ヒロインは最推しに幸せになって欲しい
なんだかんだと殿下との関係が丸く(?)収まり……それからというもの、ステラは何かとアークス殿下と戦っている。
主にわたくしのことで。
「はぁんっ‼︎ そんなことも分からないんですか⁉︎ アルティナ様に合うアクセサリーはシンプルイズベスト‼︎ 敢えてシンプルにしてアルティナ様本来の美しさを見せつけるんですぅ〜‼︎」
「そんなことをしたらアルティナの美しさが皆に知られてしまうだろうっ⁉︎ 色目を使う輩が出てきたらどうする‼︎」
「んなの蹴散らしなさい‼︎」
「…………二人とも、落ち着いてくださいな」
王城の応接室の一室。
隣に座った殿下と、向かいのソファに座ったステラは、殿下がわたくしにプレゼントしようとしているらしい装飾品のことでギリギリと睨み合っていた。
一体、どうしてこの二人が恋愛関係になると思ったのかしら……。
見ている限り、兄妹喧嘩にしか見えませんわ……。
「ただでさえここ最近のアルティナはわたしに愛されてる実感があるからか可愛くてっ‼︎ 邪魔な虫を排除するのに忙しいんだ‼︎ 本当は閉じ込めておきたいぐらいなんだぞっ⁉︎ これ以上、可愛くしてどうする‼︎」
「閉じ込めようとしたら、私が王子様の如く颯爽と攫って逃げるわっ‼︎ ふはははははははっ‼︎」
わたくしはバシバシと彼の身体を叩きながら、魔王ムーブな高笑いをするステラを睨む。
ちょっと‼︎ そんな恥ずかしいこと言わないでくださいませ‼︎
「というか、殿下は性格がだいぶ変わってませんこと⁉︎ 大丈夫ですのっ⁉︎」
わたくしは無理やり話を変えるようにそう叫ぶ。
すると、殿下は何を当たり前なと言わんばかりの顔で答えた。
「もう気持ちを押し込める必要がないからな。これでも君に合わせてセーブしているんだぞ? まぁ……結婚したら、それも外すから覚悟しろよ?」
ニヤリと意地悪そうな笑顔にすら胸が高鳴り、わたくしは何も言えなくなる。
その間に殿下は廊下に向かって声をかけていた。
「旦那、お前の妻を回収していけ‼︎」
「へいへい……」
ガチャリ……と扉を開けて現れたのは、茶髪の騎士様。
騎士服を纏っているのになんだか存在感が薄い……?
どこか疲れた様子の彼は、ステラに視線を向けると呆れたように溜息を零した。
「ほら、出てくぞ。殿下達がイチャつけないだろ」
「いぃぃぃやぁぁぁぁ‼︎ アルティナ様とは私がイチャつくのぉぉぉぉぉぉ‼︎」
「黙らっしゃーい」
「ふごっ⁉︎」
騎士様はバチーンッ‼︎ どっかから取り出した白い板? 板というにはなんかぐにゃぐにゃ(?)したモノでステラの頭を叩き、首根っこ掴んで連行して行こうとする。
わたくしはその瞬間にハッとして、慌ててステラに声をかけた。
「ステラ‼︎」
「はいっ、アルティナ様‼︎」
「そのっ……伝えるのが遅れてしまったけれど……ありがとう‼︎」
こうやって殿下とちゃんと想いを伝え合えたのは、彼女のおかげ。
だから、わたくしはステラに感謝を伝えたかった。
ステラはわたくしの言葉に目を見開く。
そして……嬉しそうな顔で微笑んだ。
「いいえっ‼︎ 幸せになってくださいっ、アルティナ様‼︎」
「貴女も幸せになってね」
「大丈夫です‼︎ シュンに幸せにしてもらいますから‼︎」
…………シュン?
わたくしがキョトンとすると、ステラの首根っこを掴んでいた騎士様がぺこりと頭を下げる。
そして、二人は楽しげな様子で、この場を後にした。
わたくしは隣に座った殿下に視線を向ける。
殿下は何を聞きたいかを察したのか、答えてくれた。
「先ほどの騎士は、ステラ嬢の恋人であるシュンという。実質、夫婦とも言えるな。元々、あの存在感の薄さを利用して諜報員をしていたみたいなんだが……ステラ嬢がアルティナの侍女を続ける以上、制御できる奴も必要だと思って、騎士に取り立てた」
「えっ⁉︎」
ステラに恋人がいたことを知らなかったわたくしは目を見開いて固まる。
というか……元諜報員の騎士ってなんですの⁉︎
「城下町にアルティナへ送る指輪を買いに行った時、ステラ嬢だけじゃなくてシュンも一緒だったんだがな……存在感が薄すぎて、俺とステラ嬢二人っきりみたいに勘違いされたんだ。だから、あんな噂が流れたんだろうな」
…………つまり、お忍びデートどころか他のカップルに、指輪を買うアドバイスをもらっていたいうこと?
わたくしは恥ずかしいやら、噂の真相を知って安堵したやらで言葉を詰まらせる。
殿下はそんなわたくしを見て、触れるだけのキスをした。
「ということで、俺とステラ嬢が良い仲になることはない。俺が愛してるのはアルティナだけだ。信じてくれよ?」
「うっ……はい……」
それはもうよくよく理解しております。
だって、あの日からとても甘くて甘くて……胸焼けを起こしそうなんだもの。
顔が熱くなって、両手で頬を覆う。
殿下はそんなわたくしを見て目を見開くと……目元を片手で覆って、天を仰いだ。
「はぁ……あんまり可愛い顔するなよ。婚姻前に襲ってしまいそうだから」
「だ、駄目ですわよっ⁉︎」
「分かってる。でも、我慢する代わりにキスぐらいは許してくれよ?」
「んぅっ‼︎」
殿下はわたくしの返事を聞く前に奪うようなキスをする。
…………どうやら、冷静沈着な殿下は……本当はとても情熱家らしい。
わたくしは、彼の愛に溺れそうになりながら……。
こんな風にわたくし達の仲を結び直してくれた〝悪役令嬢のおかしな侍女〟に、もう一度心の中で感謝した。