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愚かな家族と決別

 翌日、国王に呼ばれて小広間にやって来た。呼び出しの理由は聞かされていないが、広間に正妃や側妃、宰相や各大臣などがいる事から考えると、第一王子や実家についての説明だろう。肝心の当人らはいないが。

 その推測は正しかった。

 国王と正妃の謝罪から始まり、無事を喜ばれ(王家への信頼心は皆無だが)、昨日女官から聞かされた第一王子と実家について、改めて説明を受ける。ここで慰謝料についての話しも受けた。

 第一王子との婚約も正式に解消され、次の王太子を決める為の試験官の依頼を受けた。これに関しては王からの依頼なので『嫌です』と言えないので承諾。と言うか既に決められているので断れん。給金は出るし、試験期間完了まで王城の貴賓室に滞在許可も貰った。実家の状況によっては延長も可能。

 ……承諾しておいてなんだが、待遇が良過ぎないかと、妙な警戒心が起きる。

 考えすぎであって欲しい。



 しかし、懸念で終わらないのが自分だった。

 この翌日の午後。

 弟が見舞いと言う名目でやって来た。父は面会禁止。離縁された母は実家からも縁を切られ、この国で一番厳しい修道院に送られた。性根を色々と直して来いと言う奴だ。

 そして妹は、今朝僻地に向かって出立した。第一王子と一緒だったにも拘らず、不満げだったそうだ。それは王子もらしい。

 それもそうだろう。王太子妃になれないどころか、位階は剥奪され、再受験資格永久剥奪となった。その上、十年間の奉仕活動。奉仕活動期間中に王都への出入りは難しい。奉仕活動を終えると婚期を完全に逃す事になる。こうなると金持ち好色男爵の寡婦になる確率が非常に高くなる。それが嫌なら王子を口説き落とすしかないが、王子は妹を切り捨てている。今後どうなるかは神のみぞ知る。

 応接室で久しぶりに再会した弟は、随分とやつれていた。十日程度で何が有ったんだ?

 そんな状態でも、見栄はまだ張れるらしい。お茶を持って来た女官に胡乱な目で見られると睨み付けていた。

 ……弟もそうだが、妹も幼い頃は『全てにおいてシュルヴィアよりも優秀だと示す』事に異様な拘りを見せた。それも何時からか、上手く行かなくなると決まって『姉のせい』と癇癪を起し、シュルヴィアに八つ当たりするようになった。両親もそれを容認していた。

 陰口の中に『姉に持って行かれた才能の上澄みだけを開花させた』と言うのが在ったけど、今回の騒動で弟はヴァルタリ家の血を引いていない事が発覚し、陰口は根も葉もない事が証明された。

 でも、弟の様子が妙に怪しい。

 麻薬か何かの中毒症状でも出ているのかと、疑ってしまうような顔をしている。やつれているだけではない。そう思える何かが有った。

 これはあくまでも、菊理としての『勘』であるが、弟は見舞いで来た訳ではない。

 シュルヴィアの記憶で、弟に気遣われた事は一度もない。

 怪しいと言えばもう一つ。弟は何故か手荷物を持っていた。中身は王都で人気の有る菓子店の菓子だ。シュルヴィアに自由時間はなかったが、正妃や側妃とのお茶会で度々この店の菓子が並んだので知っていた。確か、一番人気は木苺ジャム乗せクッキーである。ん?

 女官が皿に乗せて出した菓子はジャム乗せクッキーだったが、ジャムの色が微妙に違う気がする。内心で首を傾げた。

 弟が勧めて来るので、一つ手に取って口元に運び、微かにだが異臭を感じた。視界にいる弟の顔を見ると僅かに笑っている。それも視線に気付くとすぐに直った。

 どれだけ馬鹿なんだこいつは。

 嘆息を一つ零し、銀のスプーンを手に取り、クッキーのジャムを背で擦る。布巾でジャムを落としたスプーンの背は黒ずんでいた。

「愚かしい。トニ。やって良い事と悪い事の区別も付かないだなんて、貴方一体幾つなのよ?」

 言外に呆れたと言えば、弟は顔を真っ赤にして反論しようと立ち上がった。しかし、スプーンの背を見せると弟の顔は赤色から青色になり、女官は血相を変えた。

 クッキーを紙ナプキンに包んで女官に渡し混入薬品について調べるように頼むと、大慌てで部屋から出て行き、入れ替わりにやって来た衛兵が、弟を捕縛する。……応接室に来たときは衛兵はいなかった筈。何時の間にやって来たんだろう? 呼ぶ手間が省けたから、どうでもいいか。

「何を入れたの? 自分の意志でやったのなら、自分と家の今後は分かっているわよね?」

 拘束され、床に膝を着いた弟を見つめる。弟は俯いた。

 証拠品として菓子とスプーンと、ジャムを拭った布巾をまとめて衛兵に渡し、弟を連行して貰う。

 全くもって、愚かしい。

 少し冷めたお茶を飲み、最近多くなった嘆息を零す。

 ヴァルタリ家嫡男現行犯逮捕で家はもう駄目だ。落ちるところまで落ちるだろう。だが、弟がいなくなったら誰が家を継ぐ? 

 この国で家督の相続権を持つのは男だけだが、婿入りの場合でも、相続権は得られる。

 弟は父の血を引いていないが、ヴァルタリ家の嫡男として十年以上勉強をしていた。

 自分も家には戻らないと決めていたので、弟の馬鹿な行為には呆れた。父は間違いなく勘当するだろう。

「……トニがいなくなると、戻らないといけないのか?」

 気づいてしまった事に、頭を抱えた。



 この後、弟は尋問も兼ねて、地下牢に投獄された。

 尋問は強面の騎士が行ったらしく、弟は素直に喋ったらしい。

 借りている貴賓室で弟から得た情報が書かれた報告書を一人読み、自分は天井を仰いだ。

 クッキーのジャムに混ざっていたのは『眠り毒』だった。この毒は摂取すると深い眠りに就き、そのまま死ぬ事から『眠り毒』の名が付いた。

 貴族の女性が名誉ある死を望む場合に摂取する、ある意味貴族御用達の毒だが、摂取すると強烈な眠気に襲われて行動出来なくなる有名な欠点が存在する。

 故に、毒殺にはまず使わない代物なのだが、弟は何故この毒を所持し、ジャムに混入させたのか。

「父も必死ね。いや、必死過ぎる」

 そう、眠り毒を弟に渡したのは父だった。つまり、あの馬鹿親は自分の息子に向かって死ねと言ったのだ。自害の理由も『姉に対して行った事を恥じて自害した』とでっち上げるつもりだったんだろう。

 父も自害用の毒を姉に対して使うとか思ってもみなかっただろうね。妹もよくこんな計画を思い付くものだ。

 ちなみに、クッキーの販売店にも調査の手が入った。複数の従業員が、裏でこっそりとやっていただけだったので店は潰れていない。関わった従業員は全員逮捕、郊外にある庶民向けの監獄に送られた。

「しっかし、サンドラは毒花か。弟も道づれにするって、反省していないって意思表示しているものじゃない」

 反省心皆無の妹の今後を思う。このままだと、奉仕活動の期間が延びるか、これ以上何をしでかすか分からないと修道院に送られるか、処刑の三択になるだろう。

 個人的には期間を無期限にして欲しい。弟に『姉がいなくなれば家を継げる』と姉殺しを唆したのだから。

 妹は元々傲慢な面が有ったから色んな人に嫌われていたのに『姉のせいだ』と癇癪を起していたわね。実際は己の性格が元だったのに。

 奉仕活動を真面目に行っているのだろうか。少し気になった。

 いや、今は妹よりも弟をどうするか考えないと。今回の件で爵位がまた一つ下がり伯爵となってしまったのだ。短期間で二階級も爵位が落ちるとか致命的過ぎる。と言うか、何故自分に処分内容を決めて欲しいなどと依頼が来るのか。王が考えろよ。

「ん~。勘当しても意味ないしね。これでいいか」

 結論。

 弟は庶民向けの監獄に三年間投獄。後に、ヴァルタリ家当主となり、領地を治める事。生涯領地から出る事を禁ずる。

 父は、三年後に爵位を弟に譲渡し、余生を領地で過ごす事。生涯領地から出る事を禁ずる。

 妹については、期間を無期限にして欲しいと頼んでみるが基本的には国に任せよう。

 母は修道院に既に入れられているので、処罰済みとする。

 処分内容を紙に纏めて、宰相に提出した。



 数日後。家族の処罰は吟味の必要なく、自分が決めた内容通りになった。しかし、妹は奉仕活動を非常にサボっているので、これ以上奉仕活動をさせても意味が無いから処刑するか、と言う流れになっているらしい。

 修道院にも入れさせたくないって、どれだけサボっているんだか。

 どこに行ってもぶれない身内に、こっそりとため息を吐いた。

 この一件は自分の今後にも影響が出た。 

 実家の状況次第では王城滞在期間延長も可能となっていたが、弟が引き起こした一件で、ヴァルタリ家と縁を切る事になった。

 来月から始まる試験の試験官も務める事から急遽、一代限りの爵位である大公を賜る事になった。賜る爵位が公爵ではないのは、所有する位階が原因だろう。

 その為名前も『シュルヴィア・ヴィレン』に変更。以降はヴィレン大公と呼ばれる。

 爵位を貰ったが領地も住むところも決まっていない。追々決まるのだろう。一年間の王城滞在が決まっているしね。その間に決めて欲しい。

 

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