面会を終えて~ウィリアム視点~
短いです。
十分おきの連続投稿もこれが最後です。
ウィリアム・フルードが部屋から出ると、出入り口とは反対の壁に一人の色素の濃い赤い髪を短く刈り上げたスーツ姿の男性が寄り掛かっていた。ウィリアムは驚きもせずに、スライドドアを施錠してから自身の上司に向き直った。ウィリアムの上司の男性は施錠を確認するなり、壁から身を離してウィリアムに近づいた。
「リア・リリーヴァーの状態はどうだった?」
「精神的には落ち着いていました。情報を得て多少の驚きと混乱は見せましたが、取り乱す様子はありませんでした。やっぱり、点滴薬に混ぜていた『向精神薬と精神安定剤』の効果と見て良いでしょう」
「……本当に変わっているな。『痛みを感じないから撃って良いよ』なんて言い出す子供だと聞いたが、まぁ、許可が出たから本当に撃つお前の教え子って事で納得するしかないか」
「どう言う意味でしょうか?」
「この教官にこの教え子ありって事だ。逆な気もするがな。幼少期から軍属の学校にいたとは言え、腹が据わり過ぎだ。本当に十五、いや、十六歳の子供か?」
上司は室内にいる少女の年齢に訂正した。確かに彼女が拉致されてから一年もの経過しているが、厳密に言うと『まだ十六歳の誕生日を迎えていない』ので十五歳で合っている。ウィリアムはその事を伝えて、年齢を訂正した。女性の年齢に関して誤った数字を覚えると後々面倒な事になると、ウィリアムは身をもって経験している。
「年齢に関してはどうでしょうね。そうそう、彼女は報告の一部を暈すように言っていました。時期は不明ですが、やはり『覚醒』はしているでしょう」
「そうか。それが事実ならば、かの戦争再来の可能性有って事か。あー、上になんて報告すれば良いんだ」
上司が舌打ちを漏らして、頭を乱雑に掻いた。ウィリアムも上司と全く同じ事を思ったので気にしない。
「そのまま言うにしても難しいですね。情報を与えて引き込みますか?」
「それこそ上が判断する事だ。それよりも、お前、囮にした事と銃撃した事について謝ったのか?」
「……忘れていました」
ウィリアムは数秒の間を空けてから回答した。上司から指摘を受けるまで、すっかり忘れていた。
「おいおい、何で忘れるんだよ。あとで差し入れを持って行くついでに謝れよ」
「そうします。その前に、報告に向かいましょう」
この会話を最後に、二人は無言でエレベーターホールへ向かった。二人は待機中のエレベーターに乗り込み、指定の階数のボタンを押した。
両開きのドアが閉まってから十数秒後。再びエレベーターのドアが開くと、そこにはスーツを着た人間ばかりがいた。
実はリア・リリーヴァーには幾つかの正しい情報を教えていない。その中には部屋の正しい場所も含まれる。
彼女を救助したあと、確かに軍属の病院へ搬送し、そこで治療を受けた。ここまでは合っている。治療カプセルから出たあと、軍属の病院とは違う建物の『地下部屋』に彼女を運び込んだ。室内の設備は実際に病院で使用されているものだ。彼女は『隔離病棟の一室にいる』と誤解している。居場所を誤解させるように教えた事も在り、部屋から出るなと念押しした際、彼女はウィリアムを怪しむ素振りを見せなかった。
今後の彼女への対応は『兼業』医師が行う為、このままバレる事は無いだろう。
二人でお偉いさんのところへ向かい、口頭による報告を行う。報告を終えたら、今度は書類仕事を行う部屋へ移動する。部屋にはウィリアムの同僚の男性だけがいた。仕事に集中しているのか、室内へ足を踏み入れた二人に全く気がつかない。ウィリアムは同僚の背後へ音も無く近づいて声を掛けた。
「やぁ」
「うおぉぉっ!? って、ウィリアムお前か。あれ? 大佐、今日はこちらで仕事ですか?」
同僚は驚き椅子を蹴り倒して立ち上がった。だが、声の主が誰なのか知り、同僚は呆れて肩を落とした。そして、ウィリアムの隣にいる男性の存在に気づき首を傾げた。
「ああ。向こうが漸く落ち着いたからな。暫くはここで書類仕事だ」
「そうですか。あ、報告が幾つか上がっています」
「読む。こちらに回してくれ」
「分かりました」
ウィリアムは上司と同僚のやり取りを視界に捉えてから自身の席に戻り、パソコンを操作して提出された報告書に目を通す。ウィリアムの許へ提出された報告書の中には、軍学校に教官としていた頃の『元同僚』に関する報告書が混じっていた。その報告書の内容は『処理完了』を知らせるものだった。
ウィリアムは元同僚の末路に興味が無い。代わりに『最期に、双子の兄弟に生きて会えて良かったね』程度の感想は抱いた。
提出された報告書を種類ごとに分別してから、ウィリアムは仕事に取り掛かった。