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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第二章 久我根館のかぐや様誕生
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久我根館の刀自様の深い悔恨

我は久我根館の刀自なれば、日毎に持ち込まれ来る様々な物事の裁定を行い、久我根一族の安泰に常に気を配りおる。


只今の懸案は、巽様が毒の矢を受けし時、護り袋が裂けて転がり出たる黄金の護符だ。


手に取ってみれば、毒の矢で端が少し削げたれど、紛れもなく八咫烏が刻印されし久我根一族の黄金の護符に相違無い。

護符を包んだ和紙は少しささくれて時が経った物に見ゆるが、護符は変わらぬ黄金の輝きを放っておる。


それにしても、巽様は如何にして久我根の黄金の護符を手に入れられしか。

久我根一族の誰かより奪い取りし筈もなく、護符を失くした者が有るとも聞かぬ。


巽様はまだ身体が癒えねば、巽様が生まれし時より侍女であったかえでを、人払いして呼びて尋ねる。


「......お呼びと......お聞きいたしまして......参上......致しました......大層......遅くな」


「ええい、今日は急いでおるのじゃ、挨拶は抜きで、直ぐに答えよ」


かえでは相変わらず馬鹿丁寧が着物を着たような調子で、長々とした挨拶から始める。

ゆるゆると話すことが相手への敬意と信じておるようだが、刀自は七面倒くさき物言いは好まぬ。


「この護り袋に見覚えはあるか?」


巽様の胸元から滑り落ちた護り袋を、かえでに渡す。

毒の矢に真ん中を貫かれて穴が開き、中の和紙も裂けている。

かぐや様の恋文は予め除けてある。


「はい、これは巽様のお護り袋でございます。

亡くなられた母上様よりお譲り頂いたものでございます」


「中の護符は見覚えがあるか?」


「失礼いたします」と言って、かえでは和紙に包まれた護符を開けて見ると、頭を傾げる。


「これはおかしな事でございます。亡くなられた巽様の母上様がお持ちの護符は、白金(しろがね)造りの四角い護符に、藤の花房の刻印でございます」


「藤の花房の刻印とな」


「はい、それに白金の四角い護符でございますので、これではございませぬ。何故この黄金の丸い護符に入れ替わっておるのでしょう」


「これは他言無用と心得よ。

この黄金の護符は持つ者を護り、久我根一族と証拠(あかし)する、神の力の添えられたる黄金の護符ぞ。久我根一族以外は持つことも適わず、他人に秘すべき有り難き護符なり。

巽様がこれを持たれし訳に何か心当たりはあるか」


「......はい......姫様が久我根様の郎党の方と関わりを持たれしは、ただ一度だけございます。

今まで刀自様にも本当のことを申し上げずに参りました。

長き話となりますが、宜しいでございましょうか」


「構わぬ。詳しく話すように」


「姫様はお生まれになった都のお貴族様のお屋敷で、一度だけ東国の若武者様とお逢いしたことがございます。

その年は長き冬が続いて雪解けが遅れ、久我根様の都へのご到着も遅くなり、お貴族様のお屋敷にご滞在された日数は短き年でございました。


その若武者様は、先代の久我根様の従者のようでしたが、初めて見るお顔で、お名前は存じ上げませぬ。

都のお貴族様のお屋敷においで下された時に、若武者様はたまたま廊下で姫様と出会われたのでございます。

お互いに一目見ただけで懸想され、久我根様の歓迎の宴の夜に密かに身を窶(やつ)した若武者様が姫様とお逢いになりました。

その一夜の密かなる恋慕の熱によりて、巽様はお生まれになったのです」


(......あの大雪の年、先代の久我根様と共に都に行きし者の中で、久我根の黄金の護符を持ちしは......その年に成年となり、初めて都へ行きたる太郎のみ......)


我は心中で呻いた。

では、巽様は刀自が息子、太郎のお子だということか。


「その夜が明ける前に、若武者様は部屋を出て行かれました。

身を紛らわす為に、都の従者の衣服を付けられていたのでございます。

ところがそれから後朝(きぬぎぬ)の文の使いは無論の事、何一つ、お言付けすら無かったのでございます。

わたくしも久我根様のお供の中に見つけらるれば、と懸命にお探ししたのですが、その若武者様を見付けることは叶わぬことでございました」


もし、それが太郎だとすれば、何故そのような薄情を為したのか。

行きずりの遊び事などせぬ子であったに。


「姫様は便りの無き事に泣かれて、最早若武者様に捨てられつるか、或は人の形した惑い神の仕業かと、護り袋を握りしめて思い悩んでおられました。

思えば、その夜に互いの誓いの印として、護符をお取り替えなさったのかもしれませぬ」


太郎は都より帰る道で盗賊の一団に襲われ、戦いの中で深手を負って急流に落ち、行方知れずになったという話ではなかったか。

それゆえ、太郎が持ちし久我根の護符も失われたと聞いたのだが、話が合わぬ。

当時を知る従者を呼びて、今一度訳を聞かねばならぬ。


「次第に姫様のお身体が尋常ならざるご様子となり、父君様は父の知れぬ子を産むつもりかと酷くお怒りになられて、急ぎ差配せる年寄りの官吏様に姫様を嫁されたのでございます。

わたくしは姫様の恥になることと思い、刀自様にもこれを秘しておりました」


今になりて言いしは詮無き事なれど、もっと以前にこの話を聞きせば、巽様の処遇を変えずには置くまい。

しかも刀自は今も忘れぬ太郎の忘れ形見の孫を、身近に置きて久我根の統領に相応しき者として教え育てることも出来たのだ。


「実は巽様がお生まれになった後で、都のお貴族様の警備の者から、その武者様の経緯(いきさつ)を聞く折がございました。

あの夜、姫様のお部屋からお帰りになった若武者は、初めてのお屋敷で帰り道を迷いしか、警備の者に見つかりて捕縛されたのでございました。


若武者様は酷く尋問されても一言も喋らず、懐からはお貴族様の護符まで見つかれば、何事か怪しき盗賊に違い無しと、その場で打ち殺され都の外に投げ捨てられしと聞き及びました。

あまりの無惨さゆえ、わたくしは姫様にもその事は話しておりませぬ」


何と言うことか。

刀自が自慢の太郎は、賊と戦いて命を失いたのではなく、無惨にも盗賊として警備の者共に打ち殺されしか。

身を護る久我根の黄金の護符も無く、供もなく独りで無念にも消え去りしか。


「姫様は久我根館に行けば、或は従者の若武者様の事がわかるかも知れぬと希望を持たれて、遠き東国にまで旅される決心をなさったのでございます。

しかし長い道の半ばで、姫様はお亡くなりになりました。


わたくしも久我根館に参ってから、都で行方知れずとなりたる従者の若武者様がいらしたかと、密かにお尋ねしてみたのですが、そのような従者の方はおいでになりませぬ。

久我根館の太郎様は都よりのお帰りの時に盗賊との戦いで亡くなられたとお聞きしたので、無論太郎様の事ではございませぬ」


我は余りのことに呆然として、口がきけぬ。

太郎のみならず、その忘れ形見の孫の巽様をすら、刀自の身代わりとして失いかけたのだ。


もし、巽様を失いし後にこの事が明らかになれば、どれ程の悔いが残ったであろう。





巽様は太郎様の忘れ形見のお子様と刀自様は悟られたのです。

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