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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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四章 彼女は私に空の飛び方を教えてくれた 5 She Taught Me How To Fly

 人がいない場所を早急に探す必要があった。もらった本をゆっくりと読める環境を求めて彷徨(さまよ)うこととなった。候補は二箇所だ。一箇所は壁沿いの幽霊塔と呼ばれている古い塔。ここは厳重に閉められ立ち入り禁止になっている。火薬塔の見張りからも程近いので見つかってしまう可能性があった。もし見つかったら何故塔に近づいたのか言い訳を考えるのも面倒だった。もう一つの候補はおそらく村のほとんどの人が近づかない場所だ。そこを知らない人もいるかもしれない。今はそこに向かっている。ビジャンは古い水路に降りてしばらく歩く。水路はせき止められ現在は使われていない。雑草が我が物顔で蔓延(はびこ)っており、石畳の石は苔むして濃い緑色をしている。しばらく進むと地上へ戻る階段が見えて来る。そこを上り藪に分け入ると目的の場所が見えて来る。そこは背の高い草やイバラに覆われた藪の中に突如現れたドーム型の空き地だ。その空き地は子どもたちの恰好の遊び場に思えるが、誰一人ここへ近づくものはいない。何故なら十年前にこの場所でスダリアスが討伐されたため土壌が瘴気と血で汚染されたからである。空き地の端には石碑が建っている。スダリアスを建設王が討伐した経緯が彫り込まれ、その戦いで命を落とした三名の名前が刻まれている。

 慰霊碑をなんとはなしに眺めながら次に何をすればいいかビジャンは考える。ここは人は来ないがなんだか不気味だし、陽射しがきついので、ゆっくり本を読むにはあまり適した場所ではないなとビジャンは思う。できれば屋内が望ましい。雨が降る音を聞きながら読めたら最高だろうな、と妄想にふけっていると慰霊碑の裏側の草がガサガサと鳴り人影が飛び出してきた。ビジャンは正直パニックになる程驚いた。知らない間に尻餅をついて後ろに後ずさっていた。しばらくしてようやくビジャンは落ち着きを取り戻し見上げるとよく見知っているタパとドゥラムリアの二人だった。

「こんなところに何の用だ、優等生?」

 タパがしゃがみ込み、ビジャンに聞いた。ドゥラムリアは後ろで腕を組んでいる。

「その名はやめてくれ、僕はビジャンだ」

 ビジャンは言った。年上になんだその口の利き方は! とかなんとか言われ殴られるのでは、と身構えたがタパは何もしてこなかった。

「なぁ、ビジャン、ここにスダリアスの死体が埋められてると思うか?」

 後ろに立っていたドゥラムリアが全く関係ないことを言った。

「それはないと思う。もし埋まってたら瘴気で土壌が汚染されて草一本はえてないだろうし、スダリアスはすぐに腐って土に戻るらしいし、骨なんかは研究のためにすべて回収するって聞いたことがある。それ専用の業者があるらしいし。シエラマドレも元は回収業者で人を派遣してたって」

 ビジャンの話は全て本で得た知識である。本当か間違っているかは知らない。

「もしかして『建設王の最期』て本か? 俺も読んだ。前の建設王の遺体も王都へ運び込まれたんだってな。英雄ってのは死んでも静かに葬られることなく世のため人のために解剖されるらしい」

 ドゥラムリアが言った。ビジャンもこんなに他人と話したのは久しぶりだった。

「あ、このタパもその本にちらっと登場したんだぜ、時計塔にサンドイッチを届ける少年としてな、まぁまったくの端役だがな」

「おまえら俺の存在を忘れてやしないか? 俺はこの目で見たんだよ、スダリアスをさ」

 タパが言った。

「その話は二万回ぐらい聞いたよ。なぁビジャン、この少年(、、)がさ、ここを掘ってみたいって言うんだよ、何もないって言ってるんだけどな。納得しないからさ、そうしたらおまえが来たってわけさ」 

 タパは墓守りの息子なので、この慰霊碑の掃除をするように言われ友だちのドゥラムリアと一緒に来たが、こんな場所に人がくるはずはないので掃除などせずサボっていたらしい。ビジャンの足音を聞き、大人がちゃんと掃除をしているか見に来たと思い咄嗟に隠れたようだ。

「で、スダリアスの亡骸を掘り起こして何がしたかったの?」

 ビジャンは聞いた。

「いや、ただ見てみたかったんだよ、どんなものなのか。俺、覚えているはずなんだけどな、強烈な印象だから。でもなぜか強烈すぎて思い出せないんだよ。夢の中とか授業中にふっとした瞬間に思い出すことはあるんだけどそれっきりでさ。でもおまえら頭のいい奴が言うんだからここには何も埋まってないんだろうな」

 タパは納得したようだ。

「ここは立ち入り禁止ってわけじゃないけど、滅多に人は来ない場所だ。来たのにはなんか理由があるのか?」

 ドゥラムリアが聞いた。理由か、理由を話すなら建設王にもらった本の話もしなくちゃいけないだろう。それはなんだか言うのがためらわれた。

「まぁおまえが言いたくないなら構わないさ。詮索はしない。俺たちはもう帰るよ。暗くなる前におまえも戻りなよ」

 ドゥラムリアはそう言うとタパを連れ行ってしまった。ビジャンはなんだか胸がドキドキしていた。

九月分です。毎月三十日に一章更新。

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