迷信?ご利益? 実証実験
わが『私立愛求学園』には修学旅行というものは存在せず、その代わりに『全国取材旅行』という行事が夏休み前にある。
旅行地は一人当たりの予算内なら全国どこでも選べる。
一、二年生の合同研修旅行なので、在学中に二回体験することになる。
グループ分けは自由だが、一、二年生および男女混合で四人以上が必須。宿泊はもちろん男女別室だ。
旅行前に取材テーマと計画を学校に提出し、旅行後はレポートにまとめ、提出する。
優秀なグループ上位八組は、全校報告会で発表の機会を与えられる。
「今年の取材旅行だけど、生徒会幹部メンバーで行かない?」
そう提案したのは、二年生で副会長の僕、北山 幸三郎だ。
「え、私は構わないけど、一年生の二人はいいのかしら?」
賛成してくれたのは、同じく二年で生徒会長の叶野 綾子。実は僕たちはつきあっている。
「ボクはいいけど、哲也クンはどうかな?」
そう答えたのは、一年生で書記の京野 ハル。ボクって自分のこと呼んでいるけど女子だ。
哲也クンとは、同じく一年生で会計の三条 哲也。
「俺も基本OKっす。候補地とか取材テーマは何かアイデアあるんですかね?」
実は、ハルと哲也もつきあっている。
わが愛求学園はその名の通り『真の愛を求め続ける』という校訓があり、校則として、『法律・条令に反しなければ健全な男女の恋愛を推奨する』と生徒手帳に書かれている。われわれ生徒会も『真の愛を求め続ける』ことを率先実行し、全校生徒の模範となることが期待されている。生徒会の選挙は、男女のカップルが一組になって立候補する。二人がいかに校訓、校風にあったカップルかをペアで演説し、この四人が生徒会の幹部として選ばれたのだ。
僕は取材旅行の計画を話す。
「テーマは観光地ジンクスの実証実験。旅先は愛知県と静岡県の二か所」
「もっと具体的に言って」
叶野会長のリクエストに応える。
「『別れジンクス、名古屋の某動物園』vs『縁結びジンクス、静岡の恋人岬』でどう?」
「ええ! 別れるジンクスのある場所なんて行きたくないなあ」
ハルは哲也の顔を見て同意を求める。
僕は続ける。
「まあ、聞いてくれ。まずは名古屋に一泊し、某動物園のボート乗り場で手漕ぎボートを借りる。これにカップルで乗ると別れる、というジンクスがあるらしい」
「北山君、それはちょっとどうかと……」
叶野会長が渋る。構わず僕は続ける。
「『そこで!』です。静岡に移動し、伊豆の恋人岬で縁結びの鐘を鳴らすんだ」
「なるほどー、もし別れるボートのジンクスが本物だとしても、恋人岬でヨリを戻すってわけか」
「そんなうまく行くかなあ?」
ハルは少し懐疑的だったが、好奇心も味方して取材旅行は決行されることになった。
◇ ◇ ◇
名古屋市某動物園の池にあるボート乗り場に到着。色々な種類のボートがある。この中に『ラブチャレンジ号』というピンクのボートがあって、船体には『僕たちは別れません!』と書いてあるので、これはパスする。普通の手漕ぎボートを借り、僕と叶野会長、ハルと哲也のカップルでそれぞれ乗り込んだ。
水上で二人きりで向き合うのは何だか照れくさいが新鮮でなかなか悪くない。叶野会長も微笑んで恥ずかしそうに水面を眺めている。
取材の第一弾を終え、静岡に移動し、西伊豆のホテルで一泊する。
この間、僕たちカップルの関係に何か変化があったかというと、特に何も感じられなかった。
翌朝。
朝食後さっそく恋人岬に移動する。
岬の名所を散歩しながら、先端の展望台にたどり着く。
『愛の鐘』はそこにあった。
一人ずつ、鐘を鳴らす。
一回目 自分の身を清める
二回目 相手の心を呼ぶ
三回目 恋人の名を呼び、二人の愛を海に誓う
と三回ずつ鳴らすのだが、これはなかなか照れくさい。
照れ隠しとリハーサルを兼ね、冗談交じりに僕は哲也の名前を呼び、ハルは叶野会長の名を呼んだ。
その後、本番ではしっかりカップル同士の名を呼びあい、鐘を鳴らした。
◇ ◇ ◇
実証実験の取材旅行から帰っても、特に僕たちの関係に変化はなかった。
やや肩透かし感があるのは否めない。
学校に提出する共同レポートには、多少粉飾し『ボートに乗って二組のカップルの関係はギクシャクしたが、恋人岬の鐘を鳴らすことで一層絆を深めることができた』と書き、写真付きで提出した。
しかし。
夏休みに入ってから、僕たち四人の気持ちに変化が生じた。
結果として、
叶野 綾子 & 京野 ハル
北山 幸三郎(僕) & 三条 哲也
という新たなカップルが誕生した。
ジンクスを信じているわけではないが、冗談交じりに哲也の名前を叫んだことを後悔している、いや叫んでよかったと思っている・・・一体どっちなんだ? 自分でもよくわからない。
取材旅行のレポートは上位八位内に入ったが、全校報告会での僕たちグループの発表は、謹んで辞退させてもらった。




