プロローグ~5人の少女達~
「お前たちは本当に美しいなぁ。目に入れても痛くないくらいだ、グフフ……」
シャンデリアの煌々と光る豪奢な部屋の中。
ガマガエルのような見た目をした恰幅のいい男性が5人の少女を眺める。
部屋には毛足の長いカーペットが敷かれており、その上に猫足のテーブルと背もたれに軟らかなクッションが備えられた一人掛けのソファが5脚。
テーブルを中心に、円を囲むように配置されている。
そこにそれぞれ腰かけている少女たちは、ただの美しい少女ではない。
シャンデリアの光に反射して、眩く輝く宝石の体を持っていた。
ダイヤモンド、サファイア、エメラルド、ルビー、そしてその宝石たちの中にひっそりとガラスの体を持つ少女が縮こまっている。
「まあ、お前たちも私に見られていると落ち着かんだろう。また来るでな、今日はゆっくり休むといい」
そう言って男が部屋を出る。
そうするとバネが弾けるかのように少女たちから歓声が上がり、先ほどと打って変わった和やかで明るい雰囲気が場を包んだ。
「今日もあのキモオヤジの視線にたえられてよかったわぁー! 見て、鳥肌立ってる」
そう言ってドレスの袖を腕まくりして見せるルビー。
それにクスクス笑いながらサファイアは答える。
「ルビー、私達の体には鳥肌なんてたたないわ。そんな気がするだけよ」
「そうねぇ、でもサファイア? 私はちょっとその気持ち分かるわよ? だってあの人いつもガマガエルみたいな変な笑い方しながら私たちをジロジロ見てるんですもの」
エメラルドがサファイアを窘めて笑う。
その横でダイヤモンドはこんな風に、とゲコゲコカエルの鳴きまねをした。
それにつられてふふ、と小さく笑うガラス。
「ここの生活に不自由はないけれど自由はないのよね」
ふと、ダイヤモンドがこぼした言葉に皆がうーんと頭を抱える。
確かにここで生活をしていれば身の安全はほぼ保障されている。
ただ、自分たちを愛してくれる者はお互いしかいなかった。
――宝石として、誰かの所有物として愛されたい。
今この場から逃げ出したいという気持ちは5人とも一緒だった。
「ねえ、今夜抜け出して5人で旅をしましょうよ! 私いい案を思いついたの!」
ルビーが手を挙げて皆の注目を集める。
暖炉のそばにあったマッチを手に取り、高々と掲げて続けた。
「これで火事を起こして逃げられるんじゃない?」
「なら、これも燃やしてしまいましょう。本は好きだけど、荷物になるしあいつからのプレゼントなんて気持ち悪いわ」
サファイアは自分の蔵書を本棚から持ってくるとテーブルの上にドン、と置いた。
その背表紙には、本には似つかわしくない悪趣味な金文字が捺されている。
プレゼントした男の成金趣味を反映しているようだった。
エメラルドは屋敷の見取り図を見ながらペンを取り出すと、最短ルートの逃げ道を地図に書き起こし始める。
それに慌てたダイヤモンドが皆を制止しようと声を張り上げる。
「で、でもそれはやりすぎというか、危険じゃない…? もう少し安全な方法とか……」
ガラスに同意を求めるようにダイヤモンドは視線を向けたが、人一倍熱に弱いガラスは水で濡らしたカーテンでぐるぐる巻きにされた後であった。
これでは、とても返事のできるような状態ではない。
「……はぁ、ばれないように決行はみんなが寝静まった深夜ね」
ダイヤモンドが観念したようにため息をつくと、皆はわっと歓声を上げ「静かに!」と窘められながら着々と準備を進めるのであった。
――――――――――――
「火事だー!!! 早く消火を!!!」
黒煙が立ち上る中彼女たちは走った。
振り返ってはいけない。走って、走って。この屋敷を出れば希望があると。
そう思っていた。この時までは。
「おぉ? お前ら例の糞親父のお宝ってやつか」
裏口の扉を開けると、帽子を目深に被った男達が逃げ道を塞いでいた。
彼女たちは絶望した。自分たちに彼等を振り切って逃げることも戦うこともできない。
「あ、あぁ……みんな、どうしよう、私……」
「もう、お終いね……」
ガラスがぽろぽろと涙を溢し、サファイアは冷静にこの逃げ場がない現状を受け入れた。
ダイヤモンドとエメラルドもおとなしく捕まったが、ルビーだけは最後まで抵抗し無理やり縄で縛られた。
「途中で逃げられないように薬で眠らせておきますか?」
「そうだな、人間じゃないから効くかは知らねえが、まぁ強めに焚いておくか」
「お前ら! マスクしとけ! 眠っちまうぞ!」
少女たちが眠りにつくまでにはそう時間は掛からなかった。
最後に聞こえたのは、家屋が崩れる大きな破壊音と人々の悲鳴。
絶望の中で少女たちは眼を閉じた。
――――――――――――
少女たちが目を覚ますと、薄暗い空間に5人。
あの屋敷と同じような趣味の悪い椅子に座らされている。
手足は逃げられないよう縄で椅子に縛られ、横並びに並べられていた。
「私達、どうなっちゃうの……?」
ガラスが泣きそうになりながら皆の顔を見渡す。
他の4人の顔も不安げでこれから起こることが一体何なのか恐怖に怯えている。
ブーーーーーーーーッと大きなサイレンが鳴った。
途端、目の前にあった壁のようなものが上にせりあがっていく。
それによって5人はこれがカーテン、もしくは暗幕だったと気づいた。
「それでは、本日最後の目玉商品。宝石の少女です!」
自分達に当てられる眩しいスポットライトに目を細めながら、彼女たちは目の前の景色に絶望する。
少女達を好奇の眼差しで見つめる、あのガマガエルのような瞳がそこには並んでいたのだ。
1次創作の処女作です。自分の幼少期から好きだった美しいもの、人生の中で得てきた命の大切さ。
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