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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第三章 かぐや様の覚醒(?)
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久藤巽様は追走します

わたくしは昨夜刀自様に推挙され、国守様より極秘の使命を受けた。

かぐや姫様のお輿入れと共に那加国に行き、万が一中将様が日見国との約定を破りたる時は、かぐや姫様を殺害せよとの国守様のご指示であった。


無論そのような事など出来ぬ。

かぐや姫様を命をかけてお護りするとお誓いしたのだ。

かぐや姫様は、初めてお目にかかりし時からわたくしの心を一目で射抜き、以来忘れようとして忘れ得ぬ。


初めはかぐや姫様の世にも稀なるお美しさに惹かれしが、お側近くに過ごすと、そのお心根の優しさ、目下の者も尊重し思いやる姿に感銘する。


わたくしの未熟にて月の国よりお呼びしてしまいたるが、かぐや姫様はわたくしを許し、逆に力付けて下さる。

大神官様に破門されし時も、思いがけぬ恋文を頂き、どれほど心が慰められしか。


自らの恋心を抑えられず、思わず姫様をこの胸に抱き寄せたる時も無礼を咎めず、姫様は優しきお言葉を掛けられた。

立場を忘れ姫様のお手を願いたる時は、縁を結ぶ約束まで応じて頂いた。

そのかぐや姫様をどうして害する事など出来ようか。


昨夜は侍所の曹司で如何にすべきかと思い悩み、ほとんど眠れぬ夜になった。

その夜も未だ明けぬ頃、久我根館の東門外で、大きなる法螺貝の音が響き渡った。


大神官様の醜態は思い出したくも無し。

あのような方を師としてお仕えした事すら恥ずかしき。


そのすぐ後に那加国が国境を越え、三早瀬川にまで押し寄せて来た。

出陣や避難の準備で久我根館が沸き立つ中、刀自様は片隅にわたくしを呼び、わたくしの真実の出自を明かされた。

刀自様は久我根館と命運を共にされると言う。


刀自様は久我根館が陥落した時には逃げよと言われたが、何処に逃げればかぐや姫様が見つからずに済むのか。

悩みつつ、刀自様に指示されしかぐや姫様の警護に就くべく北の対に向かう。

北の対の入り口に控える栗山六郎様に一礼し、侍女に刀自様の許し状を示してかぐや姫様に案内を乞う。


北の対でも侍女が忙しげに働いている。

妻戸も開き、格子も上げてあるので中は明るい。

侍女のまつ様が来られる。


「わたくしは国府に向かう準備をしておりましたが、刀自様のお居間にはかぐや姫様はいらっしゃいませぬ。すずと塗籠に入られているかと.........あれ、すず、かぐや姫様は何処においでか?」


「わたくしは塗籠で置いてゆく物の片付けをしておりました。かぐや姫様はまつ様と刀自様のお居間におられたのでは?」


わたくしの喉の奥から、何やら苦き塊がせり上がりて来る。


「かぐや姫様!かぐや姫様!誰かかぐや姫様を見た者はおらぬか」


「そういえば先程、三の殿様の侍女と何やらお話されておられました」


「三の殿様が北門の側で、馬を連れて立たれていらっしゃるのを見た婢がおります」


わたくしは直ぐに栗山様に駆け戻る。


「三の殿様の侍女はここを通られたか」


「はい、以前にもかぐや姫様に三の殿様のお文を届けられた侍女でした。様子が普通の侍女とは異なっておるので、間違い有りませぬ」


「それで、その侍女はいつ頃帰られたか」


「そういえば、未だ帰られておりませぬな」


それだけを聞くと、わたくしは急ぎ東門より走り出て、馬場に繋がれしわたくしの馬に飛び乗る。

幸いにも出撃の準備で馬には鞍が置かれてあった。


大道に出ると、北は遥か山道に掛かるまで人や荷車で一杯で、馬が走る余地も無い。

三の殿らしき飛び抜けて背の高い武者の姿も見えぬ。

大道を行く荷車を押す民も諦め顔だ。


「これ、この道を異国風の殿方が通られなかったか?」


「あぁ、先程通られました。旗竿の如き背が高く髪の白き殿様が、武者と南に行かれました」


「そう、そう、やはり髪の白き女人が、馬に二人乗りしておりました」


わたくしはその言葉を聞きて、馬を南に向ける。

しかし、三の殿高至様が南の那加国に行かれたとは思えぬ。

行くとすれば、母君様の母国鹿耳国であろうし、日見国の大使となりて鹿耳国に行かれる許可状もお持ちのはずだ。


確か、栗山様のお館の横に、西関様のお館に通じる抜け道があったはずだ。

刀自様の警護をして、この辺りには何度も来ている。

その道を行かれたに違いない。


横道に入ると、道は狭くなるが、人通りはほとんど無い。

道に何頭かの新しき馬の足跡が見えるのも確信を強くする。

かぐや姫様は馬に慣れておられないし、女連れであれば全速力では走れまい。


馬をできる限りの速さで走らせる。

顔に木の枝が掛かるのなど構ってはいられぬ。


すると、前方で剣戟(けんげき)の音がする。

道の角を回ると、三の殿高至様が十人ほどの武者に取り囲まれているのが見えた。


「巽様!」


かぐや姫様の叫ぶ声が聞こえた。



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