眼鏡っ子と野球バカ
「私さー、今度コンタクトレンズに変えたいと思ってるんだ」
「ふんふん」
「眼鏡でもお洒落なのはあると思うんだけどね、この前野球部の部室で、みんなが話してるのつい聞いちゃったんだ。『やっぱり眼鏡女ってのはちょっとひくよなー』って」
「ふんふんふふん♪」
「でね、ちょっと怖いけどコンタクトレンズにしてみようと思うんだ……ほ、ほら、やっぱり目に物を入れるって言うの、聞くだけでちょっと怖い感じしない?」
「ふふーん♪」
「ケンタ、アンタはどう思う? ……ってちょっと! アンタ! 聞いてんの!?」
「うわ!? 俺のイヤホンー! おい、アカネ! 返せよ!」
「ちょっとさ、私が相談してるんだからちょっとは真面目に聞いてよ!」
……相談? やっば、全く話聞いてなかった。 アカネのやつ、一体なんの相談してたんだ?
「ちゃんと話聞いてた?」
「お、おう! 聞いてたに決まってるだろ!」
……ま、まあ今からきちんと話聞いてたら分かるよな。
「もう……それでね、今日してみようって思うんだけど、やっぱり初めてって痛そうだよね?」
「は、はじめて!?」
そ、そんな相談してたのかよ、こいつ!?
ってか何で俺なんかに相談してくるんだよ!?
「そうなんだよ、やっぱり初めてってすっごい痛いって聞いてるからさー。ユッコもエミも痛かったって言ってたし」
「は、え!? ユッコとエミってもうやってんの!?」
……うあ、ショックだ。エミは俺の憧れだったのに……。
「見れば分かるでしょ?」
「うぇ!? 女ってやったかどうか見てわかるもんなの!?」
「はあ? ……ああ、確かにずっと前からやってる人は分からないかもね。アキコは小学生の時からやってるって言うし」
「しょ、しょ、しょ、小学生!?」
「初めはお父さんに大反対されたそうなんだけど、『お前にはまだ早い!』って」
「そりゃ当たり前だろ!? と、というかそういうことって親に相談するものなのか?」
「うん、当たり前なんだと思うよ。でも、お母さんの方は賛成してたみたいだよ」
「は、はあ!? お母さん、そこ賛成しちゃダメでしょ!?」
「結局、お父さんも根負けして、お兄ちゃんに連れられていったそうだよ」
「お、お兄ちゃん!? アキコって初めてはお兄ちゃんなの!?」
「へ? ああそう言ってたよ。『お兄ちゃん、入れるのすごくうまくって初めてでも全然痛くなかったー』って言ってたし」
「うあ……初めて挿れられたのがお兄ちゃんなのか……そうだったんだ……近親相姦かよ……」
うわあ、なんでかしらんけどめっちゃモヤモヤしてきた。
「なにブツブツいってんのよ? そうそう、それでね、ケンタはどう思う?」
「へ? な、なにが?」
もうさっきから驚きの連続で頭がパニックになってきた。
「だから、私はしてみた方がいいかなってケンタに相談してるんだよ」
「いやいや! アカネはしないほうがいいと思う! うん、ってか絶対にしちゃだめだって!」
「そ、そこまで全否定しなくてもいいのに。私ってそんなに似合わなさそう?」
……そ、そんないいかたすんなよ。あああ! そんなこと言われたらアカネの胸とか妄想しちゃうだろうが。
「ああ! 似合う似合わないの問題じゃないだろ! ダメなもんはダメだって!」
「なによケンタってばやな感じー……あ、そうだ! 今日、あんた暇? ケンタ私と来てよ! あんたも直に見ればもしかすると考え変わるかも知れないでしょ?」
「は、はあ!? 俺が行くの!? ってか初めてが俺でいいの?」
「や、まあ別に嫌ならいいんだけど」
「嫌じゃない! むしろ大歓迎! いついくの? 放課後? や、今から行こう! すぐ行こう!」
「な、なによケンタ、さっきまでものすごい反対してたのに……あ、そっかそっか。ふーん、なるほどね」
なんだ急に、突然納得しちゃって。そりゃ健全な高校1年生なんだからやろって言われたらやりますよ。
「ケンタも入れてみたいんだね」
「そりゃもちろん! 挿れることができたら俺のマイバット、ぶんぶん振っちゃうんだから!」
「そ、そんなにうれしいんだ……うん、一生懸命(野球のバットを)素振りして上手くなってね」
「素振り!? いや、アカネさん、どんな生殺しですか!? さっき俺にさせてくれるって言ったじゃん!」
「や、別にケンタにしてもらおうと思ってないし。自分のは自分でやるよ。ケンタも自分のは自分でやりなよ」
「はあ? なんで2人で行って1人でやるんだよ!? どんだけアブノーマルなプレイがお好みなんだよアカネは」
「そんなにアブノーマルかなあ? ま、とりあえず今日は下見だけにしときましょ」
「うわあ……めっちゃ俺のバットテクニックを披露したかったのに……なんなんだよそれ……」
「うんうん、ケンタ、上手くなればいくらでも本番でできるだろうから、頑張って!」
……な、なんだよそれ。これだけ期待させといてその返事ってありえなくないか?
も、いいや。アカネに期待したのが間違いだったんだ……。
「ケンタ? おーい、ケンタ? ……ありゃ、ふて寝しちゃってるよ。私なんか変なこと言ったかなあ?」
……なんかブツブツアカネがまだなにか言っているが手で耳を塞いで聞こえないようにする。
「あ、電話だ……もしもし? あ、タカシ先輩! お久しぶりです〜、今何してるんですか? え、競馬? もお、真っ昼間から何してるんですか、ちゃんと大学行ってくださいよ」
……何がだめなのかな? アカネ、俺が好みじゃないとか、好きなやつがいるとか……いや、そんな話聞いたことないし。
「……はいはい、小言はもう言いません……ええっ、次のレースを予想してくれ!? やですよ~、この前当たったのは偶然ですってば。……だからやですって……しょうがないですね、外れても恨まないでくださいよ? ……ふん、ふん……なるほどー……そうですねー…」
……うん、ここはいっちょアカネの好み聞いてみるか。
「アカネ、アカネの好みのタイプってどんなのだ!?」
「たんしょう一番!」
「どええっ!!?」
こんばんは、ルーバランです。
この話を書いている最中に「アキコ」という差出人から迷惑メールが届き、つい笑ってしまいました。
ところで、コンタクトレンズって痛いんでしょうか? ずっと眼鏡なのでわかりません。
それでは。