【第1話】竹内サトミ(2)
「だからさ、真夜中に迎えにくるんだよ!」
阿部タカシの声は、あいかわらずでかい。
クラスメイトたちがおどろいたように、おれたちに注目したあと、けげんそうに眉をひそめて、またおのおのの話題へもどっていった。
教室が、またいつもどおりの休み時間の喧噪に包まれる。
目立ちがり屋のタカシは、いつもでかい声で話をした。
はじめはみんな面白そうに話を聞きにきたが、その話のほとんどが、ただ注目されたいがための作り話であることがバレてから、だれもタカシの話を聞こうとはしなくなった。
いまでは、幼なじみのおれくらいしか、話し相手がいないのだ。
「なんでさ。両親そろって、きょうは帰らないと言って出かけたんだろ?」
タカシはおれが話にのってきたことに、満足そうな笑みを浮かべてつづけた。
「そうなんだよ! 泊まりがけの旅行に出かけたはずなのにさ、夜中にとつぜん帰ってきて『やっぱり、おまえも一緒に連れていこうと思う』って言ってさ。
こんな時間に変だなと思いながらも、その子は両親に連れられて夜の街を歩いてたんだ。するととつぜん、見知らぬ男に思いっきり腕を引っぱられた!
おどろいてその男を見ると、男はものすごい形相でその子をにらみつけて怒鳴ったんだ。
『おまえ、死にたいのか!』
気がつけば、踏切の赤い光が点滅するなか、目のまえを轟音をたてながら保線用車両が通り過ぎていったんだ。
『寝ぼけているのか? 夜中にこんなところをひとりでうろつくなんて!』
そう叱る男に、その子は言い返した。
『ひとりじゃないよ。お父さんもお母さんも、一緒だよ』
でもその子がふり返ったとたん、両親は寂しそうな表情を浮かべながら、煙のように姿を消してしまったんだ……。
あとでわかったんだけど、そのときすでに、両親は旅行先で事故にあって亡くなっていたのさ。子どもをひとり残すのは心配だからって、あの世から迎えに来たんだよ……」
タカシが真剣な目をして、おれの顔をのぞきこむ。
おれはタカシを傷つけないよう、慎重に言葉を選んでこたえた。
「うん、いいね。とくに夜中に走っている電車が保線用車両ってところがリアルで、よくできてたと思う」
「よく、できてたと思う……?」
タカシの顔がみるみるうちに赤く染まる。おれの選んだ言葉は、まちがっていたようだ。
「ちが~う! 今回のは作り話なんかじゃない! そうかおまえ、今夜はひとりぼっちで留守番だって言ってたよな。怖くって、そんな強がりを言っているんだろう?」
そしてタカシは、クラスメイトのみんなに聞こえるよう、さらに声をはり上げた。
「やだなあケンヂ! おれの怪談、そんなに怖かったかあ?」
しかし、もうだれも、おれたちの話に耳をかたむけるやつはいなかった。
タカシもそれに気がついたのだろう。しゅんとして肩を落とすと、
「オオカミ少年はつらいぜ、ケンヂ……。またいつか、おれの話につき合ってくれよな」と言って、自分の席へもどっていった。
でも、おれは気がついていたんだ。
いくつかのかたまりになって騒ぐクラスメイトたちからぽつりとはずれ、ひとり窓際にすわっている竹内サトミだけが、おれたちのことを、じっと見つめていたことを――。




