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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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六章 排泄するだけの猿じゃないといえるかい 27

 しばらくすると建設王は皆の元へ戻ってきた。

「いや、悪かったな、待たせてしまったな。タパ、傷はどうだ?」

 建設王は何も感じていないかのようにドゥラたちに話しかけた。

「なんてことはないです。建設王の方が…、大丈夫ですか?」

 タパはきいた。

「こんなものはすっかり慣れているよ。それにほとんどが古傷だよ。瘴気病による皮膚のただれだな」

 建設王は傷を今気がついたというふうに見てとった。ドゥラが後で聞いたところによると瘴気病のせいで痛みをほとんど感じないらしい。

「質問が途中だったね。ここへ私達が来たのは君たちが森の中で狼煙を上げたからだよ、赤はクリーチャーとの遭遇だろ? 村に別件で来ていてね、まさかスダリアスがここまで来ていたとはね」

 あの狼煙が届いていたのだ。

「俺たちが連れて来てしまって、すいません」

 タパとドゥラは二人揃って頭を下げた。

「森に入ってしかも喪に服しているはずなのにな。これはきついお灸を据えなければいけないな」

 二人は再び顔を見合わせた。全てバレている。建設王は少し笑いながら、

「冗談だよ。そこまでして森へ行かなければ行けなかったのには理由があるんだろ。とやかくは言わないさ」

「でも建設王が来てくれなければ村が大変なことになっていたかもしれないし、やっぱり俺たちの責任は大きいです」 

 タパは言った。

「タパ、心配するな。個体名s-17、通称耳欠けは位置も何もかもすでにこちらで把握していたからね。心配しなくていい。もともとはグッケンハイムの調査団が討伐する予定が取り逃がしたからな、そちらの責任だろう。君たちのせいではないよ」

 建設王は事もなげに言った。

「建設王一つ質問していいですか? もしかして囮として僕たちを使ったんですか?」

 ドゥラは聞いた。建設王とイグは少し困ったような表情を浮かべた。タパが珍しく怒ったようにドゥラに詰め寄った。タパが口を開く前に建設王が話し出す。

「そうだよ。タパがスダリアスを引きつけてくれたからね。とにかくスダリアスっていうのは勘が鋭いからね、私は落ち着いて外すことなく撃てたよ、君の言う通り囮といっていいだろうね。私は英雄だなんて持ち上げられているが聖人君子じゃない。実際は標的を倒すためなら多少の犠牲を払っても仕方がないと考える。失望したか」

 ドゥラが口を開こうとするのをタパが制した。

「しかしそうは言っても怪我を負わせてしまったのは計算外だった。こちらのミスだ。悪かったな」

 建設王は二人に頭を下げた。

「建設王が謝るなんて、そんな必要はありません。俺が動けなかっただけですべて自分の責任です。それに俺は囮でもなんでも建設王の役に立ったのだと思うと嬉しいです」

 タパは言った。そして一歩前に出る。

「俺たち王立騎士団に入りたいんです。なんでもします。俺たちを連れていってください」

 タパが直立不動で言った。

「王立騎士団は常に門戸を開いている。なりたい自分になるのに遅すぎることはない」

「建設王の言葉ですか?」

 タパが聞いた。

「いや、とある女性詩人の言葉だよ。含蓄のある言葉だと思わないか?」

 建設王は言った。

「挑戦するのに早い遅いは関係ないってことだ。王立騎士団に入りたいのなら叶えてこそ意味がある。ただ夢みているだけじゃ現実にはならない。行動しろ、体を鍛え勉強しろ、そしてそれを楽しめ」


「けれど俺たちが王立騎士団に入ることができる可能性はほとんどゼロに等しいですよね?」

 ドゥラが言った。

「なぜそう思う?」

「年齢はかなり関係しますよね。歳をとってから得られるものは少ない。早ければ早いほどいいってことですよね? まともにアカデミーを受験しても合格率は1%にも満たない狭き門と聞きました。俺たちは試験を受ける権利さえない。アカデミーに試験なしで入れるのはフォーン=アルデシュ出身の幼少の頃にスカウトされた天才ばかりでしょう」

 ドゥラは言った。

 王立騎士団も今や外部登用が増えてはいるがアカデミーに入るのも王立騎士団に直接入るのもどちらも天文学的数値で困難であり奇跡的といっても過言ではない。

「歳をとってから得られるものは少ない、それは確かにそうかもしれないが、幼少の時の輝きを失う者も多い。歳をとってから輝きを増す者もいる。早い遅いはないと思う。それは誰にもわからない。私がこの村を出たのも君たちぐらいの時だった」

 ライフェンから王立騎士団に入ったのは今まで建設王ただ一人である。アカデミーに入った者さえいない。

「俺たちはもう十五です。建設王が王都へ行ったのは十二か十三の時ですよね。三年の差は大きい」

 ドゥラは言った。

「君はいささか物事をシビアに考えすぎるきらいがあるね。なるようにしかならないというのは無責任すぎるかな、言い方を変えるなら私はそうなりたいという意志が人間を左右するのだと思っている。私もアカデミーを出たわけじゃない。君たちとなんら変わらなかった。私はなにがあろうとも英雄になると決めていたからね」

 建設王はそう言うとさらに続けた。

「君はどうなりたい? 他人からみた自分じゃなく君がどうしたい、どうなりたいかだと思うけれどな。ドゥラ、君はなれない理由を探すんじゃなく今できるベストをつくしてどうすれば理想の自分に辿り着けるか考える方が長い目で見ると近道で得策だと思うよ」

 こんなボロボロになって血を流してたら説得力はないけれどな。そう言って建設王は笑った。

「ドゥラが現実的なのは俺のためなんです。俺がいつも王立騎士団に入りたいって言うから焦って… でも俺たちは本気なんです」

 タパは言った。

「それはもちろんわかってるさ。私は無理だから諦めろなんて一言も言ってない。私は君たちが王立騎士団に入ることができる可能性はあると思っている。君たちの勇気や行動には矜持を感じたよ。確固たる信念があるなら恥じたり引け目を感じる必要はない。そのままいけばいい。私が保証するよ」

 二人は顔を見合わせて笑った。

「真面目な話はこのぐらいにしておこう。君らの後見人に私は規定でなれないがイグならなれるからな、イグ、この子たちの後見人になってやれ」

 ドゥラはてっきりタパは喜びを爆発させると思いタパの方を向いた。しかしまるで違っていた。タパは一歩前に出ると、

「それはズルだと思います。俺たちは俺たちのやり方で必ず王立騎士団に入ります。なので口添えとかは必要ないです」

 タパもどれだけ王立騎士団に入るのが困難かわかっているはずだが、彼がそう言うならドゥラはそれに従おうと思う。やれやれと建設王は肩をすくめた。

「わかった、気長に待ってるよ。私がくたばる前に王立騎士団に入ってくれよ」

 建設王はそこで何事かを考え込んでいる。イグを呼ぶとなにかを耳打ちした。イグは鹿爪らしい顔をして聞いている。

「またそんな勝手なことを。英雄でも規律は守らないと…」

 イグは呟くように小声で抗議をしたが建設王は聞く耳をもっていないらしい。

「君たちの覚悟を見てみたい。覚悟はあるのだろうか? ただ憧れで、人から尊敬されたいとか、名誉、名声のため、富や権力を得たいとかそんな理由ならやめた方がいい」

「そんなものに興味はありません」

 二人は言った。

「愉快な事ばかりじゃないぞ。辛いことの方が多い」

「わかってます」

 再び声を揃えて言った。

「わかった。私は君たちのことを買っている。君たちのうち一人だけ今私の隊に入ってもらう。観測手の助手としてな。適正と覚悟をみる。かなり厳しい評価になると思うがやってみるか? 別にこれは何のズルでもない。正式な試験と思ってもらって構わない。チャンスだと思うがどうだ?」

 二人に否定する選択肢はなかった。

「それはその、どちらか一人なんですか?」

 ドゥラが恐る恐る聞いた。

「そうだ、その点だけは変更はなしだ。それも試験に含まれる。それが嫌ならこの話はなしだ。理想が高いと挫折した時の反動が大きいからな、先延ばしせずに現実をよく知っておく必要がある」

 建設王は言った。

「それはビジャン・オースティンのことを言っているのですか?」

「そうだな、彼は優秀だったがたった一度の挫折で諦めてしまった。私の言葉は届かなかったよ。二人でよく相談しろ、タパ、怪我をおしても来れるな?」

 タパは黙ってうなずいた。

「どちらか一人だ。これで終わる友情ならその程度のものだ。違うかい? 王立騎士団に入ったら瞬時に判断をくださなければならない。どちらが行くかこの場で決めろ。もうすぐ解体班や王立の連中が大挙してここも騒がしくなる。十分やろう、その間にどちらがついてくるか決めてくれ。健闘を祈る」

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