【第6話】探索(3)- 館2階のマップ -
二階左側の壁には、ふたつのドア。
手前のドアをあけると、そこはバスルームだった。
大理石の床に、トイレと、カーテンでしきられた浴槽が見える。
廊下を歩いて、となりの部屋へ向かう。
ふたつめのドアは、モスグリーンに塗られたアンティーク調のドア。
そのドアをあけたとたん、とてもいい香りがあたりにたちこめた。
「なんだろう……。甘酸っぱいような、どこか覚えのある、いい香り……」
雲の隙間から月が顔を出したのだろう。白いレースのカーテンをすかして、部屋のなかに、すうっと月明かりがさしこんできた。
籐製の鏡台に、籐で組まれたチェスト。小さなガラステーブルのむこうには、アップライトのピアノが見える。
広い部屋の隅には天蓋付きのベッドがあり、その上に無造作に置かれていたのは、見おぼえのある白いブラウスに、水色のチェックのスカート……。
「ここ……。サトミの部屋じゃん!」
あわててドアを閉めた。
どきどきと胸が高鳴っている。
女の子の部屋を無断でのぞいてしまった。このことは、絶対サトミに秘密にしておこう。でないとおれ、変態だと思われちゃう!
よくよく考えたら、サトミが寝ているあいだに、サトミの家を見てまわるなんて、ずいぶん失礼なことだ。
「いいかげん部屋にもどって、本物のゲームのつづきをしよう」
踵を返して階段を下りようとするも、シャンデリア越しに、むかい側の壁にならぶドアが目にとまる。
ここまでくると、残り少ない手つかずの部屋が気になってしかたがない。
ゲーマーの悪いくせ。
宝箱を探してダンジョンを歩きまわっていると、チェックしていない場所が気になってしかたがないのだ。
「ほんのちょっと、確認するだけだから……」
そう自分に言いきかせ、おれは館の正面側にある、渡り廊下へ向かった。
*
館二階の正面側にある渡り廊下は、ちょうど玄関の真上にあたる。
この場所にはバルコニーがあり、月明かりに照らされた広い庭園と、それらをかこむ黒い杉林がのぞめる。
窓に顔を近づけて、夜空を見上げた。
雲が流れている。
夜空のずいぶん高いところで、月がときおり顔をのぞかせていた。
満月は夕方の東の空にあらわれて、明け方の西の空へ姿をかくす――。
あの月が空にいるあいだ、おれはお姫さまを守ると誓った。
もちろん、お姫さまって言うのは……。
かあっと熱くなった頭をひとふりして、おれは渡り廊下を走り、右側の壁にならぶ三つのドアの、一番手前のドアをあけた。
「ここはたぶん、サトミの両親の部屋なんだろうな……」
ドアの隙間から、部屋をのぞく。
しかし月明かりに照されていたのは、がらんとしてなにもない部屋。
カーテンもなければ、ベッドも家具もない。
フローリングの床には埃がつもっていて、誰かが生活していた感じは、まったくしなかった。
おれは急いで、となりのドアをあけた。
むかい側の部屋と同じように、バスルームになっている。
しかし、ここも長いこと使われてなさそうな雰囲気だ。
ためしに洗面台の蛇口をひねってみたが、きゅうきゅうと乾いた音がするだけで、水は出てこなかった。
バスルームをとび出して、すぐさま、となりのドアに手をかけた。
右側の壁にならぶ一番奥のドア。二階にある最後のドアだ。
しかしそのドアは、鍵がかかっていてあけることはできなかった。
ぐるりと館のなかを見まわす。
おれの頭のなかには、もうすっかりこの館の間取り図ができあがっている。
このドアがあいたとしても、この部屋はとてもせまいはずだ。
「おかしいぞ。サトミの両親の部屋が……ない……?!」
カチャリ……。
その音は、一階から聞こえてきた。
吹き抜けから一階を見おろす。
一階左側の一番手前のドア。リビングダイニングキッチンのとなりの部屋のドアが、風にでも押されたかのように、すうっと開くのが見えた。
「まだ見ていない部屋は、あそこだけだ」
おれは誘われるように、その部屋を見つめたまま、ゆっくりと階段を下りた。




