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神の頬に触れるような気持ち  年代記第六章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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三章 消えゆく生命の灯火 2 the dying of the light

 二人がリンブルフ大聖堂についたときに中央広場には王立騎士団から派遣された斥候二人と騎獣師が到着しており、斥候の一人であるDKが中に入る準備を進めていた。着いた時間はそう差はなかったらしい。広場の端では騎獣師とダルイソが何やら話をしている。

「久しぶりだな。やはりお前たちだったか」

 DKは嬉しそうに笑った。

「DK! 元気だったか?」

 バンダーはDKとハグを交わす。体格の良い二人がハグをすると取っ組み合いの喧嘩をしているようだ。その陽気な巨漢は浅黒い肌から蛮族出身者だとわかる。DK、本名はデケ(DK)イリン・ゼカリアスという。父親であるテレンスもかつて王立騎士団に所属していたエリートだ。体格はバンダーには劣るが大きく、体格の割にすばやく、王立騎士団の中でもトップクラスに足が早い。

 向こうでダルイソがDKを呼んでいる。

「悪い、ちょっと行ってくる」

 DKは急いで走っていく。

「この場面、何処かで見た気がするな」

 バンダーが言った。

「既視感てやつか?」

 オドゥンゼの問いにそんな大層なものでもないとバンダーは応え考える。

「いや、思い出した。ライフェンだよ、ダルイソとDKが新入りに何か言ってただろ」

 バンダーは思い出しそう言った。

「新入りか、懐かしいな。ケイレブだったっけな」

「ああ、ケイレブだ。ビックマウスで俺は好きだったんだがな。生きてりゃここにもいたかもしれないな。言っても俺たちも王立騎士団は辞めてるが。二度と戦場には戻る気は無かったし、ましてや斥候などするつもりはなかったんだがな」

 バンダーは言った。バンダーとオドゥンゼの二人は六年前に王立騎士団を辞めている。クラニオに入ったのは二年前である。二人は王立騎士団を辞めた後は密輸業者をしていた。元々は禁制品や税金のかけられた品々を密かに輸出入することだったが、彼らが扱うのはほぼアーティファクトに限られる。オークションにかけられる前のものや、盗品などであり、そのぶん仲介手数料はかなり高い。アーティファクトは表向き一個人が所有独占することや対人に使うことが禁止されているが、彼らが運ぶアーティファクトは極めて違法性が高くその限りではない。そのほとんどが所有欲を満たすことであり美術品となんら変わることがなく、実際に使用することはないといっていいだろう。普通の人なら知りようがないアーティファクトの相場や稀少性について詳しいのはそのためである。元の職業に戻っただけとも言えるが紆余曲折があり密輸業者からクラニオに入ることとなったが斥候をしているのも珍しいアーティファクトを横流しする目的もある。

「辞めたが結局戻って来ちまった。もしかして使命感か?」

 オドゥンゼはバンダーに聞いた。

「まさか、惰性だよ。クラニオにいる方がお前の好きなフィルム集めもしやすいからな。この仕事しかできないってのもある。俺たちは所詮王立騎士団の下請けだからな。だがそれも今回で最後だ」

 何も聞いてないぞ、そんな話、とオドゥンゼは慌てて言った。そりゃ話してないからな、とバンダーは続ける。

「この二年でつくづく思ったんだ。戦場っていうのは生半可な気持ちでいたら生き残れない。忍耐力、献身的な姿勢、勝利への意志、その全てが高い水準で維持しなけりゃいけない。俺にはもう無理だ。要求される高い水準にもはや応えられないことを悟った。大きな怪我をしてさらに持病の首の怪我に悩まされてきた。良いパフォーマンスができない。もう限界だ。他にもライフェンで負った頭蓋骨陥没骨折や鎖骨の骨折など枚挙にいとまはない。もうこんな生活をして何年だ? 俺には妻や娘もいるからな、潮時だ」

 バンダーは言った。

「俺も肋骨を骨折して治っちゃいない。肺の穿刺を受け水を抜いたばかりだ。怪我自慢はもういい。誰だって体はボロボロだ。だが、守るべきものがあるものは死にやしない。お前はそう言ってこれからも俺と一緒に戦うんだよ、目に見えている。ストイックなのは勝手だがな、そんなものはだましだましやればいいんだよ」

 バンダーの言葉を黙って聞いていたオドゥンゼはそう言った。

「この話はまた後だ。あいつらが戻ってくるみたいだ」


「エスケリクアスコ、フェフコ」

 ダルイソはあらゆる言語を話すことができた。ダルイソがフェフコとの会話を終わらせ、フェフコはその場を離れて騎獣の元へ向かった。入れ替わりにDKが向こうからやってくる。

「DK、ちょっと予定が変わった」

「フェフコはなんて言ってたんだ?」

 DKが聞いた。

「ああ、ここはなんだか嫌な予感がするってさ。騎獣もなんだかそわそわしてるらしい。俺には全くわからないが。中に入りたくないっていうからそのままそこで騎獣といっしょに待機してろって言っといたよ」

「第六感てやつか」

「そうかもしれんな。あいつらは独特の文化を持っているからな、従わざるを得ん。あいつの住む自治区は国の公用語とはかなり違う独自の言葉を話すし、騎獣師にはあいつの出身地が多いんだ。獣の言葉も理解しているのかもしれないな」

 ダルイソは言った。

「ダルイソ、やっぱりクラニオから来た奴はあの二人だったな」


「この四人が揃うなんて何年振りだ?」

 オドゥンゼが言った。

「俺たちが王立騎士団をやめたのもこの四人で参加したライフェンの戦いだったな」

 バンダーが言った。

「昔を思い出すな、こんなところで四人そろうとは偶然にしてはできすぎてやしないか?」

 ダルイソが言った。

「いや、そうでもないだろ。王立でもクラニオでも斥候ができる人間は限られている。とびきり優秀なら観測手になるだろうし、残った人間を集めれば必然的にこのメンバーに落ち着くってわけだ。不思議でもなんでもない」

 バンダーが言う。

「また揃ったのも何かの縁だ。騎獣が大聖堂に入りたがらないせいで予定が狂ったんだ。どうだ、協力して皆でやらないか?」

 ダルイソが提案する。

「ああ、俺たちは問題ない、だろ?」

 バンダーはオドゥンゼと同意した。途中二手に別れる必要はあったが、最初は皆で行く方が得策だろうとバンダーは判断した。

「もとよりお前たちに協力するつもりだった。どうせこんなとこには何もいやしない、アーティファクトがあったとしても潮でどれもひどい状態だろ。潮が引いている時間も限られるだろうし四人で本隊がくるまでにさっさと終わらせよう」

 DKが言った。斥候の仕事は本体が来る前に建物内に危険がないか探索し、めぼしいアーティファクトがあれば回収して中央広場に集めることだった。

三章は14まで。月に一度30日に更新しています。次回は9月30日です。

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