1 目が合う
―目が合う―
心がずっともやもやする。
「明日しーちゃんのお家で遊ぶからねっっ。」
いちご飴を噛んでしまった。
「う〜〜。かんじゃった…。ゴリゴリ。」
柔らかい笑みで私を見ながら
「しーちゃん好きね〜。いちご飴は1日1つよ。そうそう。行く時スーパー寄るからその時にお菓子買おうね。」
妹がママにぎゅっとしがみついている。
「私も行く〜。ついてくぅっ。」
ママが閃いたように
「じゃあパパも誘ってみんなでお買い物しようか。」
「うんっっ。いちご飴買ってね。えへへへへ。」
だけど私がまた皆とこんな風に会話することは出来なくなった。
私が小学3年の時、お母さんお父さん妹は交通事故にあい亡くなった。私がしーちゃんの家で遊んでた時だ。1人になった私を皆は次々に"可哀想"だと言う。私にとってその言葉がすごくすごく嫌だった。
だって私を見ながらこそこそ陰で
「なんで笑わないのかな」
「気持ち悪い」
「だってしょうがないよ。家族がいないんだも〜ん」
って好き勝手に言うからね。笑わえなくなったのはあんたのせいよ。心を傷つけたあんた達のせいよ。
誰とも仲良くする。
友達と遊ぶ。
こんな事はもう出来ないらしい。
私以外が亡くなってからいい事はひとつも無い。でも私はこの家族がすきだった。だから涙を一生分ながした。
今後涙がでるだろうか。
寂しい。悲しい。
私の心はいつもそう嘆いている。
親戚の人から笑わない無表情の子なんていらない。そう言われて心がさらに痛くなる。だから高校生になった頃に、親戚がお金を出して私は一人暮らしすることにした。いい案でしょ。えへへへ。気が少し楽になったよ。
大事な物をまとめていたら、ママがいつもしてたネックレスが出てきた。急にママの優しさに触れたような気がした。四葉のクローバーの形で真ん中はピンク色だ。ママらしい色だ。懐かしく悲しい。これからは私がこのネックレスをすることにしよう。
でもなんでネックレスに今まで気づかなかったのだろう。私なら絶対見落とさないのに。不思議だ。
ちょいボロのアパートだけどなんかしっくりくる雰囲気で好きだからここにした。玄関はちょうどいい大きさ。家族写真といちご飴を一緒に置いた。片付けが終わって部屋を見わたした瞬間、私は呼吸が止まった。
窓から入ってくる暖かい風に黄色の艶がある髪がゆらされながら、私を待っていたかのようにこちらを見てる。
そしてニヤリと。
「そなた気に入った。」
えっ。なっに…が…
強い風が吹いて目を開けると、目の前にまん丸い目を輝かせて
「あんた、私が見えてるね。」
…はい。見えてます。見えてますとも。てかその耳って…狸の耳よね…。
「私はあんたの願いに引き付けられてきたのよ。」
えっ私の願い…?何か願った?何が起きてるのっっ。
「あの、はいっ。願いとは…。それにあなただれですか。なんか狸の耳はえてますけど。」
「…………」
「…………」
えっ何この無言。
「ぷっっ。あひゃあひゃひゃぁあはっ、ひゃひゃひゃ。」
ひえっっっ。めっちゃ笑ってる…。えっ笑ってる…よね…?
「ひいっっ、ふぅ。あひゃひゃ手ぇ挙げるとははぁっひゃひゃひゃひゃ。」
手、挙げてたみたい…。えっなんか恥ずかしいんだけど。スっ。
「下ろしても見てしまったからね。はぁ。あぁおかしい。ぷぷっ。」
「ふぅまぁ、自己紹介しよう。私は雪笑と言う。そして願いに引き付けられる性質を持っている。さぁ、そなたも語れ。」
胸元まである髪をゆらしながら嬉嬉としてる。
私…か。
「私は月瀬 鈴です。今15歳の高校1年生です。お菓子が好きです。性質とはなんですか。」
「ほぉ。お菓子か。ここのチーズケーキは美味しくて好きだな。」
!!分かってくれる人がいるとはっ。
「ですよねっ。濃厚なのにさっぱりしてて飽きないんですよ。」
「また食べたい。買ってこい。」
えっ。なんで。…でも食べたくなってきた。まぁ近くにあったよな。
「じゃあここで待っててください。」
「おっ!!じゃあ私はレアチーズケーキで。よろしく!」
私の机ばしばし叩かないでぇ。うぅぅ。
「じゃあ行ってきます。部屋の物いじらないでくださいね。」
「おけおけ。早く行ってこい。」
今日は暖かいな。風が心地よい。あっ桜だ。うふふ。
「やぁーー。来ないでぇ。きゃははは。」
…鬼ごっこだ。いいなぁ楽しそう。
よく公園で、妹と友達?とやったな。いや。友達と呼ぶべきじゃないね。
あれ。あの男の人浴衣だ。狸の人と似てるけど、あの人、なんてゆーか目力強っ。それに狸の人は浴衣とフリルで独特だったけど、わっ。目合っちゃた。会釈しとこう。失礼だったかな。
「ありがとうございました。」
ふぅ。やっと買えた。人結構いたな。
あっそうだ。あの人。あの人なんなの。狸だよね。重要なところ聞き忘れてた。はぁ。それに性質?の事も答えてもらってないな。
チーズケーキで頭いっぱいになっちゃったじゃん。チーズケーキ強いわね。でもいちご飴が1番っ。
また男の人いる。こっち見てて怖いんですけどっ。えぇぇぇ。
コロコロ、コロコロ。
あら。モテそうなお顔だこと。
『バチッ』
「ごめん」
えっ。まって。目が開かない。力が抜けていく。
意識が遠くなっ…て…。後ろへ倒れていくのだけは分かった。