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山椒の書置きどころ。  作者: 山椒
不完全な学園生活
8/9

choice1:適当に、それとなく。②

 ついに時刻が八時三十分になり、学園内に時間を伝えるチャイムが鳴り響いた。それと同時に教室内に、レディーススーツを着た茶髪セミロングの柔和な雰囲気の女性と大きな段ボールを持った男性が二人入ってきた。


「はーい、みんな席について! これからガイダンスを始めるよー」


 レディーススーツの女性の言葉に、席を決めていなかった生徒も次々に空いている席に座り始め、全員が着席した。


「今日から一年間、このクラスの担任を務める、大畑(おおはた)万尋(まひろ)だよ。これから一年間よろしくね。ちなみに、彼氏はいないから」


 大畑先生がウインクをして彼氏の有無を伝えると、ほとんどの男子生徒たちが盛り上がった。


「先生! 生徒は恋愛対象ですか⁉」

「愛さえあれば、年齢なんて関係ないと思うよ」

「下の名前で呼んでいいですか⁉」

「気軽に万尋先生って呼んで大丈夫だよ! あとは万尋ちゃんでも良いかな!」

「万尋ちゃん、今日の放課後空いてますか⁉」

「ごめんね、四月は色々と忙しいから」


 一人の男子生徒がきっかけで、他の男子生徒が大畑先生に質問攻めを開始したが、大畑先生は慣れたように質問をさばいていく。盛り上がっている男子生徒に対して、女子生徒は冷めているため教室内で温度差が生まれている。


「可愛い先生がいて、ワンチャンありそうだから狙ってるんすかね?」

「そう考える方が良いでしょう」


 加茂さんも冷めた表情で男子生徒たちを見ている。


「もしかして、狡兎くんもワンチャンあると思ってるんっすか?」

「まさか。僕にそんな恋愛感情は一切ありません」

「そうっすか! それは良かったっす!」


 僕の答えに加茂さんは嬉しそうな表情をしているが、僕の意図した言葉と加茂さんの汲み取った意味は全く別のように感じる。


「はい、質問はそこまで! 質問はまた後にして、今から呼ばれた人から先生のところに来てくれるかな?」


 大畑先生は男子生徒からの質問を一旦打ち切られ、生徒たちの名前を五十音順で呼び始めた。呼ばれた生徒は大畑先生の元へと向かい、男性二人が持っていた段ボールから金属でできているごつい腕輪を取り出して大畑先生の手で配られている。生徒たちは受け取った腕輪を物珍しそうに見ている。


「狡兎剛一くん」

「はい」


 名前を呼ばれた僕は大畑先生の前に立ち、同じように腕輪を受け取った。僕は自身の席に座り、腕輪を少しばかり観察する。腕輪であるが、手から通すことができない穴の大きさだ。隣にいる加茂さんの腕輪を見ると、僕の腕輪と大きさが違っている。この腕輪は僕専用ということになる。


 見えにくいが、腕輪の対面した二か所に縦に継ぎ目のような部分が見える。腕輪をはめる時に継ぎ目が割れるのだろうと予測する。


「これ、何っすかね?」

「さぁ、今は何とも言えません」

「私たちを縛り付ける腕輪だったり! とかしないっすかね?」

「その可能性は否定できません」

「・・・・・・冗談っすよ? 否定してくださいっす」


 加茂さんの言葉を僕は否定しない。普通の学園であれば、否定していたが、この未来学園においては否定する気はない。


「さ、配り終わったね。それじゃあ今からその腕輪について説明するね!」


 腕輪の入った段ボールを持ってきていた男性二人は、配り終わった瞬間に教室から出て行き、大畑先生が大畑先生もつけている僕たちと同じような腕輪を生徒の僕たちに見えるようにして説明を始めた。


「この腕輪はこの学園で自分だと認識するための腕輪だよ。どんな時でも肌身離さず、って言いたいところだけど、今ここで付けちゃおうね」


 大畑先生は何もないところで指を押す動作をした。すると教室内にある生徒の腕輪がすべて僕の予想通り手が通る大きさまで穴が大きくなった。


「それをどちらの腕でもいいから、腕につけてもらえるかな? 腕に通したら勝手に閉じるようになってるから」


 僕はそう言われると即座に腕輪に左手を通して手首のところに腕輪を持ってきた。手首のところで腕輪は自動でしまった。僕の様子を見ていた加茂さんと小橋さんも僕と同じように腕輪を装着した。


「さ、みんな腕輪をつけたかな? ・・・・・・高梨くん? つけてないことはちゃんと分かるんだからね?」

「ッ! す、すみません、すぐにつけます」

「うん、よろしい!」


 一人の男子生徒が腕輪をつけていなかったようだ。それを大畑先生に指摘され、慌てて腕輪をつけた。そして再び大畑先生が何もないところを見て、何度も頷いて生徒たちの方に顔を向けた。


「よし、みんなつけてるね。じゃあ説明しようか!」


 ほぼ全員が腕輪に興味津々な中、大畑先生から腕輪の説明が始まった。


「さっきも言ったけど、この腕輪は自身を示すために必要なものなの。だから、失くさないようにどんな時でもこれを取ることはできないようになっているよ」

「えっ! お風呂とかはどうするんですか⁉」


 ある女子生徒が手を上げながら大畑先生に質問した。


「それは大丈夫。防水に加えて、どんなに衝撃を与えても壊れない仕様になっているから!」

「本当にどれだけ衝撃を与えても壊れないんですか⁉」


 今度はある男子生徒が印象を残すためか、少し張った声で質問した。


「うーん、壊れるまでやったことがないから分からないけど、爆発で壊れないほどには丈夫だと思うよ」


 学園はどうしてもこの腕輪を生徒の腕から外させたくないのだと理解した。


「この学園では、ありとあらゆる場所に入る時にこの腕輪が必要になるよ。この教室の扉でも、この校舎の中でも。今日はこの腕輪をまだ配っていないから認証システムを切っていたけれど、明日からはちゃんと認証システムを起動しているから気を付けてね」


 今日は、学園の入り口の検問所をクリアすれば、誰でもこの学園に侵入できていたのかと思った。


「まぁ、後のことは腕輪を起動させてから説明しようか。その方が分かりやすいだろうから。今のその腕輪は省エネモードになっていて、音声認識承認待ちだから、〝起動〟っていう言葉を腕輪に向かって発してみて」

「起動」


 大畑先生の言葉に、僕が一番に起動という言葉を発した。そうすると、どこからともなく声が聞こえてきた、という表現が一番分かりやすい。


『識別番号0520057、狡兎剛一。認証しました。ようこそ、未来学園へ』


 この機械音のような声は、誰にも聞こえておらず、僕にしか聞こえていない。腕輪から信号が送られてきて、そこから脳が声だと認識していると推測する。


「うわっ! 腕輪から声がしたのか⁉」

「えっ! これみんなに聞こえているの⁉」


 腕輪を起動して出る声に驚いている生徒がチラホラと見受けられる。


「うん、全員きちんと起動できたみたいだね。それじゃあ画面の説明を始めるよ」


 大畑先生がまた何もないところでタッチするような動作をすると、僕の目の前に四角い画面が投影されているように現れた。投影されている画面には、僕の個人情報が出ていたが、これも僕にしか見えていないものだと認識する。他の生徒の反応を見る限り、僕と同じ画面が投影されているはずだ。


「細かいことは説明しないけど、この腕輪から君たちの脳にアクセスして、音声やその画面を見せているんだよ。他の人にはもちろん見えないから安心して」


 脳にアクセスして、という部分に一部の生徒が声には出さないものの反応した。僕の見立てでは、この脳に干渉することは危険ではないと思っている。


「この腕輪にはメール機能やインターネット検索など、スマホでできることは基本何でもできるから時間がある時に触ってみると良いよ!」


 僕は操作方法についてまだ説明を受けていないが、僕がやりたいこと、インターネット検索を念じると別のウィンドでインターネット検索画面が出現した。未来学園と思い浮かべると、未来学園で検索がかかった。


「さて、次に操作方法なんだけど・・・・・・」


 操作方法について説明しようとした大畑先生が、チラリと僕の方を見た。そこで僕の画面が見られていることに気が付き、インターネット検索の画面を念じて閉じた。大畑先生は少しだけ口角を上げた後に説明を始めた。


「使い慣れている人なら、念じるだけで色々なことができるから便利だけど、まずは初歩的な操作を始めるね」


 大畑先生による腕輪の説明について始まった。要点をかいつまめば、腕輪の側面がタッチディスプレイになっており念じることが苦手な場合はそこからタッチすれば良い。他に、腕輪には装着者の生命状態を測る機能がついており、異常があれば呼び出されることもある、とのことだ。


「最初の説明としては、こんなものかな。この腕輪について、何か質問のある人はいる?」


 一通りの説明が終わり、大畑先生が質問の有無を生徒たちに聞くが、ほとんどの生徒が腕輪に夢中になっており、一部では会話が始まっている。僕はこの流れを乱さないために、質問することを後回しにした。


「あっ、ちなみにこっちから操作することは腕輪を外す時と生命異常が確認された時だけだから安心して腕輪を使いこなしてね! でも、テストの時は腕輪を使うことが禁止されているから、そこだけは注意してね」


 大畑先生は僕が質問したいことを丸々答え、僕の方を向いてウインクをした。僕は浅い会釈で返し、腕輪のことを十分に理解した。


「さ、これから腕輪に学園についての説明が書かれている情報を送るから、目を通しながら説明を聞いてね」


 そう言った大畑先生から、腕輪に学園についての情報が送られてきた。授業時間やカリキュラム、学園の設備の説明など、様々であった。


 資料を配り終えた大畑先生が説明を始めようとするが、全員が説明を受ける態勢になっていない。しかし、それでも大畑先生は説明を始めた。


 僕はこれからの授業レベルについて考えながら、大畑先生の説明を聞いていった。




 二千二十年四月一日(水)午前十一時四十八分


 ガイダンスと変哲もない入学式が終わり、放課後となった。放課後と言えど、まだ昼前で予定調和な時間に終わった。


 他のクラスメイトたちは腕輪を使うことで夢中な生徒や、交友関係を広げる生徒など多岐にわたっている。そんな中、僕はこの校舎の二十四階にある自室に向かうことにした。


「あれ、どっか行くんすか?」

「はい、自室に向かいます。それから部屋に必要なものを買いだします」


 僕がカバンを手に取ると、隣にいる加茂さんが声をかけてきた。僕は素直に答えて教室から出ようとしたが、僕の服の裾が引っ張られた。引っ張った張本人である加茂さんを見る。


「何か用でもありますか?」

「分かってないっすね、私がこんなところに一人でいると思ってるんっすか?」

「ここにはクラスメイトだからと言う建前で仲良くすることができる人がたくさんいますよ。これを機に僕以外の人に話しかけたらどうですか?」

「それこそ分かってないっすよ。狡兎くん以外に話しかける相手がいるわけがないっす」


 自信満々に言うことでないことを自信満々に言っている辺り、コミュ障が拗れていることを再認識した。僕がいなければ誰も話しかけられなかったのではないのかと思った。


「そうですか。なら、僕と一緒に行きますか?」

「はいっす! とは言え、最初からそのつもりっすけどね」


 僕の言葉に加茂さんは嬉々としてカバンを持って準備をする。それと同時に、僕のことをチラチラと見ている前の席の小橋さんをどうするか考える。


 彼女もまた、僕と一緒に行きたそうな顔をしている。ここで誘うか、誘わないか。

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