【第2話】初めてのデート(2)
「ケンヂくん! こっちこっち!」
約束の時間より三十分も早く着いたのに、すでにサトミは公園にいた。
まっ白なワンピースに、青いリボンのついた、つばのひろい麦わら帽子をかぶって、ひらひらと手をふっている。
初夏の日差しが、公園を流れる小川にきらきらと反射して、麦わら帽子のなかのサトミの笑顔を照らした。
思わず笑顔で手をふり返したおれは、はっと我に返り、まじめな顔で手を引っ込めた。
勘違いするな! デートの待ち合わなんかじゃないのだから……。
「もう来てたんだ。まだ三十分もまえなのにさ」
ぼそりと、そっけなく、いたって冷静にーー。
「わたしからお願いがあるのに、待たせるわけにはいかないもの。ケンヂくんこそ、こんなに早く来てくれてありがとう」
「そりゃあ、そうだよ……」
おれは、あたりを見まわした。ヒロミたちは、まだ来てないらしい。邪魔が入らないうちに、さっさと話を済ませてしまおう。
ひょうたん池のふちにあるベンチにふたりですわると、さっそくおれから切りだした。
「で、頼みってなに?」
「うん、あのね……。ケンヂくん、きょうひとりで、お留守番なんでしょう?」
「ああ、やっぱり聞いてたんだ。タカシとの話」
「聞きたくなくたって、聞こえるよ。阿部くん、あんなに大きな声で話すんだもの。怖くないの? あんな怪談、聞かされてさ」
「平気平気、あんなの作り話だもの」
「そうなの!?」
「そうだよ。あいつ、みんなが注目するような話を、毎日あきもせず考えてくるんだ。将来、児童書作家にでもなればいいんじゃないかな。まあ、結局だれにも注目されないと思うけど……。それで、頼みっていうのは?」
「うん。ええとね、そのう……」
それからサトミは、麦わら帽子のつばに顔をかくしたまま、ずいぶん長いこと、もじもじとうつむいたままだった。
月神山が鳴いているのかと思うほど、やかましいセミの声があたりを包みこむ。
池のほとりに咲いている鳳仙花のまわりでは、二匹のモンシロチョウが、じゃれあいながら飛んでいた。
なんか、本当にデートしているみたいだな……。
そう思ったとたん、顔がぽおっと熱くなった。
ちらっと横目で見ると、いつのまにかサトミは、まっすぐおれを見つめていた。
あまりにもじっと見つめるものだから、おれは顔が赤くなっているのがバレたんじゃないかと、思わず両手でほおをかくした。
「な、なに?」
サトミはおれをじっと見つめたまま、思い切ったように言った。
「今夜、泊りにこない? わたしの家」




