負けヒロは、ストーカーにはなれない
「最近さー、すごく気になってる言葉があるんだけど」
そう言ってヒロはマックシェイクをズズズと啜った。
「ああ、今年の流行語大賞ってやつ?」
私は、シェイクを半分飲んで断念した。
食道のあたりまでイチゴ味の冷たい流動体が占拠していて、下手にゲップとかしたらヤバいからだ。
「流行語なんてそんな大げさなもんじゃないよ……ほら、よく深夜の通販番組とかでやってるやつ」
「アンタそんな遅くまで起きてんの? それやめた方がいいよ、今日も授業中居眠りしてて、日本史のヨネッチに優しく起こされてたじゃん」
「あれはキモいわ……そんなことはどうでもいいの!」
「で、なんの話してたんだっけ?」
「だから、気になる言葉」
「言ってみ」
「アプローチ」
「なにそれ?」
アタシは興味を失い、残ったシェイクを太いストローでグリグリかき回す。
「それのどこが気になるの?」
「使い方よ……例えば『肌の奥深くまで浸透する独自のアプローチ』とか『腸内環境を整える新たなアプローチ』とかナレーターが説明してたりするよね?」
「ああ、確かによく聞くね」
「でしょ、でもなんかずるくない?」
「ずるいって?」
「だって、なんか効果ありそうで買っちゃうじゃない?」
「……さてはヒロさん、そのコトバに乗せられてホイホイ買って後悔してるんだろ。ダイエット食品とか、ハンドクリームとか」
「……」
「どうやら図星のようだな……でもそれって『シャアナイ語』じゃね?」
「なによその、シャアナイ語って?」
「アタシが今作った。多分さ、効果が認められてないものとか医薬品じゃないものに『効き目があります』って言っちゃダメとか法律かなんかで決められてんじゃない? でシャアナイから使ってる」
「そういうことなの? でもなんでアプローチはオーケーなのかな」
「よくよく考えると、『アプローチ』って、『接近する』とかって意味でしょう? それ以上のことは言ってない」
「そうか、なんかカッコいい語感に騙されちゃったのか」
「ホラ、やっぱ衝動買いしてる」
「うっさいわね! じゃあ、接近するだけで何も作用してませんってこと?」
「それは極端じゃない? でもまあ、中にはそういうのもあるかもね」
「なんか、とらえどころないけど都合のいい表現だなあ」
それを聞いて。
アタシと同様シェイクをもてあそんでいるヒロの顔を凝視する。
「なによ、ジロジロ見て……私の顔になんかついてる?」
「そういえば『アプローチ』って、ヒロにぴったりのコトバだなと思って」
「どういうこと?」
「いやあ、アンタちょくちょく男の子に接近するするけど、ソレ止まりでしょ。良くも悪くも相手に効いてるかどうか、よくわからん」
「おい、そこに話を落とすな……効くかどうかは、個人差があります!」




