【第2話】初めてのデート(3)
「今夜、泊りにこない? わたしの家」
「…………!」
おれはベンチの上でのけぞった。本当にのけぞったのだ。
人間というのは、本当におどろくと、本当にのけぞるものなのだ。
「あのね、わたしも今夜、両親が出かけていて、ひとりでお留守番なの。だから……」
「だからなんだよ! なおさら行けるわけないだろ! なに考えてんのさ」
しかしサトミは、なおもたたみかけてきた。
「わたし怖がりだから、ひとりでお留守番なんて絶対無理なの! それなのに、お父さまもお母さまも、ぜんぜん聞いてくれなくて……」
「知らないよ、そんなこと! せめて女子に頼みなよ!」
「だめなの。わたし、友だちと呼べるような子、ひとりもいないし……。親しくもない友だちの家にいきなりお泊りさせるなんて、だれの親だって許さないでしょ? だったら、両親が出かけてる、ケンヂくんにって……」
「だからって、おれは無理だよ」
「どうしても……?」
「あたりまえだろ!」
吐き捨てるように、おれは言った。
「そんな……」
がっくりと、サトミが肩を落とす。
ふたりのあいだに沈黙がおとずれた。
かわいそうだけど、いくらなんだって、これだけはどうしようもない。
親が留守のあいだに、女の子の家に泊りに行ったなんてことが知れたら、クラスメイトのうわさなんかで済むわけがない。親に大目玉をくらって、先生に呼び出されて、もしかしたらテレビのニュースに取り上げられて、謝罪会見するはめになるかもしれない。
そしたらおれ、逮捕されるんじゃないの……?
考えれば、考えるほどに、どんどんと不安になっていく。
気が動転してると、正常な判断ができなくなるものだ。
「なんだっけ、あれ……。最近、男子たちがいつも話しているゲーム」
うつむいていたサトミが、ふいに顔を上げてぽつりと言った。
「……ファイナルクエスト3?」
「そう、それ。うちにあるよ」
「うそ! だってあれ、きょうが発売日だよ」
「そうなの? でもあるよ、うちに。一緒にやらない? 朝までずっとゲームしてればいいじゃない」
ファイナルクエスト3――。
日本国民ならだれもが知っている、ロールプレイングゲームの最新作。
謎に包まれた世界を探索して心に残る感動的なストーリーを進めていく、RPGという新しいジャンルのゲームだ。
最新作のファイナルクエスト3は、発売前から行列ができるほどの爆発的なブームとなっている。
そのぶんソフトの価格は非常に高く、おれの経済状態からすれば、おぼんに田舎へ帰って、じいちゃんとばあちゃんに援助をしていただかないと、とうてい手に入らない代物だった。
「ファイナルクエストかぁ……」
心が、かなりゆらぐ。
「ううん、でもなぁ……」
ちらりと見ると、サトミはひざの上においた手をぎゅっとむすんで、じっとおれを見つめていた。
じりじりという音が、聞こえてきそうな視線だ。
つづく沈黙。
セミの鳴き声だけが、やかましくあたりに響いている。
「男なら、責任とってよね!」
とつぜんサトミは、風船が破裂したようにそう叫ぶと、すっと立ち上がっておれをにらみつけ怒鳴った。




