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月神山の不気味な洋館  作者: ひろみ透夏
第6話 探索

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19/20

【第6話】探索(1)

 

「お台所は男子禁制(だんしきんせい)なの」


 わりと古風なことを言うサトミに頼みこんで、あとかたづけは一緒にやった。といっても、洗い終わった皿をふいただけだけど。


 そのあとは、生まれてから一度もゲームをやったことがないというサトミに、ファイナルクエストのすばらしさをくどくどと説明しながらゲームをすすめたが、いつのまにかサトミは、うしろのソファで寝息をたてていた。


 時計を見ると、すでに夜中の十二時をまわっている。


「さすがファイクエ、時間がたつのを忘れるな。この調子じゃ、朝なんてかんたんに迎えられそうだ」


 ソファに置いてあった、赤いチェックのストールをサトミにかけると、部屋の(あか)りを消して、おれはゲームをつづけた。




 しかし、ゲームは思いのほか早く終盤にたどりついてしまった。今回のストーリーは、いままでのシリーズとくらべると、ずいぶんと短い。


 夜霧(よぎり)がたちこめる不気味な森のなかに、ひっそりとたたずむ古城(こじょう)――。

 最後の使命は、そこにいる敵のボスをたおし、とらえられた異国(いこく)のお姫さまを助けだすことだ。



 古城のなかにふみこむ。

 しんと静まりかえった城のなかに、主人公の足音だけが(ひび)く。

 コントローラーをにぎる手にも、汗がにじんだ。



「……トイレ」



 どうもおれは、緊張するとトイレに行きたくなるくせがある。

 最後の戦いのまえに、すませるものはすませておこう。


 ゲームを中断して立ち上がろうとしたとき、ふと、洗面台の鏡にうつっていた、髪の長い女性のことを思い出した。



「トイレに行きたいからついてきてなんて、とても言えないよなあ……」


 ソファで寝息をたてているサトミを見ながら、ひとりつぶやくと、覚悟をきめて立ち上がった。

 しかし、リビングから外へ出るドアをあけたとたん、ぴたりと足が止まってしまった。

 シャンデリアの灯りはいつのまにか消えていて、玄関ホールは暗闇に包まれていたのだ。



 トイレは我慢しよう。

 一瞬、そう思ったけれど、すぐに考えなおした。


「怖がりのサトミのために、この(やかた)へ来たというのに、おれがこんなにびびりでどうする!」


 そうだ。

 おれは異国のお姫さまを守る戦士。

 ここは、夜霧がたちこめる不気味な森の古城だ。


 おれは、ファイナルクエストの主人公になったつもりで部屋から出た。



 わずかな月明かりがさしこむ、暗い玄関ホールを歩く。

 もうすぐ夏休みだと言うのに、館のなかの空気は、ひんやりと冷たかった。

 かちりかちりと時を(きざ)む、時計の針の音。

 見れば、夜中の一時五十六分。


 明るいときには気がつかなかったけど、玄関の両側のずいぶん高いところに、縦に長いアーチ型の窓が、ふたつずつならんでいた。

 ざわざわとうごめく杉林の黒い影が、窓ごしに見える。

 その影は、ぼんやりとした青白い月明かりとともに玄関ホールのなかへと入りこみ、床や階段で不気味にうごめいていた。


 背筋がゾクリとする。


 おれはよそ見をするのをやめて、一目散(いちもくさん)にトイレへ走った。

 洗面所のドアを細くあけて、手をつっこむ。

 手さぐりでスイッチを見つけて灯りをつけると、鏡を見ないよう、背中を向けながら洗面所にすべりこみ、となりにあるトイレに飛びこんだ。



「ほああ……」



 ほっと一息ついたとき、トイレの小窓から、ざわざわとざわめく木々の音が聞こえた。

 窓をあけて外を見ると、テニスコートほどの広さの芝生(しばふ)がひろがっている。


 そこは裏庭のようだった。

 そのさきにあるのは、風にざわめく竹林(たけばやし)



「玄関から入ると、目のまえに階段だろ。一階の両側の壁にはドアが三つずつ。左側の奥からふたつのドアは、ダイニングキッチンとリビング。右側の一番奥のドアはこの洗面所とトイレ。館の裏には、芝生の裏庭と竹林か……」


 ファイナルクエストで、ダンジョンを歩きまわっていたせいだろう。つい頭のなかで、間取(まど)()(えが)いてしまう。



 さて、すっかり(よう)もすんでしまった。

 おれは、すうっと大きく深呼吸をすると、意を決してトイレを出た。


 よけいなものを見ないよう、顔を上げずに手を洗い、うしろ手に灯りを消しながら、洗面所のドアを閉める。


 ミッション完了。



「なんてことないや。鏡にうつっていた女の人も、きっと気のせいだな」


 なにごともなく用をたせたことで、すこし気が軽くなってきた。

 余裕(よゆう)が出てくると、この不気味な雰囲気の館も、ゲームの世界に入り込んだみたいで面白く見えてくる。



「ちょっと、探索してみるか」



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