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閉じ込められて

 ベッドの上に寝転んで、天井をぼんやりと見る。ここで目覚めてからの日数は数えていない。

 監禁部屋らしいここに閉じ込められて、どれ程の時間が経過したかは不明だ。時間感覚が狂う代わりに、幾つか事が判明した。

 時間の経過と共に、照明の明るさが変わる。恐らくが付くけど、昼と夜で灯りの光量が変わるのだろう。うろ覚え雑学だが、人間がキャンプをした時に自然と眠くなる時間は二十二時で、朝は六時に自然と目が覚めるらしい。眠っていた時に急に明るくなって驚いた時に思い出した。二度寝はしなかったけどね。

 ちなみに、食事は二回だった。長方形の仕切り付きの大皿に盛り付けられた料理は、成人男性向けなのか学校の食堂で食べていた頃よりも多かった。一日に二度しか食べないのなら、この食事量で足りるだろう。ただし、運動をしない事が前提になる。食事にスープは付いていないのに、スプーンを使って食べる料理しか出ていない。ここに皿を置けるテーブル類が無いからかもしれない。先端が尖ったフォークは、脱走を含む『何か』に使われる可能性を考えて排除されたんだろう。おまけになるが、飲み水は出て来ない。洗面台でコップを見つけたから、それを使えって事なんだろうね。なお、食事は天井の開閉口から届いた。特定の時間になると、上下に動く台座に大皿が置かれた状態で下りて来る。食べ終えてから再度この台座に大皿を置くと回収される。回収される時に開閉口の隙間から何か見えないかと期待したが、台座の横から伸びた板で遮られてしまい何も見えなかった。

 部屋が暗くなった時に、魔法を使って部屋を調べた事で判明した事実も幾つか在る。

 この部屋は地上では無く、意外にも『地下』に存在した。建物の廊下へ繋がるドアが存在しないので、どうなっているのかと思えば、部屋自体が上下に移動する仕組みになっていたのだ。壁に隙間も、移動で発生する擦れた跡も残っていなかったので、これには驚いた。部屋ごと動かせるのなら、確かにドアは不要だな。天井がやけに高いのも、部屋を移動させる時の余白だと思えば納得出来る。排水されるものが一直線に並んでいたのは、建物の設備都合上と言う事になるのだろう。排水管が必要になるこの三つがあるスペースは固定されていたしね。

 それと、すっかり忘れていたが、この部屋にも監視カメラが存在した。魔法が無ければ見つける事は出来なかったな。天井の角に埋め込まれているとは思わなかった。監視カメラは二つで、互いに死角を埋めるように設置されていた。トイレとシャワールームに、洗面台が在る奥以外は監視範囲内と言う事になる。

 脱走を計画するのなら、ドアで区切られている奥で行うのが良いんだろうけど、失敗したら物理的な拘束が増えそうだ。食事も怪しいし。

 実は食事を取っていた時に、何度か急に眠くなって来た。眠気が来たのが食後なら、まだ解る。食後に眠くなるのは、胃に血液が集まるから起きる現象だ。

 でもこの時の眠気は、料理を乗せた『スプーンを口に含んだ』時だった。ちょっと怖かった。この時はスプーンの使用を控えて、パンを使って料理を食べ切った。だからか、これ以降スプーンに異変は無い。この時ばかりは監視員に感謝した。

 食事が安全では無いと言うのは精神的に不安になる。せめてもの救い(?)は、食事に混入されていたのが『毒』では無い事か。いや、スプーンの一件以降も何度か強烈な眠気を体験しているから、安心は出来ないのか。食事は安全に食べたいぜ。

 実を言うと、この監禁部屋らしきここで不可解な事が幾つか起きている。

 その不可解な事を正確に言うと『物の位置』が変わっていた。例えば、洗面台のコップの位置とか、床に置きっ放しにしていたコップが無くなっていたとか、使って濡れたタオルが乾く前に別の乾いたタオルに変わっていたとか、よくよく見るとベッド(車輪無し)の位置が微妙に動いていたとか。

 全て、眠っていた間に起きた事だ。これに加えて、うっかりベッドに寄り掛かり床に座ったまま眠ってしまったのに、目が覚めると何故かベッドで横になっていたり、下着のショーツが覚えの無い紐パンツに変わっていた。胸の揺れを抑えるタオルも無くなっていた。

 食事を取って眠くなる事が多かった点を考えると、眠らされた間に何かをされている可能性が高い。下着の恨みは忘れん。

 はっきり言って気持ち悪いけど、シャワールームに閉じこもっても解決はしないだろう。状況は悪化する。引き摺り出されて、今度こそ、身動きが取れなくなる。

 逆を言うと、異変を感じても今の状況を維持しているから、室内に限定されるが、ある程度の自由が残っている。

 聞くと根拠が無さそうな考えだ。

 だけど、食事後の眠気が異様に強く、一食だけならと、トイレで無理矢理吐いた。洗面台に鏡が無かったから顔を見る事無かったが、酷い顔をしていたと自覚している。眠気は治まった。代わりに次の食事は、食べている途中から眠気が強まった。どうにか食べ終えた。でも、食べ終える頃には眠気でフラフラだった。

 そのまま立ち上がる事は叶わず、ベッドに寄り掛かって食べていたから、そのまま眠ってしまった。目が覚めたらベッドの上だったので驚いたし、少し怖かった。

 この一件以降、食事でどんな異変を感じても『トイレで吐かず』に我慢している。これ以上の食事の質の悪化は精神的にも避けたい。



「どうしようか」

 マットレスだけのベッドの上で膝を抱えて考える。

 頭の中で浮かぶのは『脱走』の二文字だ。

 でも、魔法の使用を最小限にしての脱走は難しい。

 確かに、空間転移魔法を使えば脱走は可能だ。代わりに何かが起きて尋問を受ける事になった時の回答に困るし、何より今は、魔力を大量に消費する魔法が使えない。

 現状、魔法の使用を最小限にしての脱走は難しい。

 いかに自分が魔法頼りだったのか解る。確かに、困った時の解決策として魔法に頼っていた。いや、魔法を使わないと埋めるものも埋められなかったんだけどね。死に掛けた時とか。魔法を使っても、問題の無い世界が多かったと言うのも在る。

 いやいや、言い訳じゃなくて、脱走について考えないとなんだけど、その脱走の方法が思い浮かばない。

 このままここで待っていれば、何時か、救助隊が来るのだろうか?

 それともあの時、容器から出て辿り着いた『保管部屋にいたまま』だったら、救助されたのか――それは無いな。海中施設の外では襲撃が起きていた。それに、どこの所属か知らないけど、隣のクラスの副担任もいた。その事実を考えると、どの道、現状通りになっていた可能性が高い。

 忘れていたけど、あの場所には銃弾を弾く毛皮を持った刻印獣が大量に保管されていた。刻印獣の相手をしたら、今度は救助されるまでが長い。最悪、『救助不可能』と判断されたかもしれない。

「う~ん……」

 嫌な事ばかりが頭に浮かんでしまう。膝を立てたまま、身を背後に倒して代わり映えの無い天井を見上げる。

 目を閉じてため息を零して、もう一つの重大な事を思い出す。

 初めこそ、時間が経過すれば戻ると思っていた『触覚』が戻らないのだ。魔法を使って己の体を鑑定したが、原因は判らない。

 行き詰まりを感じて、再びため息を零し、もう一つの最悪な情報を思い出す。


 目覚めてから用途不明だった、両手首と両足首に嵌められていた物体の正体が判明した。

 睡眠薬入りの食事を吐く前の事になる。

 薬物投与による睡眠ならば『魔法で異常解除出来るのでは?』と思い、シャワールームで試した。その時に、魔力の大部分が使用出来なくなっていた事に気づいたのだ。

 何が原因で魔法が使えなくなっているのか調べたら、両手首に嵌められたブレスレットに魔力が吸収されていた。まさかと思い、両足首のアンクレットを調べるとこちらも同じだった。肌に密着しているのは、確実に魔力を吸い取る為だと思う。

 己の体の鑑定や、室内の構造探査で魔法が問題無く使えていたけど、この手の魔法で消費する魔力量は少ない。攻撃・防御・回復系統の魔法の十分の一程度か、それ以下だ。魔力の消費量が少ないから、問題無く使えていたとも言える。

 逆を言うと、攻撃・防御・回復系統を始めとした、それなりに魔力を消費する魔法は『魔力不足』で使えない。これは逃走に使用を考えていた空間転移魔法も該当する。

 せめてもの救いは、二点だ。

 一つ目は、魔力消費量の少ない魔法や、消費する魔力量で効果が変わる魔法ならば使用可能。

 二つ目は、魔力を吸収する量に限界が存在する事。

 この二点は、自慢では無いが、自分の魔力量が多いからだろう。恐らくが付くけど、常人だったら魔法は一切使えない。体力を魔力に変換出来る人間だったら、動けなくなる。

 自分の食事に高頻度で睡眠薬が盛られているのは、二点目が理由だろう。眠らせてから回収して『吸収した魔力を別の何かに移している』と推測している。それ以外の理由が存在するのなら教えて欲しい。


「ん?」

 耳が微かに響いたノイズ音を拾った。久し振りに聞いた、環境音以外の音を聞き、身を起こして室内を見回す。室内に異変は無い。

 異変は起きていなかったが、代わりに変化は起きていた。その変化は食事が運ばれて来る台座が存在した事だ。どうやら食事が届いた事に気づかなかった模様。ノイズ音は『早く食べろ』と言う催促か。

 食事は取らないと、いざって時に動けなくなる。ベッドから下りて台座に歩み寄る。台座には見慣れた大皿とスプーンが乗っていた。

 大皿とスプーンを手に取り、ベッドに戻る気力は残っていないので、壁に背を向けてその場に座り、壁に寄り掛かる。足を延ばして太腿に大皿を乗せて料理を食べる。

 薄味で冷め切った料理をスプーンを使って口に運ぶ。嚥下してから数秒後。少しだけ眠気がやって来た。また睡眠薬入りの料理だったのか。眠気が強くなる前に料理を食べ終えて、台座に皿とスプーンを乗せる。台座はすぐに上昇した。

 天井の開閉口へ向かう台座を見ながら思う。

 毒を摂取すると耐性を得るのに、何故か『睡眠薬の耐性』は得られない。毎回、成分が微妙に異なる睡眠薬を使っているのか?

 疑問への解答は無く、眠気だけが強くなる。

 眠気で歩くのが億劫になる前に、ベッドへ移動して落下防止柵の間に腰を下ろす。床の上で動けなくなる可能性が消えたからか、眠気が一気に強くなった。

 ……こんな状況が、これからもずっと続くのか?

 それなりの日数が経過しており――何より、脱出しようと行動した事が原因でこうなったからこそ、思ってしまう。

「――っ、あ」

 強くなる眠気で身を起こしていられなくなり、ベッドに背中から倒れ込んだ。

 天井を見上げて思う。ここから脱走を考えるのなら、『ここ以外で目覚めた時でなければ無理だ』と。

 今は根気強く待て。脱走の機会は必ず来る。

 眠気が来た時に、己に言い聞かせる言葉を思い浮かべてから瞼を閉じた。

 息を吐いて力を抜くと、意識は一瞬で落ちた。


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