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青春映像オムニバス あなたも、青乃春(あおの はる)。  作者: 舟津湊


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好きと恋と愛の象限

「投書が届いてたよー」


書記のハルが、一枚の紙をペラペラ振りながら、生徒会室に入ってきた。

「こらこら、プライバシーに関わるんだから、そんな風に扱わないの!」と私。

「でも、投書なんてめずらしいな」副会長の幸三郎が好奇心を露わにしてハルに近づく。

「読み上げてもらっていいか?」伝票を整理中の哲也は視線を上げない。


「わかった。どれどれ……一年の女子だね」と、ハルがたどたどしく読み始める。


『こんなこと、投書していいのかわからなかったのですが、

うちの校風からしたら、こうしたほうがいいかな、と思って書きました。

私は、"大好きだったよ"って言われてしまったんです。』


哲也が作業の手を止めた。ハルが続ける。


『そう言って、彼女は私の前から去ってしまったのです。』


「お相手は女子か!」幸三郎の眼が光る。


『三か月前、図書室で彼女は初めて声をかけてくれました。最初はすごくびっくりしたけど、ちょっと嬉しかった。だんだん仲良くなって……でも、その子と会えるのは図書室の中だけ。それでも、一緒に本のことを話したり、お弁当を食べたりするのが楽しかった。』


生徒会室の真ん中にあるテーブル席にハルは腰かけた。私たちもそのテーブルに集まる。


ハルは読み続ける。

『そして昨日の放課後の図書室で、"大好きだったよ"と彼女は私に言いました。それから、バイバイって……

いったい、今までどんな気持ちで私と接してきたのか、どんなふうに気持ちが変わってしまったのか……私はそれを想像すると悲しくてしかたがありません。こんなこと投書していいのか迷いましたが、気持ちの整理をするために生徒会の方々からのアドバイスが欲しくて、書いてしまいました』


ハルがテーブルに置いたその手紙の最後には、LINEのIDが記されていた。


「生徒会って、こういう投書も扱うべきなのかな?」と哲也。

「うちの学校の運営方針からすれば、十分ケアしてあげるべき内容ね」と私。


私たちは、『私立愛求学園』の生徒会メンバー。

 校名の通り、わが校にはユニークな校訓がある。

『真の愛を求め続ける』

 この校訓に基づき、

 校則として、『法律・条令に反しなければ健全な男女の恋愛を推奨する』と生徒手帳に書かれている。

 われわれ生徒会も『真の愛を求め続ける』ことを率先し、全校生徒の模範となることが要求されている。

 生徒会の選挙方法もユニークで、男女のカップルが一組になって立候補する。二人がいかに校訓、校風にあったカップルかをペアで演説し、生徒はそれを参考にしながら投票する。

こうして生徒会幹部に選ばれたのが、ここにいる四人なのだ。


「"大好き"ってどういう感情なのかな?」ハルがめずらしく哲学的なことを聞いてくる。

「確かにね。"愛"とか"恋"とかと、どう違うんだろうな。」幸三郎がその話に乗ってきた。


私も『愛求学園』の生徒会長として、その三つの言葉の関係は常々考えていた。

テーブルの上にあったコピー用紙と筆記用具を使って殴り書きをする。

「人ぞれぞれ捉え方は違うと思うけど、よく言われるのは、恋は刹那的というか、短い時間に起きている感情かな。一方、愛は長く続く」

私は時間軸を左右にとって、左に恋、右に愛と書き、それぞれハートマークで囲んだ。


「なるほど、でもそれって、"大好き"とどう関係があるの?」

「そうね、それは相手への気持ちの強さかな」

私は上下に『つよさ』の軸をとって、下半分に『好き』と書いて、上半分に『大好き』と書いた。


それを見て哲也がコメントする。

「恋も愛も"大好き"という強い感情なんだけど、時間軸が違う、ということか」


「私はそうだと思う……で、投書の話に戻るんだけど、この投書してくれた子に何かアドバイスできないかと思って」

「お、さすがは愛求学園の生徒会長だね!」

「ハル、茶化さないでよ」

「ははは……それで、どんなアドバイス?」

「そうね、思いきって相手の子に聞いてみたらって。今、"好き"がどのくらい残っているかって。……それでこれからの新しい関係を考える」

「例えば『いいお友達でいましょう』とか? うーん、その新しい関係にその子、納得するかなあ」と哲也。

「そうだけど。このメモに書いた通り、"好き"が消えちゃえば、もうそれ以上は望めないと思うの」

私も、もっといいアドバイスをしてあげたいと思うけど、こればっかりは仕方がないだろうなと思っている。


 ◇ ◇ ◇


ハルが、投書をくれた女子生徒にLINEでアドバイスを送って一週間後。返事が来た。


「メッセージ、読み上げるね」とハル。


『ごていねいにアドバイスありがとうございます。しかし、その子はあれ以来図書室に姿を見せず、話をする機会がありませんでした』

「もう会いたくないってことかな?」幸三郎が同情の気持ちを露わにした。


ハルが続ける。

『でも、昨夜のことです、彼女は私の夢の中に現れました。それで、思いって聞いてみました。"大好きだった"ということは、もう好きが残ってないってことなの?恋が終わったということなの?と』

私たち四人は頭をぶつけながら、ハルのスマホ画面をのぞき込む。


そこに描かれていたメッセージは、

『彼女は答えてくれました。"ううん、今でも大好きだよ、恋じゃなくなったけど、今はあなたを愛してる"と』

「きゃー!」ハルが嬌声を上げた。


「ちょっと待って、メッセージ、まだ続いてるぞ。」哲也は冷静だ。


『彼女は最後に言いました。だから、私は思い残すことなく成仏できたよ……だから"大好きだったよ"なんて過去形で伝えてしまって、君を混乱させてしまってごめんね……ほんとうにありがとう、と。』


メッセージはそこで終わっていた。

私たちはスマホから視線を上げ、お互いを呆然と見つめ合った。


『図書室、ココの真向かいだよね。』ハルがぽつりと言った。

私たちは、廊下に出て、図書室の前で合掌した。


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