幸せになって欲しいけど、幸せにもしたかった
アルティナ様の通う学園の卒業パーティー。
そこが悪役令嬢の断罪シーン。
その話もアルティナ様にしてしまったから……きっと、あの方はそのシーンで断罪されるんだろうと思ってるはず。
だから、敢えてそのシーンでプロポーズをすることで……アルティナ様の不安を吹き飛ばすの。
良い案だよね?
まぁ、とにかく。
それから私達の忙しい日々が始まった。
王侯貴族は基本的に、商人が品を持ってくるらしいけど……大事なのは、値段よりも自らの足で探すこと。
相手を想うことが大事だよね。
だから、殿下の足でアルティナ様への贈り物を探すように指示した。
まぁ、贈り物探しの時、ちょっと気になる装飾品があって。
ぽつりと「これ良いなぁ……」って呟いたら、後でシュンがその装飾品を渡してきて、不覚にも胸キュンしました。
定期的なお茶会では……殿下は見るからに緊張してて。
私にフォローさせようと更に誤解させるような行動を取るもんだから……私達に「バカじゃないの⁉︎」とか「余計に勘違いされる行動してどうするんですかっ‼︎」とめっちゃ怒った。
クククッ……反省してる姿、ざまぁ(笑)‼︎
後、どうしてもアルティナ様のドレス姿が見たくて……殿下にお願いするのは凄く、腹立たしかったけど、土下座しながら「アルティナ様が参加するダンスパーティーに参加したい」と懇願した。
……人目があるところで土下座したのが効いたよね。
嫌々だけど、了承してもらったぜ。
でも、そのおかげでアルティナ様のドレス姿を見れたの‼︎
いやぁ、マジ女神‼︎ 超綺麗‼︎ 好きぃ‼︎
なのに、アルティナ様を見る時間を減らそうとしたのか殿下がダンスに誘ってきやがって‼︎
…………クッソムカついたから、笑顔で何度も殿下の足を踏んでやったわ‼︎
だけど……ダンスって慣れないとダメなんだね。
撃沈シマシタ。
あぁ、後……私と殿下がお忍びデートをしていると噂が流れた時には、シュンもいてどうしてよっっっ⁉︎ となったけど……シュンの存在感薄すぎるからだと分かった時には、三人で頭を抱えたよね。
地味に乙女ゲームと同じお忍びデートシナリオみたいになったけど、シュンがいるから無効ってことにしといたわ。
…………まぁ、そんなこんなで。
あっという間に卒業パーティーの日。
特例で卒業パーティーの会場に入ることを許された私は、ドキドキしながらその時を待っていた。
「いや、何でお前まで緊張してんの」
「シュン‼︎」
殿下の控え室に様子を見に行っていたシュンは、壁際でソワソワする私を見て呆れた顔になる。
………ん? お前まで?
「殿下も緊張してた」
「げっ‼︎ 一緒にされたくないっ‼︎」
「…………不思議なんだけど。お前、なんでそんなに嫌いなんだ?」
シュンにそう聞かれて、私は思わず黙り込んじゃう。
嫌いな、理由か……。
それは、多分……。
「…………同じだから、じゃない」
「…………ん?」
別に婚約してたとかじゃないけど。
前世の私も……似たように、幼馴染との関係が拗れてた。
幼い頃は仲良かったのに……思春期ぐらいかな?
どんどん距離が離れていっちゃったんだ。
きっと私も彼も互いに好き合ってたのに。
恥ずかしくて、素直に慣れなくて。
どうすればまた仲良くなれるかが、分からなかった。
だけど、そうこうしてる間に……彼には彼女ができちゃって、私は入院しちゃって。
きっと、私達が疎遠になったことで家族も疎遠になってたから……彼は私が入院したことも、知らない。
「…………きっと……近親嫌悪、だよ」
最推しの婚約者だからって理由もあるけど……それだけじゃない。
私と似てるから、嫌いで。
私と違ってまだ間に合うから羨ましくて。
だから……嫌いなんだと思う。
「………………どうせ死んじゃうなら……俊太に好きって言っとけばよかったかな……」
……………ほぼ無意識に、そんなことを呟いていた。
「………………え?」
「アルティナ・フレスト公爵令嬢」
一瞬、シュンが驚いた気がするけど……殿下の少し震えた声に私は意識をそちらに向ける。
シンッ……と静まり返る会場。
あぁ……始まった。
中央に立った殿下と、生徒達の中から静かな声で「はい」と返事をしながら出てくるアルティナ様の姿。
………私は、その二人の姿を……固唾を飲んで見守る。
「…………君に、伝えたいことがある」
「…………はい」
アルティナ様は少しだけ悲しげな笑みを浮かべるけど……そんな顔をする必要はないんですよ。
私が前世の話、ゲームの話をしたから不安にさせちゃっただろうけど……。
大丈夫。この物語の終わりは、ハッピーエンドだから。
「その……君を幸せにするから、結婚してくれ」
「謹んでお受け致しまーーーーん?」
アルティナ様は了承しかけてピシッと固まる。
おぉ……鳩が豆鉄砲を食ったよう顔も可愛い……。
というか、現状が理解できてなさそう〜。
「あぁ、良かった‼︎ 柄にもなく緊張したぞ‼︎」
あ、殿下……‼︎
まだアルティナ様が把握しきってないのに、流すつもりだっ‼︎
だけど……アルティナ様がポツリと零した質問で、それどころじゃなくなる。
「…………あの、婚約を解消または破棄するとかではなく?」
「……………………は?」
ビクリッ‼︎ ザザッ‼︎
ギョェェエ‼︎
こっちは壁際にいんのに、身震いするぐらい怖いオーラが出てるよぉぉぉっ‼︎
やっぱっ、あいつ、ヤンデレだよぉぉぉぉぉぉぉお‼︎
アルティナ様の今後が心配だよぉぉぉぉぉぉぉお‼︎
殿下とアルティナ様は近づいて、小さな声で会話を始める。
そして、少ししてから「あちゃぁぁぁぁっ、そういうことかぁぁぁぁ‼︎」って叫びながら、ソリー侯爵家の双子も加わって……ちょっとずつ和解ムードが流れ出して。
殿下が跪いて、小さなケースを取り出して、アルティナ様の前に差し出す。
遠すぎて見えないけど……そこにあるのは……。
「王家が用意する指輪もあるが、これはわたしが選んだんだ。まぁ、そういうのを知ってるのと、君の好みを知ってるのが恋敵(?)とも言えるステラ嬢だったから……彼女に色々と聞く羽目になり、何度も一緒に出かけなくてはいけなくなったんだが…………」
再度静まり返った会場に響く、殿下の声と……アルティナ様の指に嵌められる指輪。
そして、殿下はアルティナ様の指先にチュッとキスを落として告げた。
「アルティナ、愛している。だから、結婚してくれ」
「…………っっっ‼︎ はいっ‼︎ わたくしも貴方を愛していますっ……‼︎ 殿下の、お嫁さんにしてくださいっ……‼︎」
当事者じゃないけどっ、アルティナ様の幸せそうな笑顔を見た瞬間、ブワッと涙が溢れ出す。
そして、次に視界に映った二人のキスシーンに絶叫した。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎ 私のアルティナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎ 私が幸せにしたかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
……………最推しのキスシーンに気を取られてたから、気づかなかったんだ。
隣にいたシュンが……私を見つめて、泣きそうな顔をしていたことに。




