両片想いからの
「すずちゃん、ちょっといいかな?」
「うーん、夕べちょっと夜更かしして寝不足だから、明日でもいい?」
今日こそは思いを伝えようと決心したんだけど……やめておいた方がよさそうだ。
◇ ◇ ◇
「そうた君、昨日は悪かったね。私からも伝えたいことがあって……」
「すずちゃんごめん、歯が痛むから歯医者を予約しちゃって……また今度でいいかな?」
「わかった」
えー、せっかく勇気を出して誘ったのに。
◇ ◇ ◇
アタシが担当する、幼馴染みの女の子と男の子。
いわゆる『両片想い』ってやつで、お互いがお互いを好きなのに、その気持ちを打ち明けられずにいる。それを知っているのは、キューピッドのアタシだけだ。タイミングが悪いのか何なのか、意を決してどっちかが告白しようとすると、どっちかが都合が悪くなる。
これは、一度や二度ではなく、ここのところずっとそれが続いている。
どうしたものか。このままではアタシが……
「それは、『バイオリズム』というヤツじゃ、キューピッ娘君」
「あー、ビックリした! 急にカットインしてこないでくださいよ、キューピー魔王ネーズ先生!」
「コレコレ、せっかくワシが親心で手を貸してやろうと言うとるのに。そんな邪険に扱うでない」
「それはすみません。でも折角ですが、手助け無用です。あの二人はお互いのことが好きなので結ばれるのは時間の問題です」
「それが、そうはいかんのじゃ。あの二人の『波長のズレ』はなかなか手強いぞよ……それに、君はこのノルマを達成できなければ、キューピッド試験に落第してしまうのではなかったのかな?」
ズキ! その通りだ。
実はキューピッド試験は二度失敗していて、今度不合格だと、キューピッド・スペシャリストの資格は一生貰えない。
「そうでした……マオネーズ先生、なにかアドバイスをビシッといただけますでしょうか?」
「こらこら、人のことをマヨネーズみたいに呼ぶでない……そうだな、君は才能も知能もないが、人一倍努力をしているので、わしがひとつ、手助けしてあげようでではないか」
「今さらっと人を馬鹿にしましたね、まあそれはいいとして、せっかくなので、お助けください……ところでさっき、『バイオハザード』とかおっしゃってましたが、なんですかソレ?」
「……バイオリズムじゃ。人には心、体、知性の好調不調の波があってな。あの二人は見事にそれがズレておる」
「それって、どっちか一方が告白しようと決心したとき、もう片方が何かの理由でう受けいられなくなっているっということですか?」
「その通り」
「あー、納得! あの二人なんか波長が噛み合ってないなあって思っていたんです」
「それに気づいておったのは褒めてあげよう」
「ありがとうございます……でも、それって相性が悪いってことじゃないですか? 諦めた方がお互いのためだと思うんですけど」
なんだか試験と称して、無理難題を押しつけられているような気もしてきた。
「いいかね、キューピッ娘君。お互いに好意を持っているのに、それを取り持ってやれないでどーする! 我々キューピッド族の沽券に関わる問題だ……それにこのままだと君は試験に落第する」
「わかりましたわかりました、やりますやります……どうかお力をお授けください」
「そこまで言うのならしょうがない……では、これを譲るとしよう」
そう言ってわが師匠は自分の矢筒から普段見慣れない矢を取り出した。
「わあ、これはピンク色の綺麗な矢ですね」
「そうじやろ、君らが普段使っている弓とはちと違ってな。名付けて『リズムを変えてもいい矢』」
「なんかベタでわかりやすい名前ですね。それに最後に『矢』をつけちゃえば、いくらでも名前がつけられそうなんですが」
「……まあ、名前の通りじゃ。すずちゃんか、そうた君のどちらかに矢を刺すことができれば、バイオリズムに変化が起き、ピッタリと同調するはずじゃ。そうすれば二人は一気に結ばれること、間違いなし!」
「ぜひそれをお譲りください」
「よかろう。一本で千円ゼルのところ、三十分以内にご注文いただければ、スペアを一本おまけして千五百円ゼルと、大変お買い得になっております!」
「え、タダじゃないの? 通販みたいじゃん!」
「人生そんなに甘くない。『譲る』という言葉の意味をググってみなさい」
「しょうがないなあ」
アタシは渋々財布から千五百エンゼルを取り出して強欲先生に渡した。
「毎度お買い上げありがとうございます!……いいか、矢は二本あるが、間違っても二人それぞれに一本ずつ刺すでないぞ。一人に二本刺すのも無論ダメじゃ」
「え、どうしてですか?」
「少しは自分で考えることじやな」
○
人間時間で放課後。
アタシは高校の生徒玄関の上空で二人を待ち伏せた。
来た来た。
今日もやっている。どっちかが告白しようとして、どっちかが調子が悪くなる。
毎度毎度、同じことの繰り返しだ。
予想よりも早く二人の会話は終わり、さっさとその場を離れようとする。
私は慌てて矢筒から『取っておき」の矢を取り出して構え、エイヤと力を込めて弓を振り絞り、放った。
矢は綺麗な金色の放物線を描いて見事にそうた君のハートを射貫いた。
え、金色⁉ ……やば、間違えた!
あの金色の矢は『取っておき』といってもアタシにとっての『取っておき』のやつ。
矢を放った本人、つまりアタシが意中のカレを仕留める、じゃなかった射止める時に使えるよう、長年チャンスが来るのを待って大切に温存していた金の矢だ。
しかも。
矢を放つときに、目いっぱい力を振り絞ったので、そうた君のハートを貫通し、その先にいた、すずちゃんのハートも射貫いてしまい、二人は串刺し状態になっている。
このあと、なにが起きる⁉
それを見極めようと地上に降りたアタシに気づき、そうた君が振り返った。
そしてアタシをみて一時放心状態になったかと思うとニッコリと微笑んだ。
「ああ、ついに! 僕に天使が舞い降りた!」
そう言って高校男子が近づいてくる。
金の矢で串刺しになっているすずちゃんも引っ張られてついてきた。
この光景、天国の運動会かなにかで見たことがあるような気がする。
すずちゃんはうっとりとした眼差しを私に向けながらも対抗する。
「あら、あの子は私の天使よ」
「だけど、君は女の子、あの子も女の子だぞ」
「このジェンダーフリーの時代になに言ってるのよ!」
何やら二人、串刺しのまま口論を始めてしまった。
「なんか、揉めてるようじゃの? キューピッ娘君」
「あー、びっくりした! だからイキナリ出没するのやめてくれませんか? マオネーズ先生」
「だからマヨネーズ呼ばわりするでない……これはいったい全体どうなっとる?」
「いえ、なにも問題ないです。二人は無事結ばれました。これでミッションコンプリートです」
「そうは見えぬが?」
「いえ、一人増えただけです。すずちゃんと、そうた君、それに私の……三角関係」
「……」
「試験、合格……ですよね」
「はい不合格!」




