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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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四章 彼女は私に空の飛び方を教えてくれた 11 She Taught Me How To Fly

 数週間後、三人の怪我はまだ痛々しい状態だったが若いので回復は早い。ビジャンはその日から熱を出し一週間ほど寝込んだ。鼻の骨も折れてしまい、息がしづらかった。延々と浅い眠りを繰り返し、悪夢を見たがほとんど忘れてしまった。タパとドゥラが何度も来ていたそうだが門前払いだったらしい。

 ようやく動けるようになったのでまだひどい顔だったがかまわず学校へ行くことにした。壊れた眼鏡を素人仕事で補修したものをビジャンはそのまま使っていた。新調したものがあったのだがあえて使わなかった。祖父は何も言わず姿を見せなかった。

 タパとドゥラの二人はあの日のことについては特に触れない。ビジャンは自分を庇ってくれたことについて礼を言いたかったのだけれど、タイミングを逸してしまった。

 学校ではビジャンの怪我には誰も触れなかった。喧嘩でもしたのだろうと思っているのかもしれない。しかしそんなこともみな一日過ぎれば興味を失ってしまったようだ。


 火薬塔の図書館でビジャン、タパ、ドゥラムリアの三人は話し合っていた。机にはライフェンの北の森の地図が広げられている。司書の姿はあの日以来見ていない。どこかよその土地へ行ったらしいよ、とドゥラが教えてくれた。あんな奴はスダリアスにでも食われてしまえばいい、そうビジャンは思った。秘密基地が埋められてしまったので集まる場所が限られるのだが、今日は地図が必要だったので必然的に図書館になったのだ。建設王の本はもうないけれど、その内容はビジャンもドゥラムリアもほとんど記憶していたので、失ってしまってもそれほど痛手は無いのだった。勿体無かったな、とは思うけれど。本にあった建設王の生家に関する記述はすべてメモして書き写してある。ビジャンはポケットからそのメモをとりだした。

「『水汲みは自分の仕事だった。川が近くにあり少し坂を登らなければならないが…』とあったので川がどこかってことだよね」

 ビジャンが言った。

「川って言ってもかなり絞り込むのは難しいよ。漠然としすぎていて。ライフェン川も川だからね、それもかなり長い」

 ドゥラはそう言いつづけた。ライフェン川は森の奥、山の中に源流があると言われているが判明していない。そのまま森を抜け村を横切りはるか北にあるコールスカンプから海へと続いている。途中分岐しレイテ川となり王都へとつながっている。

「建設王が見た景色ってのはあの幽霊塔からで間違いないだろうね。あの塔が見える範囲内の川の近くに目的地はあるってことだな」  

「かなり広範囲なんじゃない?」

 ビジャンの言葉におそらくね、とドゥラムリアは答えた。後ろから酒臭い息が漂ってくる。

「三人雁首揃えてなんの悪巧みだ? おや、珍しいのが混ざっているじゃないか。タパ、ドゥラ、くだらないことをビジャンに吹き込むんじゃないぞ」

 タパの父親のハンスだった。

「親父こそ見張りはどうしたんだよ。昼間から飲んでさ、持ち場に戻りなよ」

 タパは言った。

「今は休憩だ。見張っていても何も来やしないさ。暇で何もないことが平和の証だ。こうやって酒も飲める」

 ビジャンはこの人はシラフの時は見たことがないな、と思った。急にドゥラが出し抜けに聞いた。

「もしかして、幽霊塔って親父さんの所有物じゃない?」

「誰に聞いた?」

 急に真顔になったハンスに驚く三人。

「建設王にきいたんだ」

 ドゥラムリアは平然と言った。もちろん出まかせだろう、ビジャンはドキドキした。本の中では建設王は高い塔から景色をみるシーンがあったが、そこが幽霊塔だとは言及していなかった。幽霊塔に関する記述はなくわざと避けていたようにも思える。ハンスはしばらく考えていたが、もう別に話してもいいだろう、と独り言を言い話し始めた。

「私と建設王は古い友人でな、正確にはあの塔の持ち主は建設王なんだ。私は管理を任されている。建設王は村があの塔を壊そうとしているのを知ってそれを阻止するために買い取ったんだ。もうその頃あいつは王立騎士団に入っていたからなかなか村へは帰れない。だから私が代わりに管理をすることになったんだ。彼が出した条件は何もしないこと、中にも入らないことだ。私は重要な任務を今日もまじめに遂行しているわけだ」

 ハンスは言った。

「しかしな、最近誰かが頻繁に入った痕跡があるんだ。まさかお前たちじゃないよな」

 ハンスの目は笑っていない。三人は顔を見合わせた。

「まさか、幽霊塔に近づく度胸があるやつなんてこの村にはいるわけないよ」

 タパは言った。ビジャンはタパがなにか墓穴を掘るようなことをいわないかとひやひやしていた。ハンスは何も言わずにじっと三人を見ていたがやがていつもの弛緩した表情に戻った。

「でかいネズミでも住み着いているのかもな。前はミミズクが住んでいてな、ネズミを食ってくれてたから助かっていたんだがな」

 ハンスは気がついているのだろうか? 確固たる証拠は残していないはずだ。

 ここからは独り言だ。とハンスは言う。「仮面をした英雄が昔住んでいた集落に私は一度だけ行ったことがある。高い塔はずっと見えていたのは確かだ。けれど、北西じゃない。北東だ」そろそろ見張りに戻る時間だ、お前たち勉強しろよ、と言いながらハンスは図書館を出て行った。

「ヤバかったな、ヒヤヒヤしたぜ」

 タパは胸を撫で下ろしている。

「俺はてっきりおまえが一階は扉が板で封印されてるから入れやしないよ、とか言い出すかと思ったよ。ヤバくなると饒舌になるところがあるからな」

 ドゥラムリアが言った。タパはなぜそれを言っちゃいけないんだよ、という顔をしている。

「なんで近づいちゃいけない塔の入り口が封鎖されてるのを知ってるんだよって話だよ」  

 ビジャンが答えるとああなるほどと納得してうなずいた。だがもう少しでも詰め寄られたらビジャンは簡単に白状してしまっていたかもしれない。

「だけど収穫もあったよな、これで絞り込めるな」

 ドゥラは塔が見える範囲で大人の足で一時間ぐらいの範囲だとこれぐらいか、とブツブツ言いながら指で地図上に半円を描いた。その中で北東にあるはずの川を調べている。

「しかしドゥラ、なんでうちの親父が塔の持ち主? いや管理人だってわかったんだ? うちでそんな話はまったく聞いたこともないぜ」

 それはビジャンも思っていたことだ。

「ずっと不思議だったんだ。こんな辺境の村になんで建設王は毎年決まってこの時期に来るのかってな」わざわざ建設王自ら来る必要はないものな、とドゥラはいい続けた。

「最も考えられるのは家族の墓参りだろう。教科書やビジャンの本の通り、建設王の両親はすでに亡くなられていてこの村の共同墓地に埋葬され石碑が立っている。タパと共同墓地で建設王が来ないか張ったこともあったが空振りだった。第一にスダリアスに襲われた時期じゃないしな」

 あれ、そんな目的だったんだ! とタパは驚いている。何も知らないで墓地を張っていたのか。 

「ビジャンが塔の近くで建設王と話したって言ってたからカマをかけたんだけど。当たったな。建設王は塔が目的で村に来ていたんだな」

 塔に思い出があるんだと言った建設王の横顔をビジャンは思い出していた。

「ところでさ」

 タパは言う。

「俺たちはなんのためにこんなことをしているんだ? 教えてくれよ」

 ビジャンとドゥラムリアは顔を見合わせ笑った。


「なぁ確認しておきたい、俺たちがその場所に一緒に行っていいのか?」

 ドゥラムリアがかしこまって言った。タパはなんのことか分かっていない様子だったが、口には出さないようだ。それ程ドゥラムリアの判断を信頼しているのだろう。

「俺たちはついてくるなと言われれば行かないし他の人にも何も言わない。今まで通り協力もする」

「それは僕に都合が良すぎないか?」

「いや、ここまでやったから俺たちを連れていかなければいけないとか気をつかってくれるな、という事だ」

「ドゥラ、タパ、僕は君たちを信頼しているし、仲間だし親友だと思っている。こんな面白そうな場所に親友たちと一緒に行かないなんて考えられないだろ?」

 建設王がくれた本を読んだ時パッとひらめいたのだ。建設王の生家に行ってみよう。そしてあわよくばその場所を綺麗にして新しい三人の秘密基地にできるんじゃないかと。そしてすぐにドゥラムリアに相談したのだ。以前の自分では考えられなかっただろう。すべて一人でやろうとしたはずだ。しかし今は違う。タパとドゥラムリアと三人でやらなければなんの意味もないとさえ思える。タパは勉強はできないけれど、川で魚を捕まえる方法や罠の仕掛け方、草花の名前や食べられるキノコの見分け方、壁の抜け道や何より絶対に行ってはいけないという森の中に何度も入ったことがあると言う。タパは友人思いで、熱くそしてとても優しい。いつも悪さをするタパは軽く見られているが本当は人一倍勇敢で行動力があり賢い人間であることをビジャンは知っている。ドゥラムリアは頭の回転が速く、思慮深くこちらの意図を正確に汲み取ってくれる。そんな二人に、初めての友達に少しでもビジャンは恩返しをしたいと思っている。


「集落ってこの地図には描いてないんだな」

 タパが言った。目的を知り会話に参加したいのだろう。

「意図的に描かれていないんだろうな。この範囲で川がある場所はないな」

 ドゥラが言ったがタパは北東の端を指差す。

「ここ、昔川だったんだよ。左右が切り立ったゴルジュでさ、間違い無いと思うよ。干上がって今はゴロ場だけど、おまえら前にサキダルの丘がどうとか言ってただろ、そこへ行くにはおそらくこの場所を通ることになるからな。サキダルはまだずっと奥地だけど」

「さすが、タパ」

 ビジャンは快哉を叫んだ。

 決まりだな、三人は顔を見合わせうなずきあった。

 タパは言った。

「さぁ冒険に出かけよう」

九月分です。毎月三十日に一章更新。

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