【第3話】月神山(3)
足もとがすいぶん暗い。
見上げると、黒い杉林の隙間から見える空は、もう深い藍色に染められていた。
じんめりとしめった空気が、ほおをなでる。
どこからか、くぐもったカラスの鳴き声が聞こえてくる。
もうずいぶん不気味な雰囲気なのに、怖がりと言っていたはずのサトミは、まったく平気な様子で石段を上がりつづけていた。
しばらくすると、ようやく視界がひらける場所に出た。
石段もここで終わっている。もう、山の頂上なのだろう。
まわりをぐるりと背の高い杉の木でおおわれた、まるで、人目をさけているような、不思議な場所。
目のまえに、つる草の絡みついた、さびた鉄柵の門がある。
門の両側には、赤茶色の煉瓦づくりの門柱が立ち、おなじく煉瓦でつくられた壁が、杉林のなかへとつづいていた。
サトミが門に近づく。
すると鉄製の扉が、かん高いうなり声をあげながら、左右に開いた。
「うそっ! いま、勝手に扉が開いたよ!」
「家族が近づくと、自動で開くようになっているの」
ふり返りもせずに、サトミが言った。
「えっ。てことは……、ここが竹内さんの家?」
「おじいさまが許さなかったから、お友だちを招待するのは、きょうがはじめて。さあ、どうぞ」
サトミが門をくぐる。
古めかしい外観のわりに、なんてハイテクな技術が使われているのだろう……。
おれは感心しながらも、急いでサトミの背中を追った。
門柱に、ぽうっと、だいだい色の灯りがともる。
サトミの歩みにあわせて、そこかしこに散らばる灯籠にも、ぽうぽうと灯りがともっていく。
足もとにのびる石畳。
低木にかこまれた花壇と、芝生の庭。
枯れた噴水と、苔のはえた彫像――。
大きなお屋敷に住んでいるといううわさは、本当だったのだ。
きょろきょろとあたりをながめながら歩いていると、いきなりサトミの背中が目のまえにあって、おれはつんのめりそうになりながら立ちどまった。
見上げると、まるでとつぜん、そこに現れたかのような大きな館が、ぼんやりと暗闇に浮かび上がっていた。
ざわざわとざわめく黒い杉林にかこまれて佇む、明治時代の洋館のようなサトミの家。
ふいに背中に視線を感じて、ふり返る。
杉林のあいだから、紅く輝く大きな月が、おれたちをのぞいていた。
きょうは満月なのだ。
「これはたしかに……」
ひとりで夜をすごすには、不気味すぎる家だった。




