表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2



雨の日は、客足が鈍る。

本屋の入口に敷かれたマットは、水を含んで色を変えていた。


金崎東吾はレジの奥で、積みなおした文庫本の背を指で揃える。

雨音は、ガラス越しにくぐもって聞こえた。


「これ、ください。」


差し出された一冊の本を見て、ほんの一瞬、指がとまる。

有名なミステリー作家の代表作。漆黒の背景に一輪の赤いバラ。

何度も目にした表紙だった。

理由はない、ただ胸の奥が少しだけ引っかかる。


バーコードを通すと、機械的な音が、狭く蒸し暑い店内に突き刺さる。

それだけで、思考は現実に戻った。


客が出ていくと、店内はまた静かになる。

雨音と、空調の低い唸りだけ。


東吾は小さく息を吐いた。


六月の雨は、しつこい。強くも弱くもならず、ただ同じ調子で降り続く。

店の照明に照らされた窓ガラスに、水の筋がいくつも走っていた。


閉店まで、あと一時間。レジ下の引き出しを整え、レシートの端を揃える。

やることは決まっていて、手は勝手に動く。


ポケットの中でスマホが震えた。


また、一瞬だけ動きが止まる。

それから、何事もなかったかのようにスマホを取り出した。


やっぱり。

草薙律人からだった。


短い文面で

「今日、空いてる?」

たったそれだけ。


東吾は画面を見つめたまま、数秒動かなかった。返信欄を開いて閉じる。

もう一度開いて、今度は時間を確認する。


空いてるかどうかなんて、考える必要もない。

バイトが終われば、特に予定はない。律人だってそれをわかってる。


「何時?」


送信。すぐに既読がつく。


少しして

「迎えに行く」

とだけ返ってきた。


東吾はスマホをポケットに戻した。特に、特別なことは起きていない。

ただ、レジ横の時計を見る回数が少し増えた。

 

外の雨はまだ止みそうにない。

でも、雨を理由に今日を憂鬱だともおもわなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ