サービスエリアで 置き去りにされたー!
「ふう、お待たせ」
私は、間一髪で危機を乗り越え、駐車スペースに戻った。
「!?」
彼が停めてくれた場所には、別の車が停まっている。
近辺を探してみたが、よく目立つ黄色いミニのオープンカーが見当たらない。
ひょっとして私、置いてかれた?
トイレ行きたいってギャーギャー騒いで愛想つかされた?
一応、車を降りた場所に戻る。
そこに停まっていた車は発進し、駐車スペースが空いた。
とそこに、黄色いミニのオープンカーが滑りこんてきた。
あっ、そうか!
私は咄嗟に歩道に並んでいるゴミ箱の影に隠れる。
ミニの助手席のドアが開いたかと思うと、猛ダッシュで女子トイレに駆け込む女性。
あれは私だ。十分ほど前の。
実は私には人に言えない『異能』がある。
それは、トイレに行きたくなって、ヤバくなった時にだけ発揮される能力だ。
私の時間だけを『超早送り』して、トイレに駆け込み、難を逃れる。
ただし、気をつけなくてはいけないのは、早送りが起きているのは私だけで、現実の世界では、モノゴトは時間通りに進んでいる。私が時間の前倒し・前借りをしている一方、『現実の私』は正常な時間の中にいるのだ。
さっき、車から降りてきた子が、まさにその人。さっき私がこのサービスエリアに着き、慌ててトイレに駆け込んで用を足す、まったく同じ動作を遅れて繰り返すのだ。
今、私たち二人は同じ時間、空間に存在している。
私は女子トイレに戻り、彼女が入った個室を確認する。そっと近寄り、ノックする。
「お取り込み中、ごめん」
「……まったく……あなただけ先にスッキリして!ずるいよ」
「で、これからどうするか、相談なんだけど……」
「え、用を済ませたら、『私が』車に戻るんだからね」
「ええ!じゃあ、私はどうすればいいの?」
「そうねえ……」
この特殊能力はちょっと厄介で、一度発動してしまうと、その日寝るまで二人はバラバラに存在する。寝ているうちにいつの間にか合体している。
今まで『トイレの危機』は通っている大学か家の近くの町中で起きていたので、そういう時はこっそりと家に帰り、寝支度をしてベッドに潜り込み、もう一人の私が帰ってきて眠りにつくのを待っていれば済んだ。
今回はちょっと事情が違う。彼氏がドライブデートに誘ってくれ、これから河口湖に向かう途中。談合坂サービスアリアの中なのだ。
ジャーっと水を流す音が聞こえ、もう一人の私が個室のドアを開けて出てきた。
手洗い場に向かう彼女に黙ってついていく。瓜二つ、というか同一の姿カタチの人間が一緒に歩いているので、トイレに入ってきた女性たちは物珍しそうにジロジロ見る。まあとにかく彼氏に見つからなければいいのだ。
「そうねえ……」
もう一人の私が繰り返しそう言った。
「選択肢は三つかな」
「三つ!?」
「うん、一つ目は、ここから何とか上りのサービスエリアに行って、ヒッチハイクして家に帰る」
「え!」
「もう一つは、二人で彼に事情を話して、二人とも車に乗ってドライブを続行する。
「ええ!!」
「三つ目は、スキを見てあんたは彼の車のトランクに潜り込んで、東京に戻ったら私が開けてあげるから、抜け出して家に戻る」
「えええ!!!」
「どう?」
「どうって……どれもムリ」
「そーかー、困ったなあ」
私と同じ顔をした女の子が向かい合って腕を組む。
「だいたいあんた、あの彼のことだけど、ホントに好きなの?」
「……それはあなたもよくわかってるんじゃないの?なんとなく、惰性でつき合ってる、気弱いし頼りないし」
「じゃあ、いいじゃん。この際やっちまうか?」
「やっちまうって、何をよ?」
「いいからいいから、一緒に来てみ。」
私は、彼女の影にコソコソ隠れながら、ついていく。
駐車場に戻ってみると、オープンカーはそこにあったが、彼の姿はなかった。
「さっき、談合坂アンパンを買うって言ってたから、今ショップの方にいると思うよ」
彼女はドアを開けずにヒョイと乗り込んだ。
「さてと。」
彼女は、ハンドル横のスイッチを押した。心地よい音がしてエンジンがかかった。
「さあ、乗んな。」
「え!乗んなって?彼は?」
「置いてっちゃおう!」
「えええ!!!」
こうして半ば強引に私は助手席に載せられ、中央道から河口湖インターで降り、湖を一周して東京に戻った。
私の分身は彼の家の駐車場にミニを停め、オープンカーの幌を上げた。
「あの、鍵は?」
「多分彼が持っているから」
こうして私たちは家に戻り、家族がいないのを確かめて、自分の部屋に入った。
彼女は私のスマホを取り上げ、LINEで彼氏にメッセージを送る。
今日はごめんね、今どこ?<
>サービスエリア……君は?
……家。クルマは駐車場に戻しておいたよ<
>何でこんなヒドイことを?
これからおつきあいを続けるうえで、
あなたのサバイバル能力をテストしておきたかったの<
>……で、テストの結果は?
明日、詳しく話してあげる。
楽しみにしてて<
今夜、寝ているうちに私と彼女は合体して元に戻る。
この事態を収拾するのは『私の私』か『彼女の私』か?
……明日はどっちだ。




