【第2話】初めてのデート(4)
「男なら、責任とってよね!」
とつぜんサトミは、風船が破裂したようにそう叫ぶと、すっと立ち上がっておれをにらみつけ怒鳴った。
「ケンヂくんたちが、あんなに怖い怪談話するから、わたしもう、絶対ひとりじゃ無理って思ったんじゃない!」
いつもおとなしいサトミの態度とは思えないほど、うらめしい目つきで、おれを見おろしてつづける。
「今夜七時に、この親水公園に迎えにくるんだから、ちゃんといらっしゃい!」
その迫力に、おれは言葉を失ってしまった。
タカシにしては思いのほかよくできていた、あの怪談。それがこんなにもひとりの少女に影響を与えていたなんて、タカシが聞いたら泣いてよろこぶことだろう。
しかしおれにとっては、とんだ災難だ。
女の子の家に泊まるなんてことが、ヒロミ軍団に嗅ぎつけられたら最後、その日のうちにうわさが街をかけ抜けて、旅行中の両親にまで届くかもしれない。
中学受験を来年にひかえ、ただでさえ生活態度にきびしい目がむけられている現在。
それだけは、絶対に阻止しないと……。
しかし、時すでに遅し。
「なによケンヂ、もう痴話げんか?」
ベンチのうしろからとつぜん声をかけてきたのは、まさにそのヒロミと、とりまきたちだった。
「な、なにしに来たんだよ! おれ、悪いことなんか、ひとつもしてないからな!」
「ねぇ竹内さん、ケンヂに話ってなんだったの?」
おれの言いわけなど、はじめから聞く耳を持たない様子で、とりまきのエリカとユキナは、サトミに向かって問いつめた。
「そうよ、言いなさいよ! あんたいっつも、わたしたちなんて眼中ないみたいに、お高くとまっちゃってさぁ!」
「そんな……。お高く泊るって、お金なんかとらないよ。たった一晩、わたしの家にいてくれるだけで……」
「えっ?」
きょとんとするヒロミ軍団。
ヒロミたちが、サトミの言葉を頭のなかで反芻させるまえに、おれは叫んだ。
「わかった! わかったよ、竹内さん! おれわかったから、ね? もう帰って!」
「ほんと! いいのね?」
サトミがはちきれんばかりの笑顔でふり返る。
「絶対だからね! 約束破ったら、わたし一生恨むからね!」
そう言うとサトミは、するりとヒロミたちのわきをすり抜け、走り去っていった。
その姿を、あっけにとられながら見送っていたヒロミたちが、やがて気がついたようにふり返り、今度は、そのするどい矛先をおれに向けた。
「約束ってなによケンヂ! 教えなさいよ!」
「そうよ! あんた、ヒロミの気持ちがわからないの?」
「ちょ、ちょっとエリカ! よけいなこと言わないでよ!」
おれに向けられていたはずの矛先が、ふらふらと彷徨いだしたすきに、おれはこっそりとその場から逃げだした。
自転車にまたがり、きた道をもどる。
それにしても、大変なことになってしまった。
いままで話もしなかった竹内サトミと仲良くなれたのはうれしかったけれど、やっぱり、いきなり泊まりに行くだなんて、ちょっといきすぎだ。
ぼおっと顔が熱くなるのがわかって、おれはハンドルから両手をはなして、ぱんっと頰をたたいた。
「ファイクエ3だろ!」
そうだ。あのゲームをやっていれば、朝なんてすぐにやってくる。
あのときは、そう思った。
おれの人生は、まだ長いとは言えないものだけど、それでもあの夜は、いままで生きてきたなかで一番長く、そして、忘れられないものとなった。




