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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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六章 排泄するだけの猿じゃないといえるかい 28

❇︎


「正直、観測手の能力をもつのはドゥラだし、適任だろ」

 少し離れて二人になると開口一番タパは言った。

「何言ってるんだそんなことはわからないだろう、お前の方が洞察力は優れているし俺はスダリアスとあんなふうにやりあうことはできない」

 ドゥラは言った。

「俺だって無我夢中だっただけだ。正直ちびっていたよ」

「けどさ、一人だけってのは建設王も少し意地が悪いとは思わないか? 一人でも二人でも変わらないだろ」

 ドゥラの言葉に首を振り推し黙るタパ。

「唐突な別れがやってくるかもしれない。別れに前置きや伏線なんてものはないんだ。こちらのことなどお構いなしにまるで賊のように強引に奪っていく。俺は父親が死んだ時そう感じた。つまりこの試験は俺たちの成長を促すための建設王なりの優しさなんだと思う」

 タパは建設王を崇拝しているのでおそらくいいように受け取っているのではと思ったが言っていることには一理あった。

「それはあまりにわかりにくいだろ。人に誤解を与えるだろうな」

「囮の件もそうだろ。ああ言っていたけれど本当は囮にする気なんてなかったと思うよ」

 二人は頷きあった。けれど、二人とも話の核心に至ることが怖くて遠巻きにしているのだった。しびれを切らしたのはドゥラだった。

「俺たち一人でも現実的に王立騎士団に入れる確率は低いのに二人ともだなんてほとんど不可能に近いだろ。それだけ強い意志を試しているんだろうな。俺は一人でもなれるんならなりたい」

 ドゥラは初めて自分の意思をタパに伝えた。

「俺は正直建設王と一緒に行けるのならおまえを蹴落としてでもと思っている。譲るつもりはない。適性があろうとなかろうと」

 ドゥラは微笑んだ。

「それを聞いて安心したよ。そうじゃないとタパじゃないよ。正々堂々と勝負しようぜ」

 二人が何で勝負するかはすでに決まっている。

「じゃああれしかないよな!」


 『排泄する猿じゃないといえるかい』二人は「猿」と呼んでいる。王都で一時流行ったカードゲームである。「英雄」と呼ばれることもある。


「だがこのゲームなら俺に分があるんじゃないか? 記憶力と推測がモノを言うだろ」

 ドゥラは荷物からカードの束を取り出しながら言った。ドゥラの揺さぶりはすでに始まっている。ゲームの主導権を取りそしてそれを決して離さない。勝利の基本だ。流れを手放してしまうと雪崩のように止められない。だがタパは落ち着き払っている。

「百三十六戦で俺が六十二勝、ドゥラが七十勝、四つの引き分けだ。俺の記憶力も捨てたもんじゃないだろう、しかもここ最近は俺の方が勝率はいい。アブストラクト(完全情報公開型ゲーム)じゃ運の要素がないから強さの差がはっきりして俺じゃ手も足も出ないがこのゲームなら互角の勝負になると思うぜ」

 タパが理詰めでくるとは。彼もまた布石を打ってきているらしい。

 数年前にドゥラが王都で流行っているというカードゲームの情報を仕入れてきて二人はそのゲームに夢中になった。トランプで代用できるのだが、絵の上手いドゥラがいるのだ、ドゥラがイラストを描きカードを作った。ゲームは二人の合言葉のようになった。なにか言い争いや意見の食い違いが起きた時はいつもこのゲームで勝負した。王都ではバランスの調整がなされ多人数でもできるようになり、追加の拡張セットも多く出版されたが、田舎のライフェンにはもちろん情報は伝わって来ず、二人の間では初期の状態のまま真剣勝負として洗練されていった。数々の定石が生まれ、必勝法が編み出されたがその都度新しい戦法でそれを打ち破った。王都では直接攻撃も途中離脱もないソロゲームのようなものが近年主流となっているが二人の間では直接攻撃も途中離脱も日常で瞬間で勝負がつくのも当たり前であった。このゲームでも直接攻撃を持つマーク・バインのカードは妻であるマルグリットのカードがないと発動できない仕組みになっている。これは直接攻撃をするハードルを高く設ける措置であろう。現在の版ではさらに発動条件は厳しくなっている。逆にレヴェルや王などの突然敗北するルールは緩和されている。

 カードの効果が複雑でしかも複数あり、カードの半分がテキストで埋まっており二人はそのようなゲームは初めてだったので最初は試行錯誤だったが、飲み込みが早くわかってくると二人はその面白さに魅了された。今ではカードの効果はすべて頭に入っているので一覧のサマリーをみる必要もない。最初のバージョンのためバランスが荒く、カードの強さの差が激しいのと一瞬で勝敗が決まる時があるのが難点だが、二人はその欠点さえ楽しんでいる。この状況下、このゲームで戦うのが最適解であり、二人はその結果、どちらが勝っても遺恨は残らないだろう。

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