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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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四章 彼女は私に空の飛び方を教えてくれた 8 She Taught Me How To Fly

「ここだよ」

 タパが自慢げに指差した場所はただの水路の壁で別段変わったところはない。タパは壁に近づくと草が巻き付いた石板を動かしはじめる。ドゥラムリアも手伝い、二人は足を使って脇に動かした。石板の向こうは小さな横穴が奥に向かって伸びている。その穴は小さく、四つん這いで進まなくてはならなかった。タパ、ビジャン、ドゥラムリアの順で中に入り進んでいく。ビジャンは肩や膝がすぐに悲鳴をあげはじめる。狭く真っ暗で息も苦しかった。今更戻ることもできないので前を進むタパのお尻をじっと見ながら進んでいった。しばらく行くと急に止まるものだからまともにタパのお尻に顔を突っ込んでしまった。タパはそのまま手を伸ばし一段下がった地面に手をつくと穴の下へと着地したようだ。ビジャンも続くと先に降りたタパが肩を掴み抱きかかえて地面にビジャンを下ろした。ドゥラムリアも続く。横穴は終わり、少し開けた通路のような場所につながっていた。真っ暗で確証はないのだが、水と空気が流れる音がする。タパがランプに明かりを灯す。何度も来ているのだろう、壁に棚のようなものが設えてあり、そこにランプと何やら道具が置かれている。

「この穴掘るの大変だったんだぜ」

 タパはマッチの火を吹き消し言った。ランプの明かりは頼りなく、恐ろしげな影を壁に描き出す。この広い方が本来の隧道であり、今通って来た道は二人が掘った横穴らしかった。隧道の入り口は埋められていて入ることはできないそうだ。

「大量の土をわからないように遠くに運ぶのが一苦労なんだ。早く進みたいからすぐ近くに捨てると結局雪崩を起こして中に入って来ちゃうんだよ」

 この秘密の横穴を誰にも言えなかったのでタパは誰かに自慢したかったらしい。

「先を急ぐぞ、タパ」

 ドゥラムリアは促した。

「なんでここに水路があるってわかったんだ?」

 ビジャンは気になっていることをドゥラムリアに聞いた。水路は先ほどの横穴と違って歩いて進むことができる広さがあった。地下の隧道内は光が一切入ってこないので先頭を行くタパのランプの明かりが頼りだ。

「本に昔は地下に水路が張り巡らされていたってあったから中には今は使われなくなった水路もあるんじゃないかって思って調べたんだ」

 ドゥラムリアは言った。時々水路は枝分かれしていたが、タパはその都度ビジャンとドゥラムリアを待たせて先へ行きしばらくしたら戻ってくる。

「間違えると迷っちゃうからな、目印を打ってあるんだよ」

 待っている時にビジャンの後ろからドゥラムリアが言った。明かりがないので、その声は壁で反響し、前から聞こえた気がしてなんだか変な感じだ。


 ここは汚染されて使われなくなった隧道を埋めたものだろうか? 

 更に奥へと隧道は続いている。地下通路のようになっており、足元は溝が掘られ今でも水は流れている。ドゥラムリアによると導水渠というらしい。昔はこの水路を使い各家庭に水を供給していたようだが、今は経年劣化やメンテナンスをしていないため使い物にはならないようだ。天井は石や煉瓦、木材で崩落しないように補強されている。漆喰が塗られ水によって固まるセメントのようなものが使われているがボロボロで触ると脆く崩れ落ちる。水路は狭く大人では入り込むのは難しいだろう、子どものビジャンたちでも屈まなくては進むことはできない。

 人一人がかがめば歩いて行けたが、とにかく狭くて暗いので息がつまる。通路をかなり歩いた気もするが、思った以上に神経をすり減らしていたので、それ程の距離ではなかったのかもしれない。地面は乾いているところはほとんどなく、石が敷いてある部分以外はぬかるんでいて石の上は苔のせいか酷く滑った。何度か転んだせいでビジャンのお尻はびしゃびしゃだった。

「やっとついたぞ」

 タパが言い、明かりをビジャンに渡してポケットを弄っている。光を先に向けると水路はまだまだ続いている。タパの前には扉があり施錠されているようだ。ようやく見つけた鍵をタパは鍵穴に差し込みまわす。カチリと小気味良い音が隧道内に響いた。

「ようこそ、我らの秘密基地(ケイブ)へ」

 タパがドアを開けビジャンに道を譲る。中は小振りの部屋で、天井に設けられた明かり取り兼空気穴からは一条の光が差し込み部屋の中を薄く照らしている。タパは背伸びして明かり取りの前に差し込まれていた板を取り払った。より明るい光が差し込んだ。タパはランプの火を吹き消してテーブルの上に置いた。目が順応する。部屋の中は簡易的な机と椅子、壁際には棚とベッドが置かれている。三人が入ると少し窮屈だった。

「この家具、全部俺たちで作ったんだぜ」

 タパが誇らしげに言った。

「すごいな、ここ。最高だ」

 ビジャンの言葉にタパとドゥラムリアは破顔した。

「大昔にこの村のまわりに壁がなかった頃、クリーチャーに襲撃を受けた際に村人が隠れるシェルターのようなものが色々な場所に作られたんだと思う。そのほとんどは壁ができた際に不用になって埋められたり他のものに再利用されたりして、その中で唯一残って忘れ去られたのがここなんじゃないかと俺は推測してる」

 ドゥラムリアは椅子に座りながらそう言った。そこが定位置なのだろう。タパはベッドに座ったので、ビジャンはドゥラムリアの対面に座った。

「ちょっと遠いけどな、俺たちだけの空間だ。おまえも好きに使ったらいい」

 タパが言った。

「ここを自由に使っていいの? 本当に?」

 その提案はまさに夢のようでビジャンの望みが叶う。

「ああ、ただし…」

 タパが言う。ああ、そんなうまい話はないんだよな、とビジャンは落胆した。

「今日の外国語の宿題を写させてくれたらな」

 タパは笑った。ビジャンとドゥラムリアも笑った。

「宿題は写しても身に付かないからさ、よかったら僕が教えるよ」

 ビジャンは言った。

九月分です。毎月三十日に一章更新。

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