冬空に溺れる方法
指先から温もりが吸い取られていく、そんな日でした。大きなマフラーを口元が埋もれるほどグルグルに巻いて、小さな女の子は一人静かに空を見上げていました。
「冬の匂いがするわ」
吸い込んだ空気が鼻奥につんと痛くて、女の子はぎゅっと目を閉じました。
「これは雪かしら」
舌をちょこんと突き出せば、ふわりふわりと雪が舌の上で溶けます。物語で聞く砂糖雪のような甘さはなくて、女の子は小首を傾げました。
「火がパチパチ言っているわ」
少し離れた村の家々が暖炉でくべている薪を想像して、女の子はふわりと微笑みました。
「指が取れてしまいそうな寒さね」
かじかむ手をこすりあわせて。女の子は、はあ、と自分の手に暖かな空気を吐きました。
「きみ、なにしているの?」
ふと、優しそうな男の子の声が聞こえてきました。きっと女の子と歳が近いのでしょう。まだ少し舌足らずな声に女の子は振り向きました。
「空を見ているの」
「面白いの?」
「ええ、とっても」
不思議そうに尋ねた男の子に、女の子は嬉しそうに答えました。
「空が何色なのかを探しているのよ」
「ぼく知っているよ。晴れの空は青色だよ」
得意げに答えた男の子に、女の子は目を輝かせました。
「本当に! ねえ、だったら雨の空は何色?」
「えーっと、灰色かな」
「すてき、天気によって違うのね! 夜の空は?」
「黒色。でも夕方は赤色だよ」
次々と尋ねる女の子に、男の子は少し戸惑いました。
「じゃあ冬の空は?」
「えっと」
男の子は言葉に詰まって黙り込んでしまいました。
「寒くて、暖かい色なのでしょうね」
溢れるような言葉とともに女の子は降り積もった雪の上に寝転がりました。全身を包み込む冷たさは、体のぬくもりに火をつけているようでした。
「空に浮かぶ雲というものも、雪みたいに体が沈むのかしら。きっと私、空に溺れちゃうわ」
空を掴むように片手をかざして。目が見えない女の子はコロコロ笑いました。