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サイコロ

作者: 雪猫
掲載日:2026/10/28

神はサイコロを振った。

真剣な目で、出目を見た。

神は賭け事に夢中だった。


全知全能であること程、

つまらないことはない。

神は自ら全知全能を封印して、

賭け事をした。


神は不死なので、

自分の命を賭けることは出来ない。

しかし、何とも思っていないものを

賭けても全く面白くない。


神は人間を心から愛していた。

だから、人間の運命を、

泣きながら賭けの対象にした。


全能の神自身を縛るルールは、

神自身が作らなければならない。

他の者は、神を縛ることは出来ない。

悪魔如きは、

神が許す範囲でしか動けない雑魚である。


神は、現世の人間達を賭けの対象にした。

賭けに勝つことで、

幸せになる人間が増える。

賭けに負けると、

不幸な人間が増える。


神は真剣だった。

神は、自分の作った賭け事に夢中になった。


神が最初の賭けに負けた時、

最初の2人の人間が犠牲になった。

神は、心が引き裂かれる思いだった。

こんなにも強い愛情が

自分に芽生えていたことに、初めて気付いた。


もちろん、

自身で全知全能を制限することで

初めてのドキドキを味わおうという試みである。


神は懲りずに、サイコロを振った。

更に致命的な敗北を喫した。

初めての殺人が行われた。

神は激しく泣き、悲しんだ。


神は、信じ難い程、賭け事の才能がなかった。

普段、全知全能に頼っているからか、

それを自分で制限したら、

バカ正直過ぎるのか、自分の勘を信じすぎるのか

負け続けた。


負けの原因は何なのか。

100%の神が誤ることがない故に、

自身の能力を50%に制限して誤りを犯しても

『誤る』ということ自体が分からないのか。

普段完璧なので、

学習ということが出来ないのか。


困ったことに、神は、

同じ失敗を繰り返しては負け続けた。

そして、

犠牲になる人間達の様子を見て泣き崩れた。



負けが込み、

人間が何回も絶滅する程の借りが出来た。


神は、天使達の静止を振り払って、言った。


「次こそは勝つ。次こそは。

それで全部チャラだ」


「でも」


「私を誰だと思っている。

神だ。

神を信じろ」


その言葉で、天使達は

何も言えなくなった。


当然、神は敗北した。



そして遂に、返済期日がやって来た。

神は、なすすべなく、

無表情で、天を仰いだ。


その肩に、愛すべき息子が手を置いた。


息子が犠牲になり、

借りは全て返済された。


その時の神の嘆きは、

この世の嘆きの全てを合わせたよりも、

深く、激しいものだった。



さすがに、神はその後、

しばらく賭け事をやめた。

全知全能のままで、世界を見渡した。


全知全能で見る世界ほど、つまらないものはない。

全ての者が、自分の知ってる通りに動き、知ってる通りに考える。

この世に知らないことはなく、

発見も謎も、一切無い。


もちろん、自分が作った自然や動植物、人間達は好きだ。

神の計画の完成へと密かに向かう世界の、

神だけが分かる調和の美しさは快いが、

あまりに高尚すぎる。

直接に、即物的に、

心をワクワクさせるものではない。


神は、また賭け事を始めた。

愛すべき人間一人一人の運命を賭けたゲームに、

神は熱狂し、歓声を上げ、泣き崩れた。


その背中を、復活した息子が、

少し冷めた目で見つめていた。

息子の母親は、血の涙を流していた。


最後の時が来るまで。賭け事は続くだろう。



神は今日も、

人間への愛に満ち、

人間の幸せを本気で願っている。


サイコロを振りながら。



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