【第4話】不気味な洋館(2)
「ファイクエ3? ファイクエ3だ! うわあぁぁん、発売日に出会えるなんてっ!!」
ガラステーブルの上に何気なく置かれていたのは、ピカピカの透明フィルムに包まれた新品のゲームソフトだった。
「そんなによろこぶなんて、よっぽど面白いゲームなのね」
キッチンのカウンターで飲み物をそそぎながら、サトミが笑う。
「どうぞ、遠慮なくやっていいよ」
「ありがとう、竹内さん!」
おれはサトミのお言葉に甘えて、ゲームをはじめることにした。見れば、テレビのまえには、箱に入ったゲームステーションがある。
ファイナルクエストをプレイするためのゲーム機。略してゲーステ。
箱から出してテレビにつなごうとしたとき、コードなどが、まだビニール袋に入って封がされていることに気がついた。
「……えっ、もしかして、このゲーステ。買ってからまだ一度もあけてないんじゃ……?」
サトミがテーブルにオレンジジュースを置きながらうなずいた。
「うん。そのゲームをやるには、その機械が必要なんだってね。びっくりしたよ、そんな大きな箱渡されてさ。なんとか持って帰ってきたはいいけど、どうやってセットすればいいのかわからなくって……」
おれは頭から血の気が引いていく気分だった。
ゲームステーションは、まだ発売されたばかりで、とても高価なのだ。
おれなんか、これを買ってもらうために、お年玉を二年ぶん前借りしたほどだ。
「持ってるって言うから来たんだよ。わざわざゲーステを買ってまで用意するなんてさ!」
いきなり声を荒げたおれに、サトミはなんでもないようにすまして言った。
「だって、こうでもしなかったら、きてくれなかったでしょ?」
「だからってさ……。これ、高かったろ。そんなにしなくたって……」
サトミがにっこりと微笑む。
「いいの、いくらお金がかかったって。わたしにとって、きょうはそれだけ大切な日なの。だからケンヂくん、気にしないで遊んで」
サトミの気持ちは痛いほどわかる。
いくら住みなれているとはいえ、ここは人気のまったくない山のなか。しかも、この気味がいいとは言えない雰囲気の洋館で、たったひとりで夜をすごすのはつらいだろう。
「おれ、ちゃんと朝までいるからさ。絶対!」
ゲーステのコントローラーをにぎりしめながら、心に誓う。
「ありがとう」
サトミはにっこり微笑みながら、キッチンにもどっていった。
「ケンヂくん、お夕飯、オムライスでいい?」
いつのまにかエプロンをつけたサトミが、キッチンのカウンターごしに言った。
「竹内さんが作るの? おれ、手伝おうか」
「いいよ、大丈夫」
立ち上がろうとしたおれを制して、きっぱりと言った。
「ケンヂくんはゲームしてて。お料理はわたしのお仕事なの」
ぐつぐつとお湯がわく音や、とんとんとテンポの良い包丁の音が聞こえる。
こんな音を同級生が出しているなんて、とても信じられなかった。
だいたい、うちのクラスの女子といえば……。
目に浮かぶのは、コンビニの前にすわりこんで、カップラーメンをすするヒロミたち。
何気なくふり返ると、エプロンをしたサトミが、長い髪をうしろで結わいて、ハミングしながら料理をしている。
「えらい違いだ……」
じっと見つめるのは恥ずかしいので、おれはときおり、その姿を目のはしで見た。
だってサトミが、とっても輝いて見えたのだ。




