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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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かぐや姫降臨

突然の雷雨の中、轟音と閃光に打たれて気を失ったあたし。


はっと気がついて周りを見回すと、そこは薄暗い神社の(やしろ)の中で、そしてザワザワと人の気配がある。


「えっ、何?...えっ...」


あたしは尻餅をついた姿のまま思わず固まってしまう。

あたしの目の前1メートルぐらいに居るのは、烏帽子をかぶり白い神官装束の男で、片膝をついて鋭い眼差しであたしを凝視している。


切れ長の涼しげな瞳、意思の強そうな眉、精悍にひき結ばれた口元、それはもう少女コミックでしか見たことのないような若く爽やかで美しい神官だ。


その後ろには、たくさんの男達が並んで座っていて、みな驚いたように目を見開いたり、あんぐり口を開けてあたしをじっと見つめている。


幸か不幸か、こんなに多くの男達からまじまじと見つめられたことなんかない。


あまりの視線の強さにたじろいて、思わず立ち上がってその場から逃げ出そうとしたら、目の前の神官が腕を上げてあたしを制して、


「お待ちください勝利の女神様、何とぞ我らに(いくさ)の必勝のご聖託をくだされませ!」と懇願して平伏した。


勝利の女神ぃ? 何それ違うから、巫女姿だけど、あたしはただのアルバイトだから。

それにそこにいる人達の言葉使いやら格好を見たら、平安時代ですかって突っ込みたいけど、もしかして本物の平安時代ですか!


どうしよう、とんでもない所に飛ばされたかもって狼狽えて、


「あ、あ、あたしは、勝利の女神様じゃありません。」


と頭をブンブン振ったら、戸惑ったようにその神官はあたしを見上げる。


「それでは、いずれの姫御子におわしましょうや?」


「姫御子?......姫?...そう、あたしは『かぐや姫』よ!」って、つい言っちゃったんだよね。




「かぐや姫...かぐや姫様......」


それを聞いて呆然とする神官の後ろから、ずいっと一人の男が進み出て来ると、


「我は西の館の三郎と申す者なれば、かぐや姫様は我が館にてしばしお休みくだされませ。この社では几帳なども無く、あまりにも姫様に失礼に存じますゆえ」


あたしは周りを縄で囲まれた結界のような小さな舞台の上に居たのだけど、確かにここではみんなから丸見えだ。


西の館の三郎と名乗った男は、がっしりとした筋肉質で背が高く、真っすぐな太い眉とくっきりとした二重瞼の、いかにも武者らしい出で立ちなのに、どこか優しげで、あたしと目が合うとにっこりと微笑んだ。


この時代の男性の年齢はよく分からないけれど、30歳くらいかな、神官よりは年上の感じで、美男のタイプは違うんだけど、とってもステキなおじ様って感じだ。


三郎様は後ろに控えて居た供の者に命じて表着(うわぎ)を持って来させると、ちょっと頭を下げ、「失礼を致しまする」と近づき、あたしの頭からふわりと表着を被せた。


ちょっとでも顔が隠れた感じで、あたしは少しだけほっとする。


三郎様は後ろを向いて、若い神官や他の二、三名となにやら相談し、


「では、我が館に案内(あない)致すゆえ、ご一緒に参られよ」


と言うと、奥の方から侍女のような中年の女性がしずしずと現れて深々と一礼し、ゆっくりと手を差し出したので、あたしはその手をとって少しだけ高くなっていた舞台から下りた。


木々に囲まれた神社の社の階段を下りると、周りは既に真っ暗で、社の左右に置かれた篝火(かがりび)だけが揺れる炎を撒き散らしている。


あたしがアルバイトしていた神社の周りの様子と似ているような気もするけど、昼間ではないだけで違って見えるのだろうか。


あたしの前を松明を持った供の者が道を照らし、侍女に手を引かれて歩くのだけど、なんでこんなにゆっくりと歩くんだろう?


いくら運動神経最悪のあたしでも、もう少し早く歩けるんだけど、と思いつつ、まぁ、慣れない袴着て履き慣れない草履履いて山道を歩くんだから、転ぶよりは良いのかな。


ゆっくり歩いていた割りにそれほどの時間もかからず、柵に囲まれた屋敷のような所に着いた。





自分の意図した勝利の神様と違った姫を召喚してしまった神官は、とっても狼狽えてしまったのです。

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