勇者パーティに未練はありませんの〜彼が振り向いてくださるような最恐悪役令嬢目指してまず高笑いですわ~
「あなたが好きなのです、お付き合いしていただけませんか」
「……すまん」
わたくしの必死の告白は、こうして不発に終わりました。
いいえ、この方は剣聖さま。
引く手数多のモテモテさんです。
お姿は使い古された肩鎧と長剣のみと武骨ですが、お顔は精悍、パーティー一番の健啖家で、とても素敵な方ですもの。
こんな結果も予想はしていたのですわ。
でも…… 諦めきれないわたくしは、つい聞いてしまったのです。
「剣聖さま。意中の方がいらっしゃるのですね」
「ああ。まだ喋ったこともない、片想いなのだが。実はな、俺は女性に上から言われるのが好きなんだ」
「……はっ?」
「お名前はなんと言ったか、ちと解らぬが。『悪役令嬢』殿だ。ああいうご令嬢に、心も身体も支配されたくてな…… この旅が終わったら紹介してもらう予定だ」
なんてこと。
剣聖さまがそのような……。
変わった趣味嗜好の持ち主だったなんて。
ならば、それならば、わたくしのこの想いは、まだ捨てなくてもよろしいのではなくて?
「悪役令嬢でしたら、どなたでもよろしいのですか?」
「うん? あぁ、気立ては知り合ってみないとわからんからな」
「そうでしたの…… では、わたくしでも……?」
最後の言葉は口の中で消えました。
もう心は決まったのです。
こうしては居られません。
「わたくし、実家に帰って、剣聖さま好みの女になりますわ!」
「え、ちょっ……」
そして、聖女はパーティーを抜けました。
この世界は、闇の中に住み着く魔族と光の中に生きる人間たちによってバランスを保っておりました。
そして、魔族の王である魔王が永き眠りより目覚め…… 人の世界へと侵略を始めた事が発端となり、人対魔族の戦争が始まりました。
とはいえ、魔族は強く、人間の中でも戦える者は少なかったため、選抜された『勇者一行』が魔王討伐へと導かれました。
王国一番の戦士を『勇者』とし、世界一の剣の達人『剣聖』を雇い、回復や防御の魔法を使える『聖女』、攻撃魔法のスペシャリスト『賢者』、遠距離攻撃の『弓騎士』が選ばれたのです。
わたくしは、聖女として魔王討伐の旅に加わっておりましたの。
でもSSSの勇者パーティであろうと、そこに未練はないのです。
まず剣聖が振り向いてくださるような悪役令嬢になるために、実物を拝見させていただかないと。
目指す目標はハッキリと、ですわ。
☆
一方そのころ。
剣聖から、聖女の告白を断ったら実家に帰ってしまったという報告を受け、勇者一行は大混乱。
実はM気質であることまで伝えるわけにはいかず、剣聖は『悪役令嬢』を紹介してもらう予定などは皆に教えてはいなかった。
聖女が抜けた穴は大きく、守りは手薄、怪我は薬を使わねばならなくなり、行動がどんどん遅くなっていった。
回復と防御の要である聖女が抜けた後は、先制攻撃か騙し討ちでないと勝てないほどに弱体化していたのだ。
☆
帰国してから、わたくしはお茶友だちでもある第一王女さまにご相談しました。
「乙女の心は暴走をするものよね、応援するわ!」
「殿方を好きになったのなら、全力をもって落としなさい」
ことの顛末を明かしたわたくしを、王女さまだけでなく王妃さままでが応援してくださる。
嗚呼、友情って素晴らしいですわ。
わたくしは元々、侯爵家の一人娘ですもの。
聖女のお役目を放棄したことを咎めるお父様も、王妃命令でほぼ黙らせてしまいました。
ついでに侯爵家を乗っ取りつつ、わたくしはこれで『令嬢』と呼んでもらえますわね。
後は本物の立ち振舞いを学ぶばかりです。
☆
勇者一行は難敵との戦いで辛くも勝利したが、これ以上の戦闘は難しいと国への助力を求めることにした。
しかし聖女ほどの回復魔法や防御魔法を使える者などなく、国からの助力は難しいという返事のみ。
それは王妃と王女によって作られたもので、王は口出し無用とされていた。
耐えきれず剣聖が事情をすべて仲間に話すまで、辛い戦いは続いたのだった。
☆
悪役令嬢と呼ばれていたのは、知った顔、それも学友でした。
まさか、あのような傲慢な態度で、言葉の端々に嫌らしさを滲ませる…… のがよろしいのでしょうか。
……いえ。
好きになった殿方の趣味嗜好ですもの、たとえ大猩々であろうと、わたくしはそのものになるだけですわ。
主従の仲が逆になろうと、妻として一生ついていくのですから。
……イヤだわ、そんな、妻だなんて。
まだ早いのですわ。
あの人の心を、奪うまでは。
「まずは高笑いから練習ですの。お、おーっほっほっほっほ……」
☆
次の難敵で勇者一行は負けた。
飛竜の火炎の息から逃げきれず、弓騎士が倒れたのだ。
無様に転がり火を消し、逃げ出す姿に魔族たちは嘲笑を浴びせたが、彼らにはそれを怒る余裕もなかった。
追い詰められた剣聖は、人間の街まで戻った一行に、聖女に告げたすべてを明かした。
己の性癖も、すべてだ。
既に勇者も、賢者も傷だらけで、当然ケンカにはなったがそれは空しい。
聖女がいなくては魔族に敵わない。
原因となった剣聖に説得させ、口先だけでも復帰を約束させろという賢者の提案に勇者も同調し、一行は国へと戻るのだった……。
☆
国王さまへの面会を勇者さまが求めているのはわたくしにも聞こえておりましたわ。
旅から戻ったのは戦力の拡充をして、傷を癒しまた魔王討伐を続けるのが目的、と。
要はわたくしを連れ戻すため、でしょうね。
ですから、自らその魂胆を打ち砕いてさしあげますわ。
「浅はか…… まったくもって浅はかですわっ」
「聖女、ひ、久しぶりだな」
「ウフフ、今はただの侯爵家の一人娘ですわ」
「こ、侯爵家令嬢……(ゴクリィッ)」
王城の入り口階段で、勇者一行を見下ろします。
人払いはしてありますの…… 剣聖さま。
よぉくご覧あそばせ。
「皆さま、魔族に負けて戻られたのですわね…… 情けない」
「聖女、君が居てくれたならまだまだ戦えるとも」
「はぁ?」
わたくしは口許を隠し勇者を睨みます。
これこそが、王妃さま直伝の悪役令嬢らしき振る舞いでございますわ。
「己の非力を仲間のせいにするような者は勇者ではありませんのよ?」
「う、く……」
「そして、魔術とは攻撃も守りもできるはず。身の守りに意識が割けぬのは賢者としていかがなものなのかしら」
「 …… 」
勇者と賢者を黙らせ、剣聖さまと対峙いたしましょう。
やっと、この発端であるあなたさまにお声を掛けさせていただけるのね…… 長かったですわ。
「仲間にわたくしを説得するよう言われたのかしら。としても、同じように力不足をわたくしのせいとするならばお粗末ですわ…… 恥を知りなさい?」
「いや。いざ対面して、気づいたのだ」
「け、剣聖?」
「おのれ、役目を……」
どうやら、説得させようとしていたのは事実、でもその剣聖さまの様子はおかしい……。
「見違えた。素晴らしい悪役令嬢ぶりだ…… こんなことを言うのは、君を侮っていたに他ならぬが。謝罪と、願いを聞いてほしい。聖女、キミに俺のご主人さまになっていただきたいのだ!」
「……!」
至らないところはないかと、気が気ではなかった。
しかし、わたくしの努力は!
実ったのですわ!
「剣聖さま…… その性根はいかがなものかと思いますわ…… もうわたくし、聖女ではなくってよ?」
「解っている。むしろあのままだったらこんなに…… 心を乱していない。むしろ高飛車に、罵っておくれ」
「ウフフフフ…… 喜んで♡」
「け、剣聖ぃい!?」
……かくして、勇者一行のパーティーが戦力ダウンし、魔王討伐は滞り、悪役令嬢が誕生したわけですが。
わたくし、ちゃあんと貴族としてのお役目には従いましてよ?
もう一度、剣聖さまと共にパーティーを組んで、あっという間に魔王を倒しましたわ。
その後はわたくしと剣聖さま、いえ、わたくし専用椅子とで国内外を縦横無尽に支配したり、征服したり…… 国は暗くも繁栄していきました。
これが愛のちからですわ♡
恋を実らせたわたくしたちは、元魔王城を愛の巣とし、爛れた愛欲の生活を続け、幸せに暮らしましたの。
めでたしめでたしですわ……☆
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