同窓会の準備手伝えって呼び出されたんだけど……」
そーいえば、夕貴も同窓会の準備で午前中からたぬき亭に呼び出されたって、電話で言ってたな。
「あー、夕貴も呼び出されたって言ってたけど、もしかして、手伝い足りないのかな? 私も行った方がいいかな?」
特に目的があって早く来たわけでもないから、手伝いに行こうかな。
「あー、まあ、人手は多いに越したことはないと思うけど。大丈夫?」
用事があって早く来たんじゃないのか、って御堂君が聞く。
「うん、ぶらぶらしようと思って早く来ただけだから、手伝うよ」
それで、二人でたぬき亭に向かった。
しばらく歩いて、手に持ったままだった携帯に気づく。
あっ。
カンナと奈緒に返信しないと……
「ちょっとメールしてもいい?」
いちお、一緒に歩いてる御堂君に聞いてみる。
「ああ」
御堂君が頷く。
さて、なんと返信しよう……
携帯画面を顔の前に掲げて、うーん、うーんと悩む。
とりあえず、カンナから返信しよう。
そう思って、受信ボックスからカンナのメールを選んで“返信”を押す。
『To:菊池 カンナ
subject:了解!
本文:十時ね。
そう、同窓会。いま御堂君に会って、一緒に向かってるとこだよ』
そこまで打って、こんなこと書いちゃいけないなっと思って、二行目を消しにかかる。
ピッ、ピッ、ピッ……
考えながら両手で携帯を操作してたから、歩くのが遅くなっちゃって、いつの間にか御堂君と離れていた。
小走りで御堂君に追いつくと、御堂君が私の手元を見て。
「メールって、こないだ一緒だったN高のヤツ……?」
「えっ?」
急にそんなことを言われて、携帯のボタンをいじってた手がぶれる。
ピッ。
「あっ!」
あわててボタンを押したものだから、ボタンを間違えて書きかけのメールを送信してしまった……
「大丈夫?」
御堂君が、眉根をよせて聞いてくる。
「だいじょうぶ……」
「N高のヤツにメール?……もしかして、付き合ってるの?」
まさか、御堂君にそんなこと聞かれると思ってなくて。
びっくり。
「メールは……そうだけど、付き合ってはいないよ」
電車でカンナと御堂君が会った時、付き合ってるとか誤解されてたらどうしようって思ったけど、御堂君からこの話題に触れてくるなんて思いもしなかった。
もし誤解してるなら、誤解を解きたいって思ってた。
だからちゃんと言わなきゃ。
「N高の彼は、あっ、菊池君って言って。たまたま電車で話して友達になったんだよ」
ドキドキっ。
これで、ちゃんと伝わってるかな……
「そうなんだ……」
そう言った御堂君を見上げると、涼やかな眼差しで前を見ていた。
それから、御堂君はずっと無言で歩いてて、あっという間にたぬき亭に着いてしまった。
だから、私も、すっかり忘れていたの……
カンナに、間違って書きかけのメールを送ったことも。
奈緒から来たメールのことも。
すっかり。