姉の婚約者はどうやら私がお好きなようで
「レニエ、君が好きだ。付き合ってくれないか?」
と金髪碧眼の王子様といえば、というような容姿をする青年に、今、私は告られている。
「は?」
とつい反射で返してしまった。
告白されるのはよくあることなのであまり驚きではない。
婚約の申し込みは、冬の間に暖炉の薪代わりに使ったとしても火が消えることがないくらいには届く。
送られてくるプレゼント一つで平民の家族(父母子)が一年間働かなくとも衣食住に困らないほどのものがポンポン届く。
今までに貢がれたプレゼントで一生暮らせるくらいは届いている。
でも、彼に、レオナルドに告白されるのは、予想外だったのだ。
幼い頃からの付き合いであり、3つ年上で兄のような存在で私は彼を『レオにぃ』と呼び慕っていた。
…そして、何より、1ヶ月後、レオナルドは私の義兄になるはずだった。
私には前世の記憶があった。
前世に特に思い入れもなかった私は自らの死にさほど驚きもしなかった。
レニエラ・フォン・ヴィエラ。
それが私の今世の名前。
ヴィエラ公爵家の次女であり、父譲りの美しい銀髪と母譲りの空色の瞳、母に似た愛らしい顔立ちを持つ少女であり、社交界の花、天界から舞い降りた天使、心優しい聖女様、などなど。
今世の私は自分でも把握できないくらいの二つ名を持っていた。
姉のヴィオレッタは母譲りの美しい金髪に父譲りの赤い瞳、父に似た凜とした顔立ち。
ヴィエラ公爵家の長女で小公爵。
この国では女性当主も認められており、伴侶がいないと爵位を継承できない、などと言うことはない。
姉のヴィオレッタは貴族らしい貴族で、レオナルドとの結婚もあくまで政略のためであると割り切っていた。
その反面、私には相手は好きに選べばいいと言う。
案外私には甘かったりもする。
「レニエ?」
とレオナルドに呼ばれ、現実に引き戻される。
「姉様との婚約は、結婚はどうするおつもりで?」
と声を絞り出して聞く。
「どうするつもりもないが?」
とレオナルドが言う。
は??何を言っているんだ?
「えっと?もちろん姉様に話を通した上で私に告白されているのでは?」
と聞く、そうならまだいいのだ、いや、姉の婚約者に告られるのはよくないのだが。
「なぜ?ヴィオレッタは関係ないだろう?」
と言う。
えっ?いや、当事者だろ?
「え?あなたは姉様の婚約者、ですよね?」
「ああ、そうだが?」
「姉様との婚約は、来月の結婚はどうするおつもりで?」
「予定通りに進める」
「えっと、私と付き合いたいんですよね?」
「ああ」
「姉様と結婚をした後、どうするおつもりで?」
「どうするつもりもないが」
「あっ、えっと?私に浮気相手に、あなたの愛人になれと言うのですか?」
とあまりに動揺して言葉に詰まってしまう。
この人は何を言っているのだろう。
彼のことは理解しているつもりだった、昔からの付き合いで、婚約だって、あちらの家からの提案だったはずだ。
「…ああ、愛人がいやなのか?ならヴィオレッタとの婚約を破棄すればいいのか?」
「い、今更そんなこと、できるわけないじゃないですか、それにあなたは姉様のことが好きで婚約されたのでは?」
「何を言っているんだ?ヴィオレッタがどうしてもと言うから婚約してやったんじゃないか」
は????姉様はそんなこと言ってない。
婚約はレオナルドが姉が好きだからと言う話だった、私が聞いた話ではそうだったはずだ。
「婚約の話はあなたの方から持ってきた話でしょう?どうして姉様があなたが好きだから婚約を決めたと言うことになっているのですか?」
「ヴィオレッタが恥ずかしがったからこちらから提案してやったのだ」
は?????話が噛み合わない。
どこをどうしたらそんな勘違いになるのだろう。
姉様と彼は釣り合わない、圧倒的に釣り合わない。
でも少なくとも姉様に誠実に接してくれると思ったから婚約に反対しなかったのだ。
レオナルドはラリア公爵家の三男だ。
優秀な長男はラリア公爵家の後継者として、そして剣の腕がたつ次男は騎士団長を。
そんな兄たちに対し、正直優秀じゃない三男、それがレオナルド。
悪いが私からしたら誠実なところ以外、特筆すべきところがない。
強いて言うならば綺麗な容姿をしているが、それだけだ。
誠実さを失った今、私からするとこの男に価値はない。
「もういいです、はぁ、あなたには失望しましたレオナルド様、姉様には私が話を通します……姉との婚約を破棄してくださいますよね?」
「ああ!」
きっとこの男は姉との婚約を破棄して私と付き合えると思っているのだろう。
……んなわけねーだろ。
テラスを出てパーティー会場に戻る。
テラスで休憩していたのに、余計に疲れた気がする。
「レニエ、今日はもう帰りなさい」
と少し視線を下げて戻っていると声をかけられる。
「…姉様?」
視線を上げると目の前に姉様がいる。
「帰りなさい」
と姉は私に冷たく言い放つ。
この場面だけ見れば姉が妹に対して冷たく帰るように言っているように見えるだろう。
だが、私は姉が心配して言ってくれているのを知っている。
「姉様、レオナルドとの婚約を破棄してください」
と私が口を開くと少し驚いた顔をする姉。
「…理由は?」
「これを後で確認してください、あまりにも意味がわからなくて頭が痛くなるかもしれないので気をつけてください」
と言って私は胸元につけていたブローチを渡す。
このブローチは姉が私に渡している録画録音ブローチだ。
パーティーに行く時に撮っておくことで何かあった時の証拠にできるから、と姉に渡された。
いわゆる魔道具と言われるもので、録画、録音、どちらか片方だけでもとても高価なのだ。
それを両方とも、想像も付かないほどの価格だろう。
「わかったわ」
と言うと姉は私に背を向けてパーティー会場に戻っていく。
小公爵としての仕事がまだあるのだろう。
私はそのまま待たせている馬車に乗り、家にかえった。
その後はトントン拍子に話が進んだ。
姉と彼との婚約は破棄された。
ラリア公爵は突然の婚約破棄に慰謝料を請求してきたらしいがブローチの映像を見た途端、顔色を悪くし、謝ってきたという。
もちろん、私と彼が付き合うなんてこともなかった。
流石に“心優しき聖女様“と言われる私も頭にきたので存分に噂を流してやった。
婚約者の妹に迫ったクズ、など、事実なので噂がなかなかなくならない。
もちろん私がそんなことを言ったわけではない。
私は
『レオナルド様にかぎってそんな意味で言ったわけではないと信じています』とか。
『私が好きだと言うのは光栄ですが、レオナルド様は本当に兄のように思っていたので、、、、』とか。
そう言うことを言うだけで周りはうまく噂を流してくれた。
彼が再度、他の条件の良い令嬢と婚約することは不可能だろう。
姉はラリア公爵家の次男と婚約をした。
剣の腕がたち評判も良く、私のことも弟の婚約者の妹だから自分の妹同然だ、と良く可愛がってくれていたので、ちょうど良かった。
何より、弟のしでかしたことを知るなり家に来て
『愚弟がとんでもないことをしでかした、申し訳ない』と言って土下座までしてくれたのに好感が持てた。
姉も
『真面目で評判も良く騎士団長で公爵家の次男、そして婚約者はなし、交際相手もいない、ちょうど良いわね、ラリア公爵との今回の件の落とし所を探していたのよ』と言っていた。
姉の婚約はラリア公爵家の次男の方と新たに結ばれた、ハッピーエンド?だよね!
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