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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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東の館の大熊様

屋敷の外から何人もの人が集まって来るような物音がしていたけど、しばらくすると廊下にドシドシと大きな足音が聞こえる。


「暗いな、今宵は満月じゃ、妻戸を開けい」 


野太い声がすると、廊下に面した妻戸が開けられた様子で、冷たい月の光がサァッと部屋に差し込んだ。

目が暗い部屋に慣れていたのか、それだけで部屋が少し明るく見える。


ずいっと部屋に入って来て、真ん中辺りにどしんと座ったのは、まるで熊のような様子の男だ。


黒い烏帽子を被り、真っ黒の毛皮のベストのような物を羽織って、何より黒々と太い眉と、モミあげや口元、顎の辺りまで真っ黒でモジャモジャのヒゲに覆われているので、人と言うより恐ろしい大きな動物のように見える。


「お館様!」とすずちゃんが平伏したので、この熊が西の館のご主人様なのだろうか。

顔は濃いけれど優しそうな三郎様とはあまり雰囲気が似ていない。


お館様の後ろから、三郎様と巽様と言う若い神官や供の者も部屋に入って来る。

皆が座って落ち着くと、しばらく黙っていたお館様が名乗った。


「あぁ......うむ......我は東の館の(ぬし)にして、名を此春大熊(これはるおおくま)と申す」


西の館じゃなくて、東の館のご主人様なのですね。

そして、身体だけじゃなくて名前まで熊ですか、どんだけ熊が好きなんだろう......と、ぴったりといえばぴったりの名前に呆れていると、


遠国(とおつくに)より参られた『かぐや姫』なる姫御子(ひめみこ)におわしましょうや?」


その熊は大きな声で言うと立ち上がって、几帳の端を掴んで片寄せてあたしを覗き見た。


「......っ......熊?......!」


あたしはびっくりして少し後じさりしつつ、瞬きもできずにお館様の熊顔を見つめた。


「これは!......聞きしに勝る見目好い姫御子じゃ、何とも清らかに美しい......身も心も(とろ)ける心地とはこのことぞ......」


なんて言うので、あたしはこの時代の美的感覚が絶対おかしいって確信した。


だけど、お館様はそのままぐいっと近づいて来て、


「我と(えにし)を結ばば、我が姫として宝と奉りましょう」と言い放ち、あたしの着物の裾を掴んだ。


えっ、これ絶対ヤバいこと言ってますよね......お館様は一体何歳ですか?どう見ても五十歳以上に見えるんですけど!

それにあたしまだ十五歳なんですけど!


あたしの側に居たすずちゃんを見ても平伏しているだけだし、誰も助けてくれそうになくて、あたしはすっかりパニックになって掴まれた袖を振り払うと、その衝撃で、巫女の着物の袖に入れていたスマホが転がり落ちた。


「あっ!あたしのスマホ!」って慌てて掴んだら、スマホのライトがピカーっと光った。


「おおおーっ!......何事ぞ!......かような光は......」


薄暗い部屋の中で突然明るい光が現れたせいで、周りの人達がどよめく。


一瞬だけ躊躇ったお館様は、またあたしの側に近寄って来ようとするので、あたしはスマホを印籠のように掲げ、お館様の顔に向けて照らした。


「来ないでっ!あたしは『かぐや姫』なんだから!......月の国から来たかぐや姫よ!......あたしを触って傷つけたら、月からたくさんの家来が来て、この国なんかあっと言う間に滅亡よ!ミサイルだって飛んで来るかも!」


とにかく思い付くだけの脅し文句を叫ぶ。


「月の国の御家来とな!」と、お館様が手を引いて動きが止まった。


「無礼である、お下がりなさい!」


今がチャンスと思って、あたしはさっき侍女がすずちゃんを叱った言葉をそのまま使ってみると、嬉しいことにお館様が引き下がった。


「これは、失礼をつかまつり申した......」


しばらくお館様は黙って何か考えている様子だったけれど、神官の巽様に何事か言い付けると、他の人達を連れてぞろぞろと部屋を出て行った。


すずちゃんに訊くと、熊のお館様は三郎様の父上で、西の館のすぐ近くにある東の館に住んで居るのだそうだ。


廊下を遠ざかる足音が消えると、静けさが戻ったこの部屋に残ったのは、あたしとすずちゃんと神官の巽様だけだった。






お館様は思ったことはすぐに実行するタイプの熱い(?)男なんです。

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