出口を求めて建物内を探索しよう
静かになるまでに掛かった時間は意外にも短かった。けれど、静かになってもすぐに外に出る訳には行かない。気配探知を使って廊下に人がいるか調べると、何人かトイレの前にいる。数は六人。
そのまま去るのなら良いが、中々移動を始めない。聴覚を魔法で強化すると、不要な雑音まで拾ってしまう。その為、代わりに風属性の魔法を使って、廊下の音を拾う。
『五階東フロアの制圧が遅れている。援護に迎え』
『了解。直ちに向かいます』
短い会話だが、必要な情報を得る事は出来た。
六人が去って行った事を確認してから、便座の蓋に腰を下ろした。
疲れたと言う訳では無いが、疲労が溜まる前の休憩と落ち着いて状況を整理する為に座りたかった。
「敵味方の判断が出来ないから、接触は不可能。ここは五階だから、下に降りる為の階段を探さないと脱出は不可能」
入手した情報から、成す事を口にする。現状はこれだけで良さそうだな。
それにしても、ここは『五階』だったのか。海から上がった階層だったから、てっきり一階だと思っていた。先程『トイレの窓が割れたら』と、もしもの事を考える。そのまま飛び出し、地上に向かって落下する。いや、どうにかなるけど。やっぱり、ね?
何も知らずに五階から飛び降りるのと、知っていて五階から飛び降りるのでは、精神衛生的に違いが出る。気構えとかね。
それを考えると、思いたくは無いが、窓が割れなくて良かった。
深くため息を吐きたくなったが、我慢して立ち上がる。座って考え事をしていた間に、大分静かになった。五階の制圧が終わったのか、失敗したのか。それとも戦場が階下か、階上に移ったのかもしれない。建物の振動も大分治まっているから、状況は進んでいるんだろう。
脱出が出来るのならば、どうでも良いな。
幻術を使わず(どこかに在りそうな監視カメラに、移動時の姿が映っていない事に関する追及と尋問を防ぐ為に)に廊下に出て、階段を求めて走る。
思っていた以上に広いフロア内を走り回り、息が上がって来た頃になって、やっと緊急避難用の階段を見つけた。見つけたは良いが、半壊していて今にも崩れそうだった。他の階段が見つからなかったから、仕方が無いと階下に飛び降りる。けれども、着地場所が悪く亀裂を踏んでしまい、足裏に痛みが走った。崩れ掛けの階段だから、そもそもマシな着地場所が無いんだけどね。
念の為に、足裏の裂傷の有無を確認する。負傷は無い。硬いもの踏んだだけだった。骨と筋肉にも影響がないなら放置で良いだろう。足裏が血で濡れると、滑って転びやすくなる。それだと流石に移動に支障が出る。
負傷が無い事を確認してから、更に下へ向かう。このまま玄関が在りそうな一階まで降りてしまおう。
五階が制圧されたのなら、階下も制圧済みだろう。最上階から制圧したとは思い難い。無難に一階から侵攻した筈だ。ここが何階建ての建物か知らないけど、とにかく広いので、二十階以上の高層建築物ではないだろう。
首都の高層建築物で、最高五十階までのビルが存在した。けど、建築法か何かで敷地面積が基準以下でないと高層建築物を立てるのは禁止されていた。足りない床延べ面積を確保する手段として、高層化させる事は可能だが、広い敷地を確保した場合は許可されないと、言ったところか。
半壊した階段を慎重に降りながら、大陸の建築法について思い出す。授業でたまたま知った知識がこんなところで役に立った。何とも言えない気分になる。
階段の表示を確認しながら一階にまで降り立ったが、遠くから銃声と爆音が聞こえる。制圧されていないのかと一瞬疑問に思ったが、どこかの窓から出てしまえば良いと思考を切り替える。
窓がを求めて移動を始める。最悪、部屋じゃなくても、填め込み式以外の窓が見つかれば良い。何が何でも、建物の外に出よう。外に出られればどうにかなる。
「――っ!?」
強烈な悪寒を感じてその場から跳び退る。一瞬遅れて、背後から来た銃弾が床で跳ねた。
近くに誰もいない事から、狙撃だと判った。背後に振り返るが誰もいない。慌てて近くのドアが開く部屋を探す。狙撃手がいるのか、それとも防衛システムによる自動射撃なのかは判断不可能だが、このまま廊下にいる方が危険だ。
探している間に何度も足元で銃弾が跳ね、相変わらず発砲者の姿が見えない。風属性の魔法で音を拾うと、微かに風切り音が聞こえた。ドローンのような小型無人機を使っているのか。
狙撃手の正体について考えてつつ、十字路を左に曲がろうとしたら激しい連射が襲い掛かって来た。慌てて右の廊下に飛び込むと、連射はピタリと止まった。
走り出そうとしたが、何故連射が止まったのか疑問に思い足を止める。
今になって振り返ると、追われるままに走っていた。一本道だから気づかなかったが、どこかに誘導されていない、よね?
そっと廊下を覗き見ると、一機のドローンが宙に浮いている。熱感知センサーでも搭載しているのか、前進しない。頭を出すとドローンは再び一発だけ発砲した。
これは誘導確定だと判断する。十字路の中央へ飛び出し、着地するまでの間に発砲する。危険な行為だが、このドローンは『今までずっと』自分の足元しか狙っていない。先の連射も足元を狙っていた。
この事実から『足元だけを狙う』ようにプログラムされていると判断した。
十字路の中央に着地するまでの僅かな時間で連続発砲した。その結果、着地地点で銃弾が何度も跳ねたが、ドローンが自分の胴体部を狙う事は無かった。残弾を撃ち尽くすつもりで連射し、ドローンを撃墜する事が出来た。
この大陸の軍事目的で使用されるドローンは硬い。授業中に一度試したが、実弾を十発近く撃ち込んで漸く破壊する事が出来た。破壊して授業後に始末書を書く羽目になったが、たった今、必要な経験に変わったのだ。嫌な事は忘れよう。
弾倉を交換しながら周囲を確認し、ドローンに駆け寄る。破壊したドローンを調べると、カメラが搭載されていた。撮影用か、対象物認識用かは不明だ。
……階段にまで戻るか、別道を行くか。
悩んでいる暇は無い。来た道を走り、階段へ向かう。その途中、入れる部屋と窓を探す事も忘れない。
けれども、どちらも見当たらない。これはいよいよ二階に戻るべきか。それとも、あえて音源に向かうべきか。いや、必ずしも音源が外に繋がっているとは限らない。
一度どこかの部屋に入って脱出計画を立て直すか。そこから空間転移魔法を使って外に――いや、尋問を受けて答えられない事は止めよう。
「……不便だな」
走りながら不満が零れる。不満に思う程に、普段から魔法頼りだと言う事を示す。だけど、こんな緊急時に感じなくても良いと思う。
「空き部屋。無い! 何で、どこも開かないの!?」
襲撃を受けている緊急時だと言うのに、どうしてドアが開かないんだ? まさか、各部屋に避難用通路が存在して、避難する時間稼ぎの為にドアにロックが掛かるようになっているのか? それとも、緊急時でも鍵が無いとドアが開かないのか?
結局どこの部屋にも入れないまま、階段にまで戻って来てしまった。
階段は一階で終了している。脱出手段が何も思い付かなくなり、何かないかと階段周辺を調べる。消火栓設備すら見当たらなかったが、この階段には裏側が在った。階段なのに、建物の中央に配置されているのかよ!
裏側に回り、初めてフロア地図を見つけた。現在位置はフロアの中央。正面玄関以外の出入り口以外の避難用出入口、尚且つ、窓が存在する外側の廊下の位置を探す。この際、建物の壁際のトイレでも良いよ!
思いは届かず、一階にトイレそのものが存在しなかった。ついでに正面玄関と思しき出入り口すら、一階に存在しなかった。遠くから聞こえて来る音は、制圧中の戦闘音だった模様。正面玄関が一階に存在しないとなると、二階以上に設置されている事になる。何の為に一階が存在するんだ!? 地上=一階だと思っていたよ!
急いで階段に戻り二階へ向かう。痛いタイムロスだが、フロア地図の場所が判明したのだ。これで良しとするしかない。未だに戦闘音が響いているのか、遠くから音が聞こえる。二階のフロアに出る前に、ふと、四階と五階の間の階段が半壊になっている事を思い出した。
考えもしなかったが、実は四階に正面玄関が存在しているから、五階から上に来れないように壊したんじゃないだろうな?
確認のしようがないけど、二階のフロア地図を見に行こう。どの道、五階には戻れないのだ。あっち行って、こっち行ってと、無駄に動き回るよりも、ここは地道に可能性を潰して行こう。
廊下に誰もいない事を確認してから、階段の裏側へ走った。
その結果。
結局、四階にまで戻る羽目になった。
出入り口と言えば『普通は一階に在るよね』と思い込んでいた結果だった。何で、一階に出入り口を配置しないのよ!?
内心で文句を言い続けるが、別の意味で収穫も有る。一階から三階までのフロアの構造を知る事が出来た。そのお陰で、廊下の配置法則を知る事が出来た。
四階のフロア地図も一応確認するが、仮に見られない状態だとしても、大体の配置が解る。
そこまで考えて、五階と一階で遭遇した兵士っぽい面々とドローンに、二階と三階では遭遇しなかった。
制圧が完了した結果なのか、それとも迎撃に成功した結果なのか。いや、五階では制圧云々の会話を聞いたのだ。制圧が着実に進行していると思いたい。制圧の意味違い――侵入者の制圧完了だったら困るけど、今は違うと思いたい。
階段を登り切り、静かな四階に足を踏み入れ、フロア地図の許へ向かう。四階のフロア地図はボロボロだったけど、文字は辛うじて読み取れた。遂に外への出口を見つけた。色々と思ってしまうけど、今は外に出る事だけを考えよう。
二種類の衣服を着た死体を踏まないように、外へ続く廊下を警戒しながら走る。最初の内は死体を調べたが、十人分を調べても情報が何も得られなかったので止めた。これ以上のタイムロスは避けたい。
大量の死体とあちこちの床に散らばる大量の空薬莢を走りながら見るに、四階が激戦だった事が伺える。ガトリング砲でも使ったのかと疑う空薬莢の量だ。階段から余り離れていない場所で、この量なのだ。侵入経路は四階と見て良いだろう。
十字路に差し掛かった。少しだけ顔を出して左右の廊下を覗き見る。人影は無いが、慎重に進む。
一階で戦闘が続いており、五階は制圧終了寸前。二階から四階は制圧完了しているから静かなんだろうけど、見張り役の姿が見えないのは何故だ?
「うわっ」
再び建物が揺れた。走っていたので、転びそうになった。壁に手を付いて転倒を防ぐ。建物が揺れる程に大きな揺れだが、地震では無い。再び上層の階で戦闘が始まったのか。距離がある為、銃声類の戦闘音は聞こえない。どうなっているのか知りたいけど、脱出を優先しなければならない。
廊下を走り続け、エントランスホールの案内表示板が掲げられた場所に辿り着いた。
けれどもそこは、足が竦む程の惨状が広がっていた。簡単に言うと、死体の山だった。床と壁と天井には血が飛び散り、赤と白の斑模様を作っている。ガラス戸は砕け、破片が床に散乱している。外から入って来る風が自分の鼻に饐えた臭いを届け、思わず顔を顰めた。
……死体の山も、饐えた臭いにも、慣れ切っている。にも拘らず、どうして足を竦ませ、顔を顰めたのか。
腑抜けた結果か。あるいは、別の理由か。
どちらにせよ、ここで立ち尽くす理由にはならない。ガラスの破片を踏まないように、慎重に歩いて外に出る。
外に出ると、弱い風が吹いていた。久し振りに浴びる陽射しに目を細める。見上げた空は、薄雲が掛かっている。耳を澄ますと、戦闘音が聞こえる。ヘリコプター系の乗り物は飛んでいないのか。それらしき駆動音が聞こえない。どうやってここに来たんだろう?
疑問が色々と残るけど、眼前の光景に意識を戻そう。
森の手前の二十五メートルのプールが設置出来そうなぐらいに広い石畳は、二種類の衣類を着た死体で埋まっていた。けれども、ここに到着するまでと同様に見張り役が誰もいない。見張り代わりのカメラなども設置されていない。水中保管施設の規模を考えると、それなりに重要な拠点の一つだと思っていたんだが、違うのだろうか?
堂々と玄関口に出るが、何も起きない。
拠点放棄が決まっているから何も起きないのか?
それとも、自分のような存在が出現しても、『放置する』と選択肢が決まっているのか? でも、五階では追われた。指示が変更されたのか?
もしかして、ここに攻め込んでいる勢力の目的が、『救助』ではなく、二つの組織の『勢力争い』なのか?
考えても分からない。転がっている死体をもう一度調べる。堂々と調べているのに何も起きない。ここまで何も起きないと、逆に不気味だ。
「ん?」
死体を調べていたら、三種類目の衣類を着た死体を発見した。だが、所持品を調べてもこれまでに調べた死体と変わりはない。せめて、所属が判るようなものを持っていてくれれば良かったんだが、無いものはしょうがない。
死体の間を縫うように歩いて、石畳の奥の森へ向かう。
「うん?」
石畳と森の境界まで残り三メートルと言うところで、一瞬、視界に別の光景が映った。足を止めて、一瞬だけ見た映像について、石畳を見ながら考える。
見えたのは『自分が真下に落下する』光景だ。
真下に落下する。意味が解らない。何となくその場に屈んで石畳を叩く。足元からは異音は響かなかった。だが、一歩進んで同じように叩くと、音が変わった。中身が詰まっているような重い音から、中身がスッカスカに思える軽い音に変わったのだ。
「古典的な」
音と先程の映像から考えると、この先に落とし穴が設置されている。走り幅跳びの要領で跳び越えても良いけど、森の中をよく見るとワイヤートラップが張り巡らされていた。それも、隙間を埋めるように張り巡らされている。跳び越えたら、ワイヤートラップで肉片になって死ぬ。
背後を見て、退避ルートを確認する。そして、滅多な事ではやらない事を実行する。ファンタジー系の世界に存在する、迷宮とかダンジョンとかでは、絶対にやらない事だ。やったら命に関わるし、チームを組んでいたら怒られる行為だ。下手すりゃそのまま追放だな。
近くの死体が所持していたライフル銃を手に取り、安全装置を起動させてから、進行方向の石畳に向かって投げる。
ライフル銃が石畳の上を跳ねた直後、石畳そのものが直上の死体と一緒に崩れて落下した。ここまでは映像通りだったが、ここから先の光景は予想外だった。
石畳の崩れる範囲が広がった。そのまま建物に向かって石畳の崩落が始まる。慌てて背を向けて走る。退避ルートの確認をしておいて良かった。でも安心は出来ない。崩落の速度が思っていた以上に速い。走る速度を上げて建物内に駆け込むが、玄関前のスペースで崩落は止まった。
落とし穴が一つだったら、迂回して森に入ろうと考えていたんだが、これでは脱出手段を建物内で探すしかなさそうだ。
……これはいよいよ、魔法を使った脱出を考えるしかなさそうだな。宝物庫には船と飛空艇なども収納している。それに、空間転移魔法を使えば、学校の寮にまで戻る事は可能だ。代償として説明に困窮する。
しかし、石畳が崩落したのに、警報が作動しなかった。玄関前のスペースから顔を出して、崩落した事で出来た穴を覗き込む。穴は思っていた以上に深く暗かった。だが耳を澄ますと、複数の唸り声と『咀嚼音』としか思えない音が聞こえて来た。
真下に刻印獣がいたのか。別の意味でヤバかったのね。穴を見るのは止めよう。
気を取り直して、エントランスホール内に戻る。ここはただの広々とした空間で、調べるようなところは見当たらない。エントランスなのに何も無い。普通なら、案内掲示板とか、受付担当者用の机とか、エレベーターとエスカレーターが配置されていそうなのに。壁面モニターすら見つからない。
そこまで考えて、階段以外に何を使って階層間を移動しているのかと考える。移動用の自動昇降機に当たるものが全く見当たらない。そう言えば、フロア地図にもそれらしいものが表示されていなかった。一応この世界にも、エレベーターとエスカレーターに該当するものが存在するが、残念な事に自分は利用した事が無い。なので、この世界のエレベーターとエスカレーターがどんなものか知らないのだ。孤児院は三階建てだからか階段しかなかった。学校にも存在しなかった。
上層階への移動がどうなっているのかもそうだが、現状がマジで分からない。これは五階に戻らないとなのか?
色々と考えるが、身を隠す場所も探さなくてはならない。
エントランスホールから伸びる道は三つ。一つはここに来る為に通った廊下。残りの二つは左右に分かれている。どちらにするか考えていると、頭上から影が差した。
その場から飛び退くと、銃弾が降って来た。頭上を見ると、金属板に乗った武装した人間がいた。その数は五人。
エントランスホール内を走って移動する。廊下に逃げ込みたいのに、移動を妨げるような発砲が続く。手にしている拳銃で応戦しながら近くの廊下に駆け込む。
背後から足元に向かって銃弾が飛んで来る。廊下の角を右に曲がる時に、一回だけ背後に向かって発砲する。命中しなかったが、一瞬だけ向こうの発砲が止まった。右の廊下を走り抜け、次に左に曲がる。息が上がる前に壁と天井の直角の隙間に張り付いてやり過ごそうかと、一瞬だけ考えたが、監視カメラがどこかに設置されていそうだから止める。ここは身を隠す場所を探そう。
走りながら考える。どうして今になって来たんだ? 他所の制圧が完了したのか? それとも、別の理由が在るのか?
闇雲に走り回っていたが、階段のところにまで来てしまった。上に行くか下に行くか悩み、三階へ向かう事にした。
階段の壁と手摺りを踏み台にするように、飛び跳ねて移動し階下へ降りる。単純に足場が悪いのと、足を傷付けないようにするのが目的だ。靴を履いていたらやらないアクロバティックな動きだ。三階へ降りたら、フロア地図が在った場所へ向かう。走って移動する最中、魔法を使って監視カメラを捜す。
……あれ? 監視カメラが無いぞ。
意外な事に見つからなかった。監視カメラが存在しない理由について、一瞬だけ考えたけど、身を隠す事を優先した。
適当に角を曲がって周囲に誰もいない事を確認し、幻術を使って姿を隠し、天井付近に浮遊して待機する。眼下を追って来た五名が通り過ぎた。熱源探知系の探知器を持っているのかは知らないが、自分に気づかないのならば良いな。そう思い、魔法で消音を施してから、遠くなる五人の背中に向かって連続で発砲した。
一人は当たりどころが良く一発で斃れた。残り四人は防弾チョッキを着ていたのか肩から床に倒れ込んだ。四人揃って背後から撃たれたのに、受け身を取っている。どれだけ訓練を受けたのかと、思うが全弾を撃ち尽くすつもりで発砲した。複数の弾丸を受けて、四人は倒れた。魔法を使用した結果、あっさりと終わった。
こんな事なら『最初から魔法を使っていれば良かったんじゃ?』と思いたくなるが、尋問を受けた時に回答出来ずに困り果て、尋問が拷問になり苦しむのは自分だ。使用は最小限に止めなければならない。楽をして、最終的に困るのは自分なのだ。
弾倉を入れ替えながら近づき、傍に降り立って生死を確認する。虫の息だった一人を除いて死んでいた。最後の一人の息の根を止め、通信機と思しきものを破壊した。既に死んでいる四人の持ち物を調べると、まだ生きていた通信機を見つけた。
『四階で追っていた対象を発見。三階へ逃亡した。追っていた十九班がやられた。二十一班と二十五班は直ちに向かい対象を捕獲しろ。武器を所持している。挟み撃ちにしろ。十五階に刻印獣が放たれた。格納しているヘリを狙っている。応援を求む』
バラバラだが、幾つかの情報と確信を得た。同時にタイミングの悪さに気づいて舌打ちしたくなった。勢力争いの可能性が高くなったからだ。救助に来たのなら、『追っていた対象』では無く、『救助者』と言う筈だし。
通信機に発信器が内蔵されている可能性を考慮して、死体の上に捨て置き、階段に向かって移動する。
三階に誰かが来るが、このまま魔法を使い、天井沿いに飛んで移動する。これから来る連中が熱源探知器を所持していたらアウトだが、なるべく距離を取って移動して対応するしかない。
建物内には逃げる場所が無い模様。これでは上の階に向かうしかなさそうだ。それとも、水中保管施設に戻るしかないかな? あそこなら、転生の術を使っても誰の目にも触れないし。でも、『今この世界から去っても良いのか?』と疑問が浮かぶ。このままいたら危険なのは理解しているが、去る気になれなかった。
そんな事よりも、十五階に刻印獣が放たれて、ヘリを狙っていると言う事は、十六階が屋上である可能性が高い。間違っている可能性も高いが、ここは五階に戻るしかなさそうだ。あの崩れ掛けの階段を思い出し、登れるかと言う疑問が残る。壁と手摺を使って上手く移動するしかなさそうだけど、ここのまま移動しよう。
行き当たりばったりな行動になっているが、考えて動いた結果が全て空振っているだけなんだよね。その空振り方が酷いんだが。
階段に到着したが、誰もいない。慎重に五階にまで移動した。五階のここにも監視カメラが無い。本当に、ここは何の施設なの?
幻術を使って姿を隠したままで上階へ移動を続けた。