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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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五章 老人と死神 15 Be careful what you wish for

✴︎


 三人は村への道を急いだ。辺りは慣れたもので目を閉じていても歩けるほどで獣道もあり歩きやすい。

 やっと視界に高い塔と壁が入った瞬間、二人は走り出していた。タパは背のギュンドアンの重みさえ忘れた。緩衝地帯に出るとそこをひた走り北門へ向かう。

「タパ、(火薬塔に人は)見えるか?」

「いや、無人だ」

「クソっ、サボってるんじゃねえぞ」

 前を行くタパが言った。夜明け前に出発したのが早すぎたのか、人がいてもよさそうなものだがあたりは死んだように静かだ。昼はもうとっくに過ぎている。

「ドゥラ、俺は北門へ行く。あそこからしか村へは入れないからな。おまえは秘密の通路から入って誰か呼んできてくれ。医者のとこまで連れて行く」

 その瞬間二人の動きが止まった。身体に雷が落ちたかのように痺れが走った。悪い汗が一気に吹き出す。忘れたくても忘れられないスダリアスの臭いだ。右手、森を突き破り北門近くにスダリアスは現れた。長い体毛は所々コゲ落ち、焼け爛れた皮膚が見える。体毛は逆立ち、敵意をこちらに向け、耳を弄する咆哮を上げる。

 スダリアスがじりじりと近づき、タパの眼前に迫り目の前に立った。タパが叫ぶ、

「早くいけ! なんとか時間を稼ぐ、早く逃げろ」

 ドゥラは動けなかった。タパの背からギュンドアンは滑り落ち、地面に横たわっている。スダリアスはタパに襲いかかるわけでもなくあらぬ方向を見ている。視線の先は高い塔だ。スダリアスは自分に対する脅威に対して優先順位をつけるとドゥラは学校の授業で習った記憶があった。脅威が視線の先にあるのか? 村の人が駆けつけてくれたのかもしれない。

 タパは鋭い風切り音を聞いた気がした。スダリアスは体を硬直させた。危険だと察知したのかその場から離れようとした瞬間、横っ腹に真円の波紋が広がった。時間がゆっくりと流れ、皮膚が津波のように揺れるのをタパは間近で見た。スダリアスのちょうど肺があるあたりに恐ろしいほどの速さと力で何かが激突し、肉や骨を破壊し反対側に抜けた。血がどぷりと溢れ出し、地面に落ちるとジュッと音を立てる。スダリアスは何が起こったのか理解が及ばないらしい。踏ん張ろうとしているが四肢は震え、まるで生まれたての子鹿のようだ。絶望ともとれる唸り声をあげたがそれは限りなく弱々しく誰の耳にも届かない。そのままうずくまるように倒れ、動かなくなった。溢れ出す血は勢いを俄然増し噴水のようだ。高温の血からは絶えず煙が上がっている。   

 タパは顔を覆ってその血を避けたが、間に合わず腕の部分にかかってしまった。ひどい火傷の跡が痣のように広がり皮膚を焼き水泡となる。

 タパは幼少の頃に同じ体験をしていた。忘れていたのだけれど、今の瞬間奔流のように克明に思い出していた。このような方法でスダリアスを退治することができる人物はこの世で一人しかいない。英雄だ。タパは安堵で涙が溢れ出すのを止めることができなかった。後ずさろうとして地面に倒れているギュンドアンに躓いて尻餅をついてしまう。ギュンドアンにもスダリアスの血がかかってしまっていて火傷を負っている。死んではいないかと確かめると弱くはあるが息をしていることを確認した。この場を離れることが先決だ。スダリアスは目を閉じているが死んでいるかはわからない。ギュンドアンの両足を持ち、引きずりできるだけスダリアスから離れようとする。火傷でできた水疱はもうすでに潰れてしまい、汁が溢れている。ズキズキと脈打つように痛むが構っている場合ではない。スダリアスの眼前を通る瞬間、スダリアスはその大きな口を開けた。悪臭で気を失いそうになったがなんとか耐えしのぐ。口からも血が溢れ出した。おそらく急所である気管や肺など呼吸器系に重大な損傷を与えたに違いない。スダリアス自らの血が肺に流れ込み、それを排出するために吐血しているのだろう。

 二発目が飛んでくると先ほどと寸分違わず胃の辺りに命中する。堅い肋に守られているが、致命傷であることは間違いない。急所を確実に損傷している。素人であるタパがみてもスダリアスはそれほど長くはもたないことがわかる。しかしスダリアスはまだ死んでいない。次の瞬間、目を開け牙を剥き出しにして、毛を逆立て、塔を睨みつけている。散らかった灰を集め、(おき)に息を吹きかけ火を蘇らせるように、最後の生命の灯を燃やし、自らを死に追いやろうとしている存在を排除しようとしているように見える。第三の弾はまだ来ない。スダリアスは四つん這いでなんとか立ち上がると、森へ逃げるのかと思いきやそうではなく、ふらつきながらも真っ直ぐに高い塔へと向かう。次第に走るスピードを上げ壁に長い爪を突き立て登り、血を流しながらも高い塔に取り付いた。ヤモリのように塔の壁に張り付き登っていくが塔がスダリアスの重さに耐えきれずに音を立てて倒壊していく。レンガが地面に滝のように崩れ落ちて土煙が上がる。崩れようがおかまいなしにスダリアスは塔を登りつめていく。塔はなんとか耐えしのいでいたが、いつ何時倒壊してもおかしくはない。崖を登るクライマーさながらスダリアスは力を振り絞り頂上を目指す。崩れかけて斜めに傾いた頂上部分にしっかりと組みついた。

 塔の頂上に人影が見える。逆光で顔は見えないが、男が二人立っているのをタパは視認した。その時、静寂を引き裂くように乾いた銃声がこだました。森から一斉に鳥が飛び立つ。スダリアスの眉間を打ち抜き後頭部から血が吹き出すのが見えた。頂上の(へり)を掴んだ前足が塔から剥がれた。頭をのけぞらせそのまま落下する。

 タパはしばらくすると起き上がり、ギュンドアンを放置したまま、草葉に隠れていたドゥラの頬を軽く叩いて正気を取り戻させると手を引いて高い塔へ向かった。塔は奇跡的にバランスを保っており倒壊はしていない。まだバラバラとレンガが頭上から落ちてくる。

 塔の下は崩れ落ちた瓦礫で一杯でその中央に一際大きなスダリアスが仰向けに倒れている。瓦礫がその巨体で潰され粉々になり土煙が濛々と上がっている。おびただしい量の血が溢れ続けタパとドゥラの足元まで達し、沼のような状態になっている。

「危ないぞ、それ以上近づくな」

 背後から二人の肩に手をかけられた。長身で腕が丸太のように太い。タパが背後を振り返ると見上げるほどの大男だ。その大男の影からもう一人の男が姿を現す。仮面の男、真の英雄である建設王だ。

「おまえたち、よく頑張ったな」

 仮面の男はタパとドゥラにそう声をかけた。タパは涙を流しながら建設王に抱きついた。ドゥラは直立し敬礼をする。

「村にスダリアスを連れてきてしまってごめんなさい」

 嗚咽しながらタパは言った。責任感の強いタパのことだ、そのことをかなり気にしていたのだろう、とドゥラは思った。こいつは人一倍頑張ってスダリアスと戦ったんだ、と建設王にドゥラは伝えたかった。建設王はタパの頭を撫でている。 建設王は何も言わないがすべてわかっていると優しくタパの頭を撫で続けた。

五章ラストです。次の章とつなげるため修正しました。評価&ブックマークをいただけるととても喜びます。よろしくお願いいたします。

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