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大人の思惑と変化した日常

 最初は第三者視点です。

  ※※※※※※※


 深夜。消灯時間は既に過ぎている為、全生徒が眠っている時間に、教官一同が集う会議が行われていた。

 会議の内容は『孤児院から連れて来られた生徒への対応』だ。

 前政権が血迷った事をしたせいで、首都に存在する軍学校初等部に孤児院出身の子供が集められた。数が多いと言う訳では無いが、孤児院出身の生徒は各学年の三割に上る。未だに他国を警戒する必要が有り、保護は今後も行われる。

 だが、親の七光りで入学して傍若無人に振舞っていた事を理由に退学させた生徒と、異動させた教官共が原因で、孤児院出身の生徒は大人への不信感を強く抱いている。

 特に顕著なのが『リア・リリーヴァー』で、度々会議で名が上がる。

 成績優秀だが、嫌がらせが原因で手抜き癖が直らない。これは、リア・リリーヴァーに限った事では無いが、孤児院出身の生徒で優秀なものは手を抜く傾向に在った。

 警戒心が恐ろしく強く、授業中か食事中でも無ければ、話し掛ける事すら叶わない。視線を向けただけで逃げられてしまう。そして今日、味覚に異常を持っている事が判明した。原因は過度の精神負荷と見られた。

 別に孤児院出身の生徒でなくとも、成績不振者への嫌がらせを始めとした虐めは起きている。加害者は主に軍属の親を持つ生徒だ。対処は行ったが、経過観察が必要となる。

 今後の対応確認を行い、会議は解散した。


 ※※※※※※


 警戒したは良いが、何も起きないまま月日は流れ――気づけば十二歳になった。

 十二歳になったと言う事は、この学校に来て、七年の月日が流れた事になる。それは、十二年も流されるまま、惰性に生きて来た事を示す。

 そして、今年で最高学年に進級した。日本で言うと小学校六年生になる。

 だが、忘れてはならないのは『ここは異世界』だと言う事実であり、通っている学校が軍属だと言う事。日本の常識が通用しない世界にいるのだ。

 軍人候補生(仮)としての学校生活も今年で最後になる。来年からは正式な軍人候補生としての専門的な訓練が始まる。二年前から、個人の向き不向きを考慮したクラス分けが行われ、クラスごとに授業内容が変わった。

 変わったんだけど、結局、器用貧乏のままで過ごす羽目になったから、何が向いているのか判らない。

 これからの進路は、大人が勝手に決めているから知らない。軍属の学校だから希望通りにはならないだろう。反発しても、脱走しない限り何も変わらない。

 やりたい事が見つからず、能動的に探す気にもなれない。

 受動的に、惰性のまま日々を送る。

 授業の内容に変化は、ほぼ無い。内容が大人向けに近くなった程度だ。でも、クラスの所属人数は減り、今年度で八人にまで減った。


 

 今日の授業を終え、図書室で時間を潰してから寮に向かう。

 クラスメイトと話す事は無い。敵愾心と言うか、対抗心剥き出しで絡まれても面倒なだけだ。

 学校の成績で一喜一憂しても、実戦でどこまで通用するか分からないのに、どうしてこうも、突っかかって来るのだろうか。手抜きをして怒られなかった、少し前が懐かしい。

 部屋に入る。夕食の時間までの時間を潰しとして、鞄の中身を出して、今日の授業の復習と明日の予習を行う。ルーチンワークとしたお陰で苦痛にならず、思考の切り替えもスムーズだ。

 時間になったら食堂で夕食を食べて部屋に戻り、シャワーを浴びて、明日の準備をしてからベッドに入る。

 ぼんやりと過ごしているが、あと数日で卒業だ。



 数日後に卒業し、五日の休みを挟んでから授業と言う名の訓練が始まった。

 どこから集めたのか、進級したクラスの人数は一気に四十人にまで増えたけれど、内容に変わり映えは無い。『少し厳しくなったかな?』程度だ。

 それでも脱落者が、毎月何人も出た。そのせいで、訓練が始まってから二年が経過する頃には、クラスの人数は五人にまで減った。減り過ぎだな。

 訓練に付いて行けずに去るのは個人の自由だ。

 自分は手を抜くと教官に怒られるから、毎日のようにため息を吐いている。頭を抱えているのは狐顔の教官もだけどね。

 実を言うともう一つ、ため息を吐きたい状況になっている。

 クラスの人数が減りに減った結果、自分を含めて五人しかいない。自分以外の四人(全員男子)は仲が良い。四十人だった頃もそうだが、クラスメイトは性別を超えて、仲の良い子同士で集まったりしていた。自分はその中に入っていない――と言うより、近づいていない。友達? いなくて良い。ぼっちで結構。

 一匹狼と言えば聞こえは良いだろうが、単独行動を選択している。要は独りぼっちだ。今のところ、困る事は何一つとして無いから良い。教官も残り四人をコンビ二組として扱っている。自分は放置気味だ。

 問題なのは、何も困らないと言う事だろうね。

 そのまま月日は過ぎて、三年目になる前に、自分だけ軍人候補生から卒業する事が確定した。何が起きたのか知らないが、残りの四人はもう一年訓練する。

 自分は今年で十五歳になる。日本だったらまだ中学三年生だ。十五歳で今後の人生が決まったと思うかもしれない。けれども、孤児院から連れ出された時点で人生は決められていた。

 残り二日で十年近くも居たこの寮から去るのに、何も感じない。残り二日と言っても、明日の夕方には出発するから、実質一日だ。

 このままで良いのかと、これで良いのかと、何度か自問自答したが、答えは出て来ない。 

 前の世界での最期の出来事が、心に残っている。

 もしかして、最期に聞いた音は、積み上げたものが崩れた音なのかもしれない。あるいは、何かが折れた音か。どちらにせよ答えは無い。

 茫洋としたまま、何時も通りに寮へ戻り荷物を纏める。私物はほぼ無い。強いて言うなら、着替えと日用品だけが私物だ。支給品の大きなボストンバッグに入れる。もうやる事は無い。

 少し早いが食堂に向かう。コップに注いだ水を飲み、コップの水面を眺めて残りの時間を潰す。

「リア・リリーヴァー。貴様、ここにいたのか」

 真横から声を掛けられた。視線をコップの水面から声の主に移すと、気の強そうな赤毛の男子がいた。その後ろには三人の男子がいた。こいつはクラスメイトの男子達だ。先頭の赤毛の男子の碧い瞳と視線が合うと、心底嫌そうに表情が歪んだ。

「貴様、俺を差し置いて飛び級で卒業するそうだな。喜ばないのか?」

「孤児院出身なのに、どう喜べと?」

「……っ」

 そう返すと赤毛の男子は何も言い返さずに、歯軋りした。いや、言い返したくても出来ないが正しいか。男子の後ろにいる三人も顔を顰めた。

 去年の半ば辺りから、『孤児院出身の生徒は、政府に売られて来た』と言う噂が流れ始めた。実際その通りだから否定のしようがない。最初に言いだしたのは誰だが知らないけど、どこでその情報を知ったのだろうか?

 孤児院出身の生徒が流したのならば、『政府に売られた』ではなく、『学校に売られた』と表現する筈だ。

 そして、この男子四人は軍高官の子息だ。噂を知らないって事は無いだろう。真実を知る人間が親なのだから、確認を取る方法は存在する。

 コップの水を飲み干してから立ち上がる。そろそろ夕食の時間だ。

「用件はそれだけ? だったらもう行くよ」

 四人の反応を確認してから、コップを片手にカウンターへ夕食を取りに向かう。

 カウンターで夕食を受け取り、先程とは違う席に夕食を置いてから給水器に向かい水をコップに注いで戻り、順番が逆だったなと後悔する。すぐに気を取り直してから夕食を食べる。

 席を移動したのに、同じように夕食を受け取った男子四人が近くに座った。少しだけ距離を取ってから座り直し、黙々と速いペースで夕食を平らげた。食器を片付けて食堂から去る。廊下を歩いていると、背後から呼び止められた。振り返ると、クラスの教官がいた。

 何用かと思えば、明日の出発時刻の連絡だった。夕方としか聞いていなかったが、正式に決まったそうだ。同時に、それまで寮で待機も言い渡された。必要そうなものを購買部で購入して良いか尋ねると、午前中に終わらせるように言われた。

 了解の応答を教官に返して別れる。

 部屋に戻るまでに明日の予定を立てた。



 翌日の午前中。購買部で必要になりそうな日用品と常備薬を探す。購買部は無人販売所なので、自分以外に利用客の姿は無い。授業中の時間帯だから当然なんだけど。

 頭痛薬と痛み止めと、乗り物酔い止めの三種を購入すれば良いかな。それぞれ二箱ずつ手に取り、緊急時用の包帯と一緒に購入した。他に必要そうな日用品は全身用(毛髪込み)の液体石鹸と女性用品だけか。

「おい、誰かいるのか?」

 会計をしていると、購買部に強面の男性教官がやって来た。視線が合うと、教官は眉間に皺を寄せて心底嫌そうな顔をした。

「お前は……。今は授業中だぞ。サボりか?」

 普通に注意を受けた。だが、『サボり』と言う単語に首を傾げる。教官同士で情報の共有がされていないのか?

「昨日の授業の終わりに、今日の夕方に出発するから準備しろと言われました」

「あ゛? どう言う事だ?」

 ヤクザがメンチを切るように、教官は片目を眇め、説明を要求した。

 本当に情報が共有されていなかった模様。何故知らないのかと疑問に思いつつ、昨日起きた事を説明する。すると、何故か眉間の皺が深くなった。

「成程。お前のクラスの教官は確か……ジョン・スチュアートだっけ?」

「ビル・フルード教官です」

「あの狐野郎か」

 眉間の皺を揉み解しながら教官は確認をして来るが、間違っていたので訂正する。

 一応ここは、地球で例えるのならば『小中一貫校』に相当する。九学年も存在するので、必要とされる教官の数も多くなる。中等部の一学年の所属生徒数は、初等部の二学年分の生徒数とほぼ同じだ。単純計算で二倍に増えているので、教官の数も二倍に増えている。

 だからと言って、生徒よりも少ない教官の名前を把握していないのはどうかと思う。それでも、正しい名前を答えると誰だか即座に思い出した。単純に思え間違いをしていたのか?

 いやそれでも、教官同士で情報の共有が成されていないのはどうかと思う。

 逆に『会議での決定ではないのか』と尋ねるが、帰って来た答えは『否』だった。

「一体どこの指示だ? でも出発は夕方。時間は残っている。学長に確認を取る。お前は寮で待機していろ」

 独り言を呟くように考えを纏めた教官は、待機の指示を出すなり自分の返事を聞かずに走り去った。

 ……寮以外に待機場所が存在しないのに、あの教官は何を言っているんだ? 

 まったくもって訳が分からない。けれど、一つだけ解った。

 大人の思惑による異動っぽいな。

 嫌な現実を知り、追加で胃薬と整腸剤と、栄養ドリンクを購入した。



 時間は過ぎて夜。出発時刻はとっくに過ぎている。

 これまた何が起きたのか、出発する直前になって、教官同士で揉めた。揉めも揉めて、出発は明日の昼に延期になった。

 理由は情報の共有がされていない事と、学長が正式に承認していない事の二点だ。

 一体どこからの指示だったんだろうね。


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