ヒロインと王太子の和解(仮)
侍女に喧嘩を売られてから、数日後ーーーー。
「結論から言えば、貴方様が見たのは……ソリー侯爵子息の妹さんでした」
再度、カフェに顔を出したシュン(ついでに侍女もいる)は調査書類と共にわたしにそう告げた。
「…………妹?」
「えぇ。ソリー侯爵子息セイル様には、双子の妹がいることをご存知ですよね?」
「…………あぁ……」
あまり表舞台に出てこないが、ソリー侯爵家には双子がいることは知っている。
シュンは言葉を一度区切ると……なんとも渋い顔で、話を続けた。
「彼女……セイラ様は普段から、男装しているそうです」
「……………は?」
「つまり、殿下が見たのはその男装したセイラ様で。セイラ様をセイル様だと勘違いなさったんですよ」
「…………………」
「アルティナ様とセイラ様は、ご友人だそうです」
…………手渡された資料を読み、他の人の証言やら何やらの裏付けが取れていることも確認し、わたしは絶句する。
つまり、わたしはずっと……彼女の女友達といい仲だと勘違いしていたとっっっ‼︎
「は……はははは…………」
乾いた笑い声が漏れて、気分が沈み込む。
…………あぁ……わたしは何年、無駄なことを……。
「…………つーか、前回色々とありすぎて聞き忘れたんだけど」
呆然とするわたしに、侍女が険しい顔で声をかけてくる。
わたしはそちらを向かぬまま「…………なんだ……」と返した。
「なんで、私を今後も控えさせるように言ったの?」
その質問の意図が分からず、首を傾げる。
侍女を控えさせるように言ったのは……。
「…………お前が、アルティナを好いているのはどう見ても明白だった。だから、お前はアルティナを大切にするだろうし……。今後もアルティナの側にいれば……彼女に何かあった時、お前が身を呈して盾になるだろうと思って……」
「いやいやいや、ちょっと待ちなさいよっ‼︎ その言い方だと、あんたとのお茶会の時に控えるんじゃなくて、普段からみたいに聞こえるんだけどっ⁉︎」
「? そのつもりで言ったんだが?」
「「…………」」
眉間にシワを寄せ、凄まじく険しい顔でこちらを見るシュンと侍女。
そして……侍女が叫んだ。
「不器用、臆病なだけじゃ物足りず、言葉足らずでもあるのかよぉぉぉぉぉおっっっ‼︎」
二人は信じられないものを見るかのように、頭を抱える。
え、なんだ……この二人の反応は……。
意味が理解できなかったわたしを見かねたのか、シュンが侍女の言葉を解説した。
控えさせろと言った言葉は、今後も侍女をアルティナとのお茶会に控えさせろと言ったように解釈できるようだったらしい。
それどころか、わたしが侍女に興味を持ったと思われても仕方ないような、言い方だったと。
……………ちなみに、私がそう言ってしまった少し前ぐらいに前世の話をしたので、多分余計に誤解された可能性があると。
………衝撃のあまり、ぐらりと傾きかける身体。
わたしはズキズキと痛む頭に不快になりながら、思いっきり侍女に叫んだ。
「それって若干、お前の所為でもあるじゃないかっっっ‼︎」
「ぐふっ‼︎ 反論できないっ……‼︎」
侍女はバンッと拳でテーブルを叩く。
いや……地味に侍女の話のタイミングの悪さもあるが……わたしにも問題があるのも、確かだ。
本当に、わたしはアルティナ関連になるとポンコツではないか…………。
なんて救いようのない言動なんだ……。
「…………というか……アルティナを閉じ込めたいほどに好きなのに、他に好きな女性ができる訳ないだろ……」
「いや、私もあんたに好かれたくないけどねっ⁉︎ つーか、あんた、大丈夫⁉︎ なんかキャラ崩壊してないっ⁉︎ そもそも閉じ込めるとか何言ってんの⁉︎」
「……? だって、アルティナはとても美しく、可愛いじゃないか。彼女が好きだからこそ、他の者達の目晒したくないと思うのは……閉じ込めたくなるのは当然だろう?」
「アルティナ様が綺麗なのは否定しないけどっ‼︎ こいつ、考え方がヤンデレ‼︎ というか、好きだってことを素直にアルティナ様に伝えなさいよ‼︎」
「アルティナがソリー侯爵子息と仲睦まじいって勘違いしてたんだから、仕方ないだろうっ⁉︎」
ヤンデレ……? はよく分からないがっ、素直に思いを伝えられていたら、ここまで関係性が拗れていない‼︎
「やべぇ……ステラの暴走を止めるためにきたけど、殿下も中々にやべぇ……。二人合わせると余計に混沌化する……。何この、俺の中間管理職みたいなポジション。俺が指揮を取らないといけない感じ?」
シュンはわたし達を交互に見て、酷く疲れた顔で呻く。
だが、覚悟を決めたような渋い顔をするといつかのように手を叩いて、無理やり話に割り込んできた。
「話が斜め上ってきたんで、軌道修正しますよ‼︎ という訳で、二人とも黙ってください‼︎」
むぐっと黙り込むわたしと侍女。
シュンはそれを見て、「あ、言うことは聞いてくれるんですね……」と少しだけ安堵した顔になった。
「会話がバラバラなんで、ごっちゃになってましたが……まとめると。殿下とアルティナ様は両想いなのに、勘違いですれ違った。加えて、殿下の言葉足らずで余計に拗れた。ステラの存在も一因、ってことですね」
グサッと心に何かが刺さった気がするが、わたしはコクリと頷く。
「全てを丸く収めるには、殿下がアルティナ様に本音を伝えるのが一番でしょう」
「…………だが……わたしはアルティナのこととなると、かなりポンコツ化する自覚がある」
「………え、何その悲しい自覚……。えっと……じゃあ、殿下お一人じゃ心配だということで……ステラにも責任あるんで、お気持ちを伝えるのに、こいつに協力させるのはどうですか?」
「……協力?」
「ステラはアルティナ様に幸せになって欲しいんですから……殿下とアルティナ様が両片想いって知った今なら、喜んで協力するだろ?」
シュンに言われ、侍女は「……まぁ、アルティナ様の幸せのためなら……」と渋々と頷く。
…………侍女は本当に、アルティナのために動いてくれてるんだな……。
「という訳で、乙女チック思考‼︎ アルティナ様の幸せのため、なんか良い案ないっ⁉︎」
「ねぇっ⁉︎ なんか私の呼び方、変な感じがするんだけどっ⁉︎ 私、シュンの恋人だよねっ⁉︎」
「うっさい‼︎ ぶっちゃけ俺は乙女ゲームに関係ないんだからなっ⁉︎ 恋人のために巻き込まれてやってるんだから、大人しく案出しなさい‼︎」
「むむむむーーーっ‼︎」
侍女はこめかみ辺りに拳を当てると、考え込むような顔になる。
そして、黙り込むこと数分。
侍女はバァンッ‼︎ とテーブルを叩いて、ドヤ顔で叫んだ。
「敢えて断罪シーンでプロポーズ大作戦よ‼︎」
…………こんなこと言うのは場違いだとは分かっているんだが……侍女、ネーミングセンスないな。