表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

深山より

作者: マキザキ

深山より




4月15日



 久しぶり!

 こんな形でごめんね。

 私、ちょっと体がおかしくなっちゃったみたいなの。

 センセーが言うには、「電波過敏症」って病気なんだって。

 だから私、電波のない山奥に引っ越したんだ。

 ちょうどお爺ちゃんの土地のずっと奥に、携帯の電波が一本も立たない森があってね。

 そこにあった山小屋を改築して自給自足の生活を始めたの。

 一応原付が走れるくらいの林道はあるし、最寄りの郵便局までは4時間くらいあれば着けるから、定期的に便り送るね。




4月17日



 自給自足の生活って大変だね。

 お家の近所に小川はあるけど魚は殆ど居ないから、ちょっと降りて行かないと満足な食事も手に入らないし、家庭菜園じゃ毎朝の野菜も食べられない。

 お米やパンなんて絶対無理。

 何だか急いで引越ししちゃったけど、もう少し計画的に手順を踏んでいけばよかったのかな?

 とりあえず食べられる野草とキノコ、木の実はハンドブックで分かるから、それで当分食べ繋いでいこうと思います!

 前途多難ってこういうことかな?

 でも、自分で選んだ道だから、私、頑張るね。




4月25日



 だいぶ山奥暮らしになれてきたよ。

 この森、木の実はたくさんあるし、少し川を下ればマスやハヤがいっぱいいるの!

 私、野生のヤマメ初めて見た!

 ちょっと感動しちゃった。

 ちょっと汚い話になっちゃうけど、肥溜めも作って、お家の前にちょっとした農園も作ってます。

 あ、あとね、お米はどうしても無理そうなので、月に1回、最寄りの村のお米屋さんに買いに行くことにしました。

 貯金は限られてるけど、お米以外に使うことないから、しばらくは大丈夫だよね。

 いつかはお米や麦も自給自足したいなぁ……。




5月2日



 すごい! すごいよ!

 この森って動物さんたちもいっぱいいるの!

 鹿さん、リスさん、猪さん……。あとおっきな熊さんもいたよ!

 みんなおとなしくて、木の実投げてあげたらムシャムシャ食べてたの!

 私の姿見たら逃げちゃったけど……。

 やっぱり自然が多く残ってるところだから動物さんたちも無垢で恥ずかしがり屋さんなのかな?

 お家の前に夏みかんとビワの木があるから、時々餌付けとかしてみたいと思います。

 何か恩返しされちゃったり……なーんてね。




5月15日

 今更だけど、この手紙をまだ一通も出してないことに気が付きました。

 これじゃただの日記だね。

てへぺろ。

 ところで、もう一カ月になるね。

 改めて、いきなりいなくなってごめんなさい。

 私の体質のせいであなたを置き去りにしてきちゃったこと、凄く後悔してます。

 でもきっと、このままじゃ私、あなたの人生の重荷になっちゃうから、この森で静かに暮らして、静かに終わろうと思ってます。

 時々、お庭に動物さん達が遊びに来てくれてるので、私はそんなに寂しくありません。

 だから、あなたは私のことなんか忘れて、健康で優しい彼女さんを作ってください。




5月30日



 ちょっと困ったことになっちゃった。

 このお手紙、まとめて出しに行きたいんだけど……。

 家から出づらい感じになっちゃってます。

 お庭の木が気に入ったのか、クマゾウくんがなかなか帰ってくれなくて、私の姿を見ると吼えて驚かしてくるからちょっと怖いです。

 今度あの子がいないうちに、今成ってる木の実を全部お家の中に取り込んじゃおうと思ってます。

 ジャムにでもしておけばしばらくはもつよね!




6月4日



 たすけてください。

 すごい。

 熊が家の壁をかきむしってる。

 すごくほえてて怖い

 時々やむんだけど、でも実はまだいて、走ってくる。




6月5日



 一日中いる

 帰らない

 私間違ってた。

 本当はあなたにさがしてほしかったです。

 センセイの言うことも全部信じてはいなかった。

 あなたの家にかえりたい。

 スキをついてかえる




/////////////////////




「何だ……これ……」



 アイツにあることないこと吹き込んでたクソ野郎をぶん殴って聞き出した場所。

 彼女の新居は、動物によって荒らされ放題になっていた。

 俺が彼女の家……とは名ばかりの貧相な小屋へ入るや否や、猿やネズミが大声を上げながら逃げ去って行った。

 そして、半開きの戸棚の中から出て来たのがコレだ。

 食い物じゃないせいか、手紙の束は綺麗なままだった。

 手紙は1週間前に書かれたものを最後に、それ以降のものは見当たらない。

 

 慌てて小屋の周りを調べてみたが、彼女の原付は見当たらなかった。

 一瞬ホッとしたが、まだ彼女の安否は不明だ。

 俺は来た道を引き返そうと、マウンテンバイクに跨る。

 夕暮れまでには最寄りの村まで着けるだろうか。

 着いたらすぐに警察に連絡しないと……。

 そう思いつつ、ペダルに足をかけた時、生暖かい初夏の風に乗って、ほのかな獣の臭いが鼻を掠めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと怖いお話ですね! 都会っ子が田舎の生活を舐めてた感じがして怖いです。 ある意味異世界トリップと同じかも?! 無事に社会復帰できたことを祈って('_')
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ