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山椒の書置きどころ。  作者: 山椒
不完全な学園生活
9/9

choice2:誘う。

「小橋さんも、僕たちと一緒に行きますか?」

「ッ⁉」


 僕がチラチラと見ている小橋さんにそう言うと、小橋さんは心底驚いた表情を浮かべている。小橋さんは自分が見ているということに気が付かれなかったと思っていて、こちらから声をかけてくることが想定外だと思っている様子だ。


「僕の他に先約がありましたか?」


 僕の言葉に小橋さんは首を横に振った。


「それとも僕と一緒に行きたくないだけですか?」


 僕のその言葉にも小橋さんは首を横に振った。


「それなら、僕と一緒に行きますか?」

「う、・・・・・・うん、行く」


 二度目の僕のお誘いに、小橋さんはためらいながらも頷いた。そして、今更であるがそのことを一部始終見ていた加茂さんに一応確認しておく。


「そういうわけです。小橋さんも一緒に行きますが、大丈夫でしたか?」

「・・・・・・事後報告っすか?」


 加茂さんは少しばかりすねた表情をして文句を視線で送ってくる。どうしてこんな女を誘ったのか、と。


「ダメでしたか?」

「べ、別に、ダメと言うわけでは・・・・・・」


 小橋さんが加茂さんと同じようなことを、加茂さんは理解している。そこを理解しているがゆえに、強く反対することができないんだと推測する。


「せっかくの機会です。加茂さんと小橋さんも自己紹介をすればいいのではないですか?」


 僕は意味もないことを二人に提案する。僕の言葉に加茂さんと小橋さんは見つめ合ったが、何も会話が生まれることはなかった。コミュ障とコミュ障が遭遇しても、コミュ障とコミュ障でしかなかった。


「狡兎くん」

「はい」


 ぎこちない動きで僕の方を向いた加茂さんは、表情を固くしながら僕に話しかけた。


「友達の友達は、他人っすよ?」

「はい、分かっていましたが天文学的な確率にかけて確認しただけです」

「分かっていてやっていたのならひどくないっすか⁉」


 僕の言葉に加茂さんは食いついてきた。そんな加茂さんを無視して、僕はコミュ障の二人に問いかけた。


「僕と一緒に行かないのなら構いませんよ。来るのなら勝手についてきてください」

「い、行かないとは言ってないっすよ!」

「い、行く・・・・・・、ふへへへへ、友達と、買い物」


 僕がカバンを持って歩き始めると、二人は急いで僕の後についてきた。




 僕たちはエレベーターで二十一階から二十四階に上がった。エレベーターの中にも、腕輪の情報を読み取る機械があるため、どの階に行くかで腕輪の権限が必要になるのかもしれないと思った。


 二十四階は廊下がまっすぐのびており、左右に部屋の入り口が等間隔に奥まで並んでいる。二十四階と二十五階が生徒たちの部屋がある階で、手前から出席番号順に部屋があてられている。


「ここですね」


 僕は〝二四一三〟の部屋の前に立った。二千四百十三と読むのではなく、二十四階の出席番号が十三番だから、二十四の十三と呼ぶのが正しいのだろうと考えた。


 扉にはドアノブはなく、扉の横にある壁にタッチパネルがあった。僕はタッチパネルに触れると、僕の名前が表示されて腕輪の提示を求めてきた。指示された通りに腕輪をタッチパネルに近づけると、甲高い機械音と共に扉が自動で開いた。


「それで、あなたたちは僕の部屋に入るつもりですか?」


 いつまでも僕の後ろに付いてくる二人に問いかけた。僕は気にしないため、問いかけるつもりはなかったが、普通の反応をしておくことにした。


「あれ? ダメっすか? 友達のお部屋に初めて行く絶好の機会っすから、ついてきたんっすけど。私の初めてはどうっすか?」

「えっ・・・・・・、ダメ、だった?」


 加茂さんはすっとぼけた表情で返し、小橋さんは上目遣いで聞いてきた。


「加茂さんの初めてはどうでも良いです。入るのなら勝手に入ってきてください。ダメとは言っていませんから」

「どうでもいい⁉ 乙女の初めてをどうでもいいとはいかがなものっすよ⁉」


 騒いでいる加茂さんを無視して僕は部屋に入る。怒りながら無遠慮に入ってきている加茂さんとは反対に、小橋さんはかなり遠慮しながら入ってきている。


「うわ、広いっすねぇ」

「そうですね」


 怒っていた加茂さんは室内の広さに怒りが抜けて驚いている。中は一人暮らしの部屋とは思えないくらいの広さで、三LDKと何人で暮らすのかと加茂さんが独り言のように突っ込んでいる。


 オール電化で家電は一式揃っており、最低限の家具も揃っている。何も荷物を持ち込んでいなくとも暮らすことができる場所になっている。リビングには、僕がこの学園に送っておいたダンボールが一つだけ置かれている。


「これって、狡兎くんが送った荷物っすか?」

「そうです」

「・・・・・・これだけっすか?」

「これだけです」

「何が入ってるんすか?」

「私服と制服と教科書です」

「・・・・・・えっ、それだけっすか?」

「はい、これだけです」


 加茂さんは僕の荷物が少ないことに衝撃を受けている様子だ。小橋さんは中をじっくりと見渡しているが、ここにまだ僕は住んでいないため、初めて来た男性の部屋を観察しても意味ないと思った。


「何か他にないんっすか? ゲームとか、本とか、娯楽品とか」

「それらは学園が用意してくれるはずです。ですから、僕は必要最低限のものしか持ってきていません」

「だからって、ここまで最低限の物しか持ってこないのは狡兎くんだけだと思うっすよ?」

「それはどうでしょうか。中には何も持ってきていない人もいるかもしれませんよ? この学園では必要であるのならばすべて用意してくれるのですから」

「うーん、それはそうっすけど・・・・・・」


 何でも学園に用意してもらうことに抵抗があるため、僕の言葉に納得がいっていない。そんな加茂さんを放っておいて、僕はリビングに備え付けられているソファーにカバンを置き、一通りの家のものを見て回る。


 リビングダイニングキッチンに脱衣所、お風呂にトイレは一般家庭のそれと変わらないもので、三部屋あるうちの一つには机とベッドが備え付けられており、残り二部屋には何も置かれていない。


「本当にここに住んで良いんっすかね?」


 僕と一緒に家を見て回っている加茂さんが不安そうな声音で聞いてくる。


「そうですよ。ここに住む以外に選択肢はないのですから。何より良いではありませんか。こんな広い部屋を一人で使って良いのですよ?」

「うーん、あまり広すぎるのも考え物だと思うっす」


 加茂さんの意見に僕も賛同して頷く。これだけの広さがあったとしても、僕一人だけで使いこなせることはないからである。


「僕の部屋はこれくらいで良いでしょう。加茂さんと小橋さんは自分の部屋に行かなくても良いのですか?」

「部屋はどうせ一緒っすけど、どうせなら全員でそれぞれの部屋に行くっすか?」


 小橋さんは加茂さんの言葉に小さく頷いた。行っても良いものの、行っても特別なことはない。どうする?

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