永遠のJKDK
青空をバックに、絵に描いたような入道雲が湧いた去年の夏。
夫は私にせがんだ。
最後のお願いだから、と言って。
その「最後」はアテにならないが、言い出したら聞かない人だから、観念して応じる。
手渡されたのは、半袖のブラウスとグレーの膝下スカート、それに同系色のソックス。
孫が通う高校の制服だ。
夫はといえば・・・
何やら、そそくさと着替え始める。
白い半袖のカッターシャツに、ライトグレーのスラックス。
ピンストライプのネクタイをわざとルーズに締めている。
「それ、どこで手に入れたの?」
「いやー、何でも揃ってるんだなあ。あまぞんって。」
・・・しょうがない。
奥の部屋に入り、覚悟を決めて着替える。
「おばあちゃん、サイズぴったりじゃん! バチ可愛い!」
居間に戻ると、制服の持ち主、孫娘が増えていた。どうやら夫と結託していたようだ。
「さあさ、庭に出て! いい雲が出てるうちに撮っちゃおう。」
孫娘に促されるまま、ツッカケで表に出る。
足元は写さないから、それでいいそうだ。
シャーッと、蝉しぐれが降り注ぐ。
私と夫は、透明な青空、白と灰色が入り混じった巨大な入道雲をバックに立つ。
「なんか、ポーズ!」
孫が催促する。
「ポーズって・・・わかんないわよ。」
夫はいろいろなポーズをとって試していたが、最終的に右手を肩のあたりに上げ、ヒッチハイクのようなポーズをとって『イエィ!』と言った。
元来、負けず嫌いな私も、夫に対抗してポーズをとる。左腕を上げ、額に手をかざし、少し眩しそうにしながら微笑む。
その瞬間。
軽い目眩とともに、××年前に若返ったような気がした。
「うん、いーよいーよ!」
孫は、やや下からアオリめのアングルで、スマホのシャッターを何度もタップする。
画面をスクロールして候補写真を見せてもらい、その中の『一番』を選んだ。
それが、私達夫婦の最後の一枚となった。
大伸ばしにしたその写真はフォトフレームに入って、今でもテレビ横の壁に架けてある。
葬式の遺影もそれにしてくれと夫に頼まれたが、私はまだまだ生きるんだから、道連れにしないでと笑って断った。
新盆の今日も、あの日に負けない青空と入道雲。
キュウリやナスで作った精霊馬や盆提灯、お供えを用意し、庭では息子夫婦と孫娘が迎え火を焚いてくれているが、夫はそうそうココには帰って来ないだろう。
何せ、男子高校だったとかで、それはそれで悪くなかったが、ちょっぴり残念な青春を送ったらしいから。
今ごろ、入道雲のてっぺんで高校男子のコスプレのまま、青春を楽しんでいるに違いない。
この浮気者め。
空のてっぺんから、
「イェイ!(遺影)、オレは待ってるぜ!」
というダジャレが聞こえた、ような気がした。
やだ。
私はもうちょっとだけ、ばあちゃんライフを愉しむんだから。