乙姫と薄い本と玉手箱
B…ボケ T…ツッコミ
B「ああ、どうしよう!」
T「どうなさいました、乙姫先生」
B「聞いて、タイ娘! このままだと原稿が間に合わないの!」
T「あっ、コミケに出す薄い本ですね」
B「印刷所の締め切りが近いの! ペン入れ3ページしか終わってないの! このままだと薄い本が極薄本になっちゃう!」
T「極薄でもよろしいのでは?」
B「だめ、この作品はフィニッシュまで描きあげる! 乙姫の名にかけてッ!」
T「ではいかがでしょう、内密で竜宮少女隊に手伝わせては?」
B「もう手伝わせたの! でもあの娘たち、私の原稿見たら魂飛びでちゃって、今も白目むいて昇天してるの!」
T「ほう。その原稿は後ほどお見せ頂くとして、助っ人をお呼びしましょう。お友達の鶴女様でよろしいですか?」
B「あっ、鶴ちゃん! でもね、彼女、決して部屋を覗いてはいけませんって念をおしてコミケの原稿描いてたのに、旦那に見られちゃったんだって!」
T「そ、それは……大変ご愁傷様でした。その後どうなりました?」
B「鶴ちゃん、鶴女から雪女にクラスチェンジして、何もかも雪にうずめて、あてども無い旅に出たらしいわ」
T「その時の心情を察すれば、まこと無理もありませぬ」
B「困ったわ、他に誰かいないかしら」
T「では金太郎様がよろしいかと」
B「えー、あの子まだ子供でしょう? 犯罪にならない?」
T「大丈夫です。金太郎様ならつい先日18になりました」
B「えっ、18! 金太郎が!?」
T「はい、金太郎様が、18に」
B「それってつまり」
T「ええ」
B&T「「18キン太郎!」」
B「なんてこと……まさにうってつけの人材だわ。むしろ業界の申し子じゃない」
T「さようかと。ではお呼びしておきます」
B「うん。あとね、背景描くのが上手いアシさんいないかな?」
T「先生の作品、背景の九割がバラとかユリでしたね。花咲か爺をお呼びしては?」
B「それだわ! あの超絶テクの爺さんに任せれば、全カットが朝露に濡れたバラで満開になる! 至急お呼びして!」
T「承知致しました。他に御用は?」
B「あと、コラボしてくれる先生がいたら完璧かな。短い作品でいいから」
T「それでしたら天の邪鬼先生などいかがでしょう?」
B「えっ、天の邪鬼先生って気難しいことで有名じゃない。大丈夫なの?」
T「はい、こう依頼いたします。武蔵と小次郎を決してカップリングせず、爽やかで清らかな青春大作を描いて欲しい、と」
B「タイ娘、あなた天才ッ!?」
T「恐れ入ります」
B「いける、希望が見えてきた!」
T「む、このオーラは? 先生お静かに。竜宮城に何者かが近づいております」
B「え、誰?」
T「これは……少しも融通の効かぬ頑固親父のオーラ。間違いありません、先生のお父様です」
B「うそッ! あわわわ! 私が薄い本を集めてたり、ましてや描いてるなんて絶対知られるわけにいかないわ! お父様はとっても古風で厳しいの! 急いで危険なブツを隠さないと!」
T「お父様の側に犬の気配が……きっと薄本探知犬です。その辺に隠しても間違いなく見つかります」
B「どどど、どうしようタイ娘!」
T「そうですね、では竜宮城に永く逗留中の浦島様をお呼びしましょう」
B「浦島様を呼んでどうするの?」
T「この玉手箱に先生のブツを詰めこみ、城の外へ持ち出して頂くのです」
B「タイ娘、あなた天才ッ!?」
T「恐れ入ります。それでは急ぎ浦島様をお呼びします」
B「お願いね!」
☆ ☆ ☆
T「乙姫様、この浦島をお呼びと聞きましたが?」
B「ああ、浦島様! 実はそろそろお帰りになりたいのではと思いまして」
T「は? いや、そんなことは」
B「つきましては! こちらに玉手箱を用意させて頂きました。はい、どうぞ。いいですか、この箱は決して開けてはいけません。そうです、絶対に開けてはいけません。開けてはいけませんよ? 開けるなって言ってるだろーーーッ!」
T「な、中に、何が?」
B「さ、お帰りはあちらです。この亀にお乗りください。さあどうぞ。どうぞどうぞ。早く乗らんか! おりゃあ!」
T「うわッ! 乙姫様! 乙姫様~~~ッ!」
☆ ☆ ☆
B「ふう、なんとかうまくいったわ。ありがとうタイ娘」
T「恐れ入ります」
B「あのね、今思い出したんだけど、昔、お母様もお客様に玉手箱を差し上げてたの。決して開けてはいけませんって言ってね」
T「さようで」
B「子供心に不思議だったわ。どうして開けちゃいけない箱をあげたのか、ず~っと謎だったの」
T「謎は解けましたか?」
B「謎はすべて解けたーーーーーッ!!」