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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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四章 彼女は私に空の飛び方を教えてくれた 10 She Taught Me How To Fly

 家に帰り自分の部屋に入ると何だか様子がおかしいことに気がついた。本棚に置いていた本が綺麗さっぱり消えている。まさかとは思いながらベッドの下に隠していた本もなくなっていた。大事な本は秘密基地に置いていたので難を逃れたが、それは厳選したほんの一部だ。目の前が真っ暗になり、ベッドの上に座り込み、しばらく動けなかった。まぁ無駄だとは思うが一応まだ捨てずに置いてあるかもしれないと焼却炉に向かう。焼却炉をのぞいてみると燃えかすの中に見慣れた表紙の焼けたこげカスが残っていた。いたるところに焦げたページの端切れが落ちている。手に取るともろく崩れ去った。

「何をしている!」

 背後から声をかけられビクッとビジャンの体が硬直する。

「くだらないものばかり読んでいるとくだらない人間になる。家にばかりこもっているから目が悪くなるんだ」

 ビジャンは下を向いて手を握りしめる。強く握りすぎて爪が皮膚に食い込み跡が残った。ビジャンは何も言い返さずそのまま自室に戻った。返事をしなかったのがせめてもの反抗だった。後ろで祖父が何かまだ言っていたが無視をして自室に戻った。

 次の日学校が終わるとビジャンは火薬塔の図書館に、タパとドゥラムリアは秘密基地へ向かった。ビジャンも作業が終わり次第合流する予定だ。夏が終わりビジャンは落ち葉を踏むクシャッという音が好きなので、道脇の落ち葉を残らず踏んでいたらすっかり遅くなってしまった。我ながら子どもぽいなと反省した。      

 図書館でいつものように過ごしているとタパが息急き切って図書館に走り込んできた。

「た、たいへんだ」

 タパがゼェゼェと息をついている間、ビジャンは辛抱強く待つ。

「水、飲みなよ」

 ビジャンが渡した水をタパは一息で飲み干した。

「基地が、秘密基地が埋められる」

「どういうこと?」

 ビジャンが聞き返しても要領を得ない。

「とにかく来てくれ」

 司書に出ることを伝えようとしたが姿が見えなかった。まぁ無人でも構わないだろう。二人は走って中央広場へ向かってアルバーン通りを南下する。そこから大聖堂の敷地内に入る。二人は草陰に身を隠し様子をうかがう。人が大聖堂の裏庭に集まっている。手にはシャベルやツルハシなどを持ちオースティン卿が下男になにやら指示を出している。秘密基地の明かり取りの穴を見つけるとそこを掘り広げ、身体をねじ込み中に侵入していった。中からなにやら声が聞こえてくる。その間に手押し車で土砂が次々とどこからか運ばれて、築山が築かれた。オースティン卿の合図で穴に土砂が流し込まれる。下では先に入った者が土砂を部屋の中で運び埋める作業をしているようだ。作業を見守っていると後ろからドゥラが合流する。先程まで中にいたらしい。

「鉢合わせしなかったか?」

 ビジャンは聞いた。

「あぁ、でもこれはなんとか救い出してきたよ」

 ビジャンが持ち込んだ数冊の本をドゥラムリアは持ってきていた。その中には建設王にもらった本がなかった。

「もとからなかったよ、てっきりビジャンが肌身離さず持ってるのかと思ってたけど…」

「え? 秘密基地にあったんだけど」

 

 オースティン卿の後ろに見慣れた人物が立っておりオースティン卿となにやら話をしている。オースティン卿は懐から本を取り出すとその人物に渡した。見間違えるはずはない。それは建設王にもらった本だった。その人物はいつも寝ている司書だった。本を手にして嬉しそうな顔をしている。思わずビジャンは立ち上がり草むらから出てしまった。

「やぁこれはこれは、ビジャンじゃないか」

 秘密基地の鍵を取り出すとビジャンの方に投げてよこした。いつの間にか盗まれていたのだ。

「君の子守りをするのも今日で最後だ。ずっと前からオースティン卿に君のことを監視するように言われてたんだよ。この報酬はありがたく受け取っておくよ」

 何も言えないビジャン。

 じゃあな、と言うと司書は立ち去った。


「な、なんでこんなひどいことをするんですか」

 ビジャンはオースティン卿に言った。

「お前のために必要だったことだ」

 オースティン卿が言い返す。

「僕のためじゃない、おじいちゃんのためじゃないか!」

 ビジャンの一言でオースティン卿の顔色が変わった。

「なんて口の聞き方だ!」

 後ろからタパとドゥラムリアが飛び出してきた。

「ビジャン、付き合う相手はあれ程選べと言っただろう。クズと付き合えばおまえもクズになるんだぞ」 

 オースティン卿は静かな声で言ったが有無を言わさぬ威圧感があった。

「ドゥラムリアは学校で一番賢いし、勉強もできる。僕なんてまったく敵わない。タパはすごい運動神経だ。目もめちゃくちゃいいし足も速い。二人とも王立アカデミーに入れると思う。二人とも僕の親友だ。親友のことを悪く言わないでほしい」

 オースティン卿はいきなり何も言わずに平手でビジャンの頬をはたいた。後方に吹き飛ばされるビジャン。メガネがどこかへ飛んでいき視界がぼやけた。片膝をつき立ち上がる。二人が前に立ちはだかる。

「俺たちが悪いんです」

「ビジャンは悪くありません」

 タパとドゥラムリアがビジャンを庇う。立ちはだかる二人を払い除けるかのように突き飛ばすと鬼の形相でビジャンに歩み寄る。何も言わずに拳で殴りつけた。ビジャンはあまりの衝撃に何も言えず、目の前で火花が散りそのまま膝から崩れ落ちそうになったが、素直に倒れさせてはくれなかった。オースティン卿は問答無用でビジャンの襟首をつかみ右の拳で殴り続けた。痛みは感じず、顔が焼けるように熱かった。鼻からドロリとした血が流れ、口の中も切ったのだろう鉄の味がした。

「もう、やめてくれ、死んじまう」

 タパが止めに入るが手で払いのけられる。ドゥラムリアは背後からしがみつくが簡単に振り落とされてしまう。しかし意識がドゥラムリアに向いたためにビジャンを掴んでいた左手を離した。ビジャンはその場に崩れ落ちた。首がしまっていたので息ができず、ゼエゼエと何度も喘いだ。その声は自分のものではないような気がした。ビジャンは歯を食いしばり拳を握りしめた。気が逸れていたオースティン卿がこちらを向き直った瞬間ビジャンはその頬を殴りつけた。卿は一瞬面食らったようだが、目を見開きブチ切れビジャンを最大限の力で殴り続けた。そこには殺意さえ感じた。右に左にただただ殴られ続ける。ビジャンは気が遠くなり再び膝をつきうつぶせに倒れた。卿の拳が空を切った。全身が石のように重く痺れ立ち上がることさえできない。血の味が不快だ。頭が割れるように痛い。「友人を傷つけるのはたとえ祖父でもゆるさない」と立ち上がり戦おうとするのだが、うーあーとうなり声が出るだけで体はぴくりとも動かなかった。ビジャンは何もできずにただ地面に這いつくばっていただけだった。止めどなく涙が流れ続ける。涙は鼻血と混ざり合い朱色になって地面に落ちた。自分にもっと勇気があれば立ち向かっていけるのに。そう思っても力が入らず手は痺れ震えが止まらない。まぶたが腫れているのか視界も遮られている。

 善戦したのはドゥラムリアだった。ドゥラムリアは卿の腕にしがみつき顔を引っ掻きまるで猫のようだった。だがそれも首を掴まれ地面に叩きつけられ静かになった。タパは必死に背後にしがみつき動きを止めていたが最後は逆に首を締め落とされ意識を失った。卿は拳についた血をもう片方の手で拭っている。ビジャンのメガネはレンズにヒビが入りフレームが折れて壊れてしまった。

 卿は何も言わずそのままその場を立ち去って行った。

九月分です。毎月三十日に一章更新。

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