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#046 彼らのその後

 僕たちと神々の戦いが終わって半年。

 世界はまるで何事もなかったかのように、その日常を取り戻していた。

 デミウルゴスとジャッジメントが人類の目の前から姿を消したあの日。歴史の教科書には、後に『静寂の日』と記されることになるその日を境に、世界中を混乱に陥れていた全ての敵性存在の活動は完全に沈黙した。

 あの天を覆い尽くさんばかりの絶望的な光景は、国連主導の巧みな情報統制によって、公式には過去最大級の太陽フレアが引き起こした全世界規模の異常電磁パルスと、それに付随する地殻変動として処理された。

 人類が神に等しい存在と対峙し、その運命を自らの手で掴み取ったという真実は、各国の首脳レベルとあの戦いを生き抜いたごく一部の者たちだけの胸の内に深く秘められることとなった。

 しかし水面下では、世界は確かに、そして急速に変わり始めていた。

 後に歴史家たちが『大いなる対話』の時代と呼ぶ、その静かな、しかし確かな幕開けである。

 国連は旧プロジェクト・アンファングをその母体として、超国家的な新組織『惑星生態系調停機構(PEAA)』を設立。その主な目的はただ一つ。人類の新たな隣人となったロスト・エヴォルヴたちとの共存の道を模索すること。

 PEAAは彼らの生態系を保護するため、秩父の山間部や長野の森など日本国内の数カ所を、広大な特別生態系保護区として設定。そこはロスト・エヴォルヴたちが誰にも脅かされることなく、自らの庭を育むことができる聖域となった。

 そして、その人類と異種族との架け橋となっているのが、一人の小さな少女だった。

 鳴海潤葉。PEAAの特別顧問に就任した彼女は、その類稀なる能力で彼らの声を人類へと伝えていた。彼女という唯一無二の翻訳者(インタープリター)の存在が、この危うい、しかし希望に満ちた共存関係を支えていた。

 科学の世界もまた、新たな扉を開いていた。

 PEAAの科学技術部門では、潤葉の父である鳴海松二と紫京院玲教授が中心となり、『|共生生物学《Symbiotic Biology》』という全く新しい学問分野が驚異的な速度で発展していた。ロスト・エヴォルヴの組織と地球の植物を融合させたハイブリッド植物は、最終決戦で傷ついた地球の大気を驚くべき速度で浄化し始めていた。

 その一方で、世界は新たな火種も抱えていた。

 エンデが示した因果律干渉という神の力。クリスタル・レプリカントが遺した自己増殖という悪魔の技術。それらの禁断の果実の蜜の味を忘れられない者たちが、水面下で蠢き始めていることもまた事実だった。

 光と闇。

 希望と欲望。

 その二つが複雑に絡み合いながら、世界はゆっくりと次の時代へと歩みを進めていた。

 そんな時代を生き抜く僕たちの様子を、ここに記す。

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